/ 2014年10月5日
ドイツ語圏のメディアは朝日新聞誤報問題をどう伝えたか
日本軍の「慰安婦」問題や福島原発事故の「吉田調書」をめぐる朝日新聞の誤報問題に関連して、日本では安倍首相をはじめとする政治家や他のメディアの朝日新聞へのバッシングが凄まじい。安倍首相は、ニッポン放送のラジオ番組に出演し、「慰安婦問題の誤報によって多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実と言っていいと思う」などと、あたかも朝日新聞の誤報によって「慰安婦」問題がつくられたかのような発言をして朝日新聞を批判した。以来日本社会での朝日新聞たたきはエスカレートしている。ドイツの新聞は、こうした日本の最近の異様な事態についてどのように伝えたか。
代表的な全国新聞、フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ、Frankfurter Allgemeine)は9月16日の政治面に「日本のナショナリストたちがチャンスを嗅ぎつける」というタイトルの詳しい記事を掲載した。同新聞の東京特派員、カールステン・ゲルミス記者はこの記事を「安倍首相は長い間の抑制的な態度をこの日曜日、かなぐり捨てた」と書き始め、9月14日のテレビでの同首相の発言を引用している。
「このような報道は真実ではないことを、我々は世界に説明する道を探さなければならない」と安倍首相は日曜日のテレビで語った。安倍首相の言う“このような報道”というのは、第2次世界大戦中、日本軍が何万という韓国・朝鮮の女性たちを戦線の慰安所に拉致し、自由を奪って性奴隷として強制的に働かせたという報道である。安倍首相とその閣僚たちは、チャンス到来とばかりに戦時下の嫌悪すべき行為をなかったことにしようと試みている。きっかけは先頃,リベラルな朝日新聞が1980年代と1990年代に「慰安婦」問題を扱った際、偽りの証言を引用した記事を16回にわたって書いたことを告白し、訂正したことにあった。元日本軍兵士の吉田清治氏は1982年に「日本統治下の朝鮮で未成年を含む多くの女性たちを拉致して慰安所に連れて行った」と証言したが、のちにこの証言は嘘であることが判明した。
ゲルミス記者はこの後、朝日新聞がこの問題についての昔の記事をなぜ今になって訂正したかについてその理由を説明しようと試み,安倍政権の閣僚たちの歴史修正主義的な発言が最近ますます露骨になってきていることと関係があると見ている。
国家主義的な安倍政権を支持する読売新聞は、「朝日新聞はその間違った報道によって日本の名誉を傷つけた。日本が性奴隷の国だという国際社会での誤解を解くのは今後は難しくなった」と書いている。この記事は、日本の名誉を傷つけたのは日本軍の残虐行為でないような書き方だし、国際的な歴史家たちがあたかも吉田証言だけに頼って慰安婦問題について判断しているかのような印象を与える。しかし、日本軍によって少女や女性たちが強制的に慰安所に連れて行かれたことを否定するまともな歴史家は、日本以外の国では、ほとんどいない。
ゲルミス記者は、この後、高市早苗氏など安倍内閣の閣僚二人が日本のネオナチ団体,国家社会主義日本労働者党の代表、山田一成氏と一緒に写真を撮っていた事実や彼らの修正主義的な発言を伝えている。また福島原発事故での「吉田調書」をめぐっても、朝日新聞は窮地に立たされているとして、「国家主義的な安倍保守政権のもとでリベラルな新聞の砦としての朝日新聞の影響力は、今後薄れるだろう。議会での野党もすでに影響力を失っている」と結んでいる。
ミュンヘンで発行されているリベラルな全国新聞「南ドイツ新聞」(ジュートドイチェ・ツァイトゥング、Süddeutsche Zeitung)も、9月20日/21日付きの週末版でこの問題を取り上げた。その見出しは「首相対新聞」となっており,さらに「日本の首相は批判的な朝日新聞を“厄介払い”するつもり」というサブタイトルがついている。クリストフ・ナイトハート記者のこの記事も、表現は違うが、ゲルミス記者の論調とほぼ同じである。
「世界中の人たちが性奴隷にされた韓国・朝鮮の女性たちを不当にも想起するのは、朝日新聞のせいである」、先頃テレビ放送の中でこう言ったのは、日本の首相、安倍晋三である。朝日新聞は20年以上前、間違った証言をもとに「第2次世界大戦中、日本軍兵士が誘拐犯人として朝鮮の家々に押し入り,若い女性たちを誘拐して軍の慰安所で強制的に働かせた」と報道した。安倍首相は、朝日新聞に対し、この報道が間違っていたことを世界に対して説明するよう求めた。首相が反政府的な立場をとる日本で唯一のリベラルな大新聞に対して訂正を求めたのは、邪魔者を取りのぞこうとする新たな試みである。
スイスを代表するドイツ語の新聞「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」(Neue Zürcher Zeitung)も9月15日の紙面で「逆風にさらされる日本のリベラルな『旗艦紙』」のタイトルで、日本の異様な朝日新聞たたきを伝えた。