■<マレーシア機撃墜>露製地対空ミサイルで オランダ安全委

【ブリュッセル斎藤義彦】ウクライナ東部で昨年7月に発生、乗員乗客298人が犠牲になったマレーシア航空機撃墜事件について、事故調査にあたっているオランダ政府の「安全委員会」は13日、ロシア製の地対空ミサイルによって撃墜されたという最終報告を発表した。ただ、誰が撃墜したのかについては明らかにしていない。米国はロシアが支援する親露派武装勢力の犯行と断定しているが、安全委は明確な結論を出せなかった。

【マレーシア機撃墜 当時の現場の様子を写真特集で】

 刑事事件としての捜査も続いているが、特別法廷設置案が今年7月、国連安保理でロシアの拒否権により否決されており、訴追には困難が予想される。撃墜事件は安全委の最終報告で責任がうやむやなまま事実上、幕引きとなった。

 安全委は事故現場の調査や回収した機体の分析などから、ロシア製の地対空ミサイル「ブク」が使用されたと断定し、親露派武装勢力が当時支配していた地域から発射された可能性を示唆。ただ、露製地対空ミサイルはウクライナ政府軍も所有しており、ロシアの支援を受けた親露派武装勢力とウクライナ軍のどちらが発射したかは断定しなかった。

 安全委は同機が空中爆発したことから乗員乗客は即座に意識を失い、苦痛は少なかったとしている。

 安全委は機体や操縦士・乗務員に問題はなく、フライトレコーダー(飛行記録装置)、ボイスレコーダー(音声記録装置)も異常を示さないまま突然、終了したことを確認。当局から制限を受けていない空域を飛んでいたと結論付けた。

 安全委は米露などの専門家の支援を受けて調査を実施。当初は7月に最終結果を公表する予定だったが、ロシア側との調整に手間取って公表が遅れた。

 事件ではオランダ、マレーシア、豪州、インドネシア、英独などの乗客が犠牲になった。ロシアは一貫して関与を否定している。

毎日新聞 10月13日(火)




■マレーシア機撃墜:1年 遺族「全容解明を」 続く戦闘、現場訪問もできず

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マレーシア機撃墜現場に残る機体の残骸。一帯には、長さ10センチほどの金属片や折れたボルトなどが1年後の今も散乱している=ウクライナ東部グラボボで2015年7月15日、杉尾直哉撮影

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マレーシア機撃墜現場には地元住民によってぬいぐるみが並べられ、花が手向けられていた=ウクライナ東部グラボボで2015年7月15日、杉尾直哉撮影

 【バンコク岩佐淳士、グラボボ(ウクライナ東部)杉尾直哉】ウクライナ東部で昨年7月にマレーシア航空機(MH17便)が撃墜された事件は17日で1年となったが、全容はいまだに解明されていない。現場のドネツク州グラボボ村では地元住民らが追悼式を行ったが、周辺で親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍との戦闘が続くなか、遺族らは現場を訪れることもできず、やりきれない思いを抱えてこの日を迎えた。
 オーストラリアの首都キャンベラでは17日、国民や永住者38人の犠牲者をしのぶ追悼式が行われた。アボット首相は遺族らに「最悪の時にあなた方が示した強さと品位に敬服する。私たちは犯罪者に法の裁きを与える義務がある」と語った。
 190人を超える犠牲者を出したオランダでは17日、中部ユトレヒト近郊で追悼式を行った。オランダの政府機関は同日、半旗を掲げて犠牲者を悼んだ。
 マレーシアのクアラルンプール国際空港では今月11日、マレーシア人の乗客乗員43人らの追悼式典が営まれた。AFP通信によると、同便パイロットの妻アイビー・ロイさんは2人の息子らと式典に出席。涙をぬぐいながら「誰が撃ち落としたのか知りたい。(犯人を)捜し出さなければならない」と訴えた。事件で義理の祖母を亡くしたナジブ首相も参列、「忘れられない出来事だ」と語り、真相究明を誓った。
 マレーシア政府は14日、オランダやオーストラリアなど5カ国で撃墜事件の犯人を裁く国際法廷の設置を国連安全保障理事会に要請したと発表した。しかし、安保理で拒否権を持つロシアは設置に否定的で、実現は難しいとみられている。

 ◇「親露派に責任」調査報告書案
 米CNNによると、オランダ政府が主導して作成し、関係国に配布された調査報告書の草案は「現場の証拠から親ロシア派がマレーシア機撃墜の責任を負っている」と指摘している。報告書は10月までに公表される見通しだ。欧米諸国は親露派がロシア製の地対空ミサイル「ブク」を使って撃墜したとの見解で一致しているが、ロシア側はウクライナ空軍の発射した空対空ミサイルにより撃墜されたと反論している。
 オランダ政府の「安全委員会」が昨年9月に出した中間報告では、「大量の高エネルギーの物体が機体を突き抜けた」と指摘しながらも、詳細に踏み込めていなかった。
 ロシア大統領府によると、プーチン露大統領はオランダのルッテ首相と16日に電話で協議し、同国など5カ国が求めている国際法廷の設置に反対する考えを伝えた。
 撃墜現場を含むウクライナ東部情勢を巡っては、今年2月に独仏、ウクライナ、ロシアの4カ国首脳がまとめた停戦合意(ミンスク合意)が発効しているが、4月以降、政府軍と親露派の戦闘が激化している。撃墜現場は親露派支配地域にあり、ウクライナ政府主導の現地での追悼式は計画されていない。
 一方、マレーシア航空は、撃墜事件の4カ月前の昨年3月にはクアラルンプール発北京行きのMH370便(乗客乗員239人)が南シナ海で消息を絶ち、今も行方不明のままだ。相次ぐ悲劇で深刻な経営難に陥った同社は、完全国有化による経営再建を進めている。
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 ■ことば

 ◇マレーシア機撃墜事件
 アムステルダム発クアラルンプール行きのマレーシア航空機(MH17便、ボーイング777)が2014年7月17日午後4時20分(現地時間)ごろ、高度約1万メートルを飛行中に撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した。乗客の3分の2がオランダ人で、ほかにマレーシア人やオーストラリア人、インドネシア人、英国人らが搭乗していた。
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 ◇最近のウクライナの主な出来事
2014年2月22日 ヤヌコビッチ政権が崩壊
     3月18日 プーチン露大統領がクリミアの編入宣言
     4月上旬  ドネツク州など東部で親露派が政府庁舎を占拠、中旬から政府軍と衝突
     5月11日 親露派が東部2州で「独立」を問う住民投票。翌日に両州が独立宣言
       25日 大統領選でポロシェンコ氏が当選
     7月17日 ドネツク州でマレーシア航空機撃墜
     9月 5日 政府と親露派が停戦合意に署名
  15年1月    ドネツク州で戦闘が再び激化
     2月12日 政府と親露派が新たな停戦合意に署名

毎日新聞 2015年07月18日 東京朝刊