◆ 自主規制で保守色増す小学校社会科教科書
   ~"採択権者"の教委を意識か
(マスコミ市民)
永野 厚男(教育ライター)

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検定合格後「君が代に敬意をはらう選手たち」と書き換えた教育出版小6社会科教科書

 2015年4月から使用する小学校教科書(今夏、全国の教育委員会で採択)のうち、6年社会科で政治的問題の記述や写真を、出版社側が〝自主〟的に変更していた事実が分かった。
 教科書を巡る制度は、4年ごとに執筆・編集、検定、採択がある。15年4月から使用の小学校用社会は、全4社が13年度に申請図書(白表紙本という)を文科省に提出し検定を受け、同省は今年4月4日、検定合格を発表した。その後、約1か月で4社は検定意見を反映させた見本本
(15年4月、児童に配られる教科書と同内容)を印刷し、(権力者側の法解釈で)〝採択権者〟とされる全国の教育委員会に発送する、という流れだ。


 筆者ら一般市民が検定の過程・結果を見られるのは、文科省が6月中旬から7月中旬に10日間ほど公開する、全国7会場だけ。
 会場で社会科の「検定意見書、修正表」を見ると、〝日の丸・君が代〟、天皇、米軍基地など国家主義思想や政治色の濃い問題では検定意見はゼロ。
 4社とも検定合格のため学習指導要領(文科省が法的拘束力ありと主張。〝日の君〟の場合「国旗国歌尊重」を謳う)に縛られ執筆・編集しているからだ。
 だが検定合格後、出版社側が訂正申請という制度を使い〝自主〟的に変更したり、現行本(11年度~今年度使用)の記述より
保守色を濃くしたりした記述が目立った


 ◆ 〝君が代〟斉唱で「敬意」を加筆

 教育出版は「国旗と国歌」と題する頁の、女子サッカー国際大会の写真キャプションで、白表紙本が「君が代の演奏をきく選手たち」と記述し、検定に合格。だが見本本は「・・・演奏される君が代に敬意をはらう選手たち」
と、記述を変更。

 同社は沖縄の米軍基地も、白表紙本の「オスプレイの多く並ぶ近景撮影の写真」(説明文は「現在でも、アジア有数のアメリカ軍基地が置かれています」)を、見本本では「兵器が見えない広大な全景写真
」(同「現在でも、県の面積の約1割をしめる広さのアメリカ軍基地が残されています」)に変更。軍用機・基地被害の危険性は伝わりにくくなった。

 複数の市民が文科省教科書課に質問すると、同課は「検定合格後、教育出版が訂正申請し、文科省は承認しただけ。本省が相談に乗ったり助言したことはない」と明言。
 筆者は教育出版に、「起立斉唱行為は敬意表明の要素を含むから、応じ難いと考える人の思想・良心の自由の間接的制約になる」(傍点は筆者)と判じた、教員たちの〝君が代〟不起立訴訟・最高裁判決を示すなどし変更理由を取材したが、同社広報室は「個別の記述には答えられない」と回答した。

 また、米国旗を中央に掲げた五輪表彰式の写真を載せた
光村図書日本文教出版(日文)も検定合格後、「日の丸が中央」の写真
に差し替えた。
 市民の質問に、光村の編集部は「選手の顔を正面から撮り国旗が後方から写ったため、星条旗の星が左上でなく右上に見え、ミス。選手が国旗に正対した写真を探したら、日の丸が中央のものになった」と説明し、日文も「日の丸がどういうものか児童が確実に読み取れるよう改めた」と回答した。

 一方、
東京書籍の五輪表彰式の写真は、「米国旗が中央で日の丸は左」。だが楽譜の紹介で「君が代には、日本の国の末永い繁栄と平和を願う気持ちがこめられています
」と記述。天皇の治世の永続を願う、と解釈せざるを得ないこの歌の、正確な説明になっていないのは、他の3社も同じだ。

 ◆ 「天皇への敬愛の念を深める」記述も増

 小学校学習指導要領は1968年改訂以降、6年社会はずっと「天皇への・・・敬愛の念を深めるようにすることが必要」という文言で拘束。だがこれまでは、執筆者の良識で他の人々と平等に、特に敬語を使わず記述していた(つくる会系中学〝教科書〟のみ敬語使用)。
 
光村は現行本は「インドの首相をむかえた天皇」。だが、白表紙本は「被災地を訪問する天皇陛下
」とし、見本本は「被災地を訪問される天皇陛下」と敬語を重複使用した。
 日文は「文化勲章を授与する天皇」という写真テロップは、現行本・白表紙本・見本本とも敬語はない。だが別の写真のテロップは、現行本は敬語を使用していないが、白表紙本・見本本になると「東日本大震災の被災地を訪問される天皇陛下と皇后陛下
」。
 光村の編集部は「白表紙本で『陛下』を入れたので、見本本はよりその敬語に沿うよう訂正申請し、敬意を払う記述にした」と説明。この光村も日文も「文科省や保守系政治家の指示や圧力はない。執筆者と社の編集部の方針で変更した」と言う。
 
教育出版も現行本にない天皇への敬語
を白表紙本・見本本で使用。その理由を問うと、同社広報室はノーコメントだった。
 ベテラン教員は「全国的に保守的な委員の多い教育委員会に採択してもらうよう、自主規制する出版社が増えた」と嘆く。

『マスコミ市民』(2014年11月号)
 
 
パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2