<宅地強度不足>自治体の造成責任どこまで?

気仙沼市の登米沢団地であった地盤の補強工事

  東日本大震災の防災集団移転促進事業で、住民に宅地を引き渡した後に地盤の強度不足が判明し、自治体が補強工事を実施したり工事費を負担したりするケースが出ている。造成工事が国の強度基準を満たしている場合、これまで工事費は住民の自己負担となるケースがほとんど。自治体がどこまで造成責任を負うのか、被災者にとって理解しにくい状況が続いている。
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  気仙沼市では登米沢団地(6区画)の1区画で、引き渡し後に住宅業者が強度不足を指摘。市は「国の強度基準を満たしている」とした区画だったが、擁壁工事に伴う土の埋め戻し部分が不十分と認め、市が4月上旬に補強工事をした。
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  宮城県南三陸町でも、2団地3区画で部分的に強度不足が判明し、町が補強工事をした。いずれも擁壁沿いの土の埋め戻しが原因という。
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  補強工事の財政負担をしているのが福島県新地町。引き渡し後に住宅業者が強度不足を指摘した場合、工事費100万円の9割を上限に町から補助金が交付される。4団地13区画で計1000万円ほどを交付し、町は「未着工が30区画以上あり、さらに増える可能性がある」と語る。
  一方、多くの自治体は国の強度基準を満たした場合、補強工事や財政支援に応じていない。住宅業者は造成地で地盤沈下などの補償を迫られることを心配し補強を勧める傾向が強く、住民が工事費100万円前後を負担している。
  仙台市が3月下旬に引き渡した田子西隣接地区(宮城野区、160区画)でも、住宅業者が強度不足を指摘する事例が複数生じたが、市は「住民と業者の間の問題だ」と距離を置く。同地区で住宅を建築する業者は「住民も業者も安心できる地盤を、市に提供してもらうに越したことはない」と指摘する。
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  国は昨年9月、地盤の情報提供を徹底するよう自治体に通知したが、宅地の引き渡しを待つ気仙沼市内の住民は「宅地によって不公平感が生じる状況は変わっていない。部分的でも強度不足があれば行政側で補強してほしい」と訴える。

 集団移転先 地盤補強で自己負担も 気仙沼
 
 移転者の負担で地盤補強工事が必要になっている登米沢団地=気仙沼市本吉町
 
 東日本大震災の防災集団移転促進事業で造成された気仙沼市本吉町の登米沢団地で、住宅建設の際に地盤補強工事が必要となり移転者が負担を求められるケースが出ている。建築業者から地盤の強度不足を指摘されたためで、負担は数十万円から100万円に上り、移転者から戸惑いの声が上がる。リアス式海岸の急な斜面を造成したことが主な原因とみられ、他の被災地でも同様のケースが相次ぐ可能性がある。(高橋鉄男)
◎市「問題ない」
 登米沢団地は丘陵地の斜面に6区画が造成された。住宅着工済みの3区画のうち2区画で、施工した市内の建築業者から<u>地盤にくいを打ち込む「くい基礎」が必要と指摘され、移転者が70万~80万円を負担</u>。<u>残る1区画でも地盤改良に約100万円が掛かりそうだという</u>。
 気仙沼市が造成を計画する38地区966区画のうち、登米沢団地は最も早く完成し、4月に引き渡された。
 登米沢団地の地盤強度は建築基準法に基づく一般的な基準をクリアしているが、建築業者が専門業者に調べてもらったところ<u>(1)軟らかい層が不均一に分布する(2)盛り土がある-などの理由で地盤補強が必要と判断した</u>。
 建築業者は「斜面の造成で盛り土部分ができたため、<u>住宅が沈下しないよう地盤補強が必要になった</u>」と説明する。
 登米沢防災集団移転協議会事務局長の佐藤工さん(60)は「市が造成したのだから、移転者の負担で地盤補強が必要なんて考えもしなかったし、事前に説明もなかった」と訴える。
 菅原茂市長は「国の基準にのっとって宅地造成しており、市に問題はない」と強調する。ただ「自治体の基準と建築業者の判断にギャップがある」と対応を検討。移転者への費用支援の可能性に関しては「他の自治体でも対応していない。国が補填(ほてん)するかどうかだ」と述べた。
 山が海に迫るリアス式海岸では斜面を削って宅地造成しているところが少なくない。平野部でも水田を埋め立てて造成している自治体が多く、防災集団移転団地の引き渡しが本格化すると、被災地で地盤補強とその費用負担の問題が広がる可能性がある。
◎業界品質基準厳しく
 自治体の基準と建築業者の判断に隔たりがあるのは、<u>2009年施行の住宅瑕疵(かし)担保履行法で建築業者の住宅品質基準が厳しくなっている</u>ことも一因だ。
 同法は住宅に欠陥が見つかった場合、購入者が費用負担せずに補修できるよう、建築業者に保険加入など資金確保を義務付けている。<strong>05年に発覚した耐震強度偽装事件を機に法制化された</strong>。
 建築業者が保険に加入するため、宅地を地盤調査し、強度が一般的な基準を満たしていても、地盤調査会社の判断などでより厳しい基準を求める傾向にある。国土交通省も「長期的に地盤沈下の恐れがあれば、建築業者は補強が必要だと判断しているようだ」とみる。
 <u>気仙沼市登米沢団地のケースは、自治体が想定した地盤強度より厳しい基準をクリアするための費用が、移転する被災者に付け回しされたことになる</u>。
 名取市は下増田地区に造成した防災集団移転団地の<u>地盤強度を一般的な基準より高く設定した</u>。市復興まちづくり課は「<u>水田の上に造成したこともあり、住民からの強い要望で地盤を強固にした</u>」と話す。
 だが、名取市の対応は例外的で、多くの自治体が国のマニュアルに基づいた一般的な地盤強度で造成しているのが実情だ。
[住宅瑕疵担保履行法]新築住宅で引き渡し後10年間に欠陥が見つかった場合、購入者が費用負担せずに補修を受けられるよう、建設業者や宅建業者などに保険加入や保証金供託による資金確保を義務付けた。国土交通省が指定する五つの保険法人は、原則的に土地の地盤調査を保険加入の条件としている。