◆ 道徳教科化で文科省が指導要領改定案
~小1から"愛国心"、評価導入で児童生徒を"常時"監視に
~小1から"愛国心"、評価導入で児童生徒を"常時"監視に
永野厚男・教育ライター
文部科学省が2月4日公表した、道徳を"教科"化する小中学校等の学習指導要領改定案(以下、改定案)は、「自らが考え、理解し、主体的に学習に取り組む・・・」「多様な感じ方や考え方に接する中で、考えを深め、判断し、表現する力などを育む・・・」等、一見、児童生徒の主体性や思想・良心の自由を大切にするかのような記述がある。
だが、小学校1・2年生にまで"愛国心"を強制するなど、衣の下から鎧(政治色)が見えてくる。
改定案は、安倍首相の諮問機関・教育再生実行会議の提言(2013年2月)通りの中教審答申(14年10月)を受け、文科省が検定する教科書を用い、児童生徒への評価も導入するよう、通常10年サイクルの指導要領改定を、道徳教育関連だけ早めたものだ。
注目は、「特別の教科」とした道徳の指導内容で、これまで小学校3年生以上で強制していた「我が国・・・を愛する心をもつ」(【注1】参照)という内容を、「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつこと」との表現で、1・2年生にも押し付けていることだ。
文科省記者クラブの事前レク時、合田哲雄・教育課程課長は「国際理解、国際親善」の内容項目で、これまで1・2年生になかった「他国の人々や文化に親しむこと」との文言を入れたので、相対するものとして、「郷土の・・・」だけだった現行指導要領に「我が国や」を加筆した、と説明。
合田氏は「愛国心の取り扱いに変化はない」と言う。ここだけを見ると確かに、「愛着」の対象は「我が国」そのもの(国家体制を含む概念)ではなく「我が国の文化・生活」と読める。
しかし、この1・2年生で加筆した"愛国心"は、キーワード(今回の改定案で初めて提示)では、「文化」等ではなく、「国や郷土を愛する態度」という括りに入れている。その上、改定案は第1章・総則(全学年の全教科・領域を拘束。【注2】参照)でも"愛国心"教化を明示しており、「文化」に留まらず、ナショナリズムの教化を意図している、と言える。
社会科で「国」という概念は5年生以降で学ぶ。6~8歳児に当たる1・2年時の"愛国心"教化は、改定案が「児童の発達の段階や特性等を踏まえ」た指導を求めているのと矛盾する。
◆ 初の道徳教科書検定~出版社は"自粛"しないか
第2の注目点、検定教科書作成に関しては既に、文科省が14年4月、"愛国心"を念頭に「(改定)教育基本法の目標等に照らし重大な欠陥がある」場合、一発で不合格にするよう"教科書検定審査要項"を改定している。改定案は、「教材については、教育基本法や学校教育法その他の法令に従い」とわざわざ記述し、屋上屋を重ねた。
改定案は「多様な見方や考え方のできる事柄を取り扱う場合には、特定の見方や考え方に偏った取扱いがなされていないものであること」と明記。この「特定」か否かは、文科省が検定する。このため、「16年度検定、17年度採択、18年度使用開始」というレールが敷かれた初の道徳教科書の執筆・編集では、社会科教科書同様、"愛国心"や"権利・義務"等、国家主義や立憲主義など政治に関連ある記述で、執筆者や教科書会社が政権政党や文科省の意向に沿うよう"自粛"する危険性がある(【注3】参照)。
3つ目の注目点、児童生徒の道徳評価は、授業中の発言やワークシートだけでなく、明治図書の教育専門誌『道徳教育』2月号で、宮崎県の公立小学校の女性教員らが「僅かな心の動き、考え方の変化や気付きなどを見取る様々な評価の工夫が必要」と主張し、「表情・つぶやき等の記録・・・授業前後の行動観察等を組み合わせる」(傍点は筆者)と提起している。
同誌の通知表への道徳評価の記述例は「教師の読み聞かせをじっくりと聞くその表情から、主人公の気持ちを想像して共感的に理解しようとしている様子がわかりました」「・・・主人公になり切って即興的に役割演技をすることで、友達の大切さについて自分との関わりで発表することができました」「他の生徒の価値ある意見に対し、時折うなずきながら真摯に耳を傾けるなど、意欲的に授業に取り組む姿が印象的でした」などと掲載。
評価導入で、観察と称する四六時中の監視を意識し心の安らぎを失ったり、教師の前で"良い子"を装ったりする児童・生徒が出てくるのでは、と危惧する人は少なくない。
文科省は3月5日締め切りで(同日夜までOK)、改訂案へのパブリックコメント(意見公募)を実施している(様式等は同省HP)。
【注1】
指導要領の道徳での"愛国心"教化は、08年告示の現行版は小学校3・4年生が「郷土の伝統と文化を大切にし、郷土を愛する心をもつ」「我が国の伝統と文化に親しみ、国を愛する心をもつとともに、外国の人々や文化に関心をもつ」と記述し、「郷土愛」と「"愛国心"・国際理解」を別建てにしている。
また、小5・6は「郷土や我が国の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、郷土や国を愛する心をもつ」「外国の人々や文化を大切にする心をもち、日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める」と記述し、「郷土愛・"愛国心"」と「国際理解(但し、"日本人の自覚"も教化)」を別建てにしている。
しかし改定案は、これら「郷土愛」と"愛国心"の前後を入れ替え、小3・4は「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、国や郷土を愛する心をもつこと」、小5・6は「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」に変更。
この姑息な入れ替えを、文科省側は前記・事前レクで「改正教育基本法の『我が国と郷土を愛する』という文言に合わせ、順序を変えた」と説明したが、"国"の方を郷土より優先し教化させる意図が垣間見られる。
【注2】
「総則」での"国を愛する態度"教化の文言は、08年告示の現行版で入った1箇所(「第1 教育課程編成の一般方針」)から、改定案は2箇所(「第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」でも)に拡大している。
【注3】
15年4月使用開始の小学校6年社会科教科書で、出版社側が"自主"訂正し保守色を増した事実(本誌14年11月号)から、検定の段階だけでなく執筆・編集段階(検定後の"訂正申請"を含む)も、要警戒だ。
『マスコミ市民』2015年3月号の永野厚男(教育ライター)執筆記事に加筆したもの
指導要領の道徳での"愛国心"教化は、08年告示の現行版は小学校3・4年生が「郷土の伝統と文化を大切にし、郷土を愛する心をもつ」「我が国の伝統と文化に親しみ、国を愛する心をもつとともに、外国の人々や文化に関心をもつ」と記述し、「郷土愛」と「"愛国心"・国際理解」を別建てにしている。
また、小5・6は「郷土や我が国の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、郷土や国を愛する心をもつ」「外国の人々や文化を大切にする心をもち、日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める」と記述し、「郷土愛・"愛国心"」と「国際理解(但し、"日本人の自覚"も教化)」を別建てにしている。
しかし改定案は、これら「郷土愛」と"愛国心"の前後を入れ替え、小3・4は「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、国や郷土を愛する心をもつこと」、小5・6は「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」に変更。
この姑息な入れ替えを、文科省側は前記・事前レクで「改正教育基本法の『我が国と郷土を愛する』という文言に合わせ、順序を変えた」と説明したが、"国"の方を郷土より優先し教化させる意図が垣間見られる。
【注2】
「総則」での"国を愛する態度"教化の文言は、08年告示の現行版で入った1箇所(「第1 教育課程編成の一般方針」)から、改定案は2箇所(「第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」でも)に拡大している。
【注3】
15年4月使用開始の小学校6年社会科教科書で、出版社側が"自主"訂正し保守色を増した事実(本誌14年11月号)から、検定の段階だけでなく執筆・編集段階(検定後の"訂正申請"を含む)も、要警戒だ。
『マスコミ市民』2015年3月号の永野厚男(教育ライター)執筆記事に加筆したもの