集団的自衛権行使容認~テレビニュース番組はどう伝えたか~ NO2 : 2014年5月~7月
 
 
4)閣議決定当日(7月1日)の報道
 
 
 「NEWS23」は、「報道ステーション」と同じく官邸前抗議行動のナマ中継を番組に組み込んでいた。官邸前だけでなく、広島での反対デモも紹介、市民の「言葉にならないほど腹が立っている。また戦争ができる国にするなんて」「戦争に行くのは一般国民、自分たちは行かない。非常に危険を感じる」といった切実な声を伝えている。
また、番組の途中でも、「官邸前デモはまだ続いている」と中継を入れ、参加者の声を丁寧に拾っていた。
この日の放送では、半藤一利、澤地久枝という、影響力の大きな識者のインタビューを挿入している。半藤氏は「日本はもはや、後戻りできない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)にまで来てしまっている」と述べ、澤地氏は「あの時すでに戦争が始まっていた、というイヤな事態に進むのではないか、戦争とは、いつもこうしたことが始まりになる。それを防ぐために憲法9条があるはずだ」と訴えた。
解説の岸井氏も、「アリの一穴から堤防が崩れる。憲法は人類の未来を先取りした世界に誇るべき堤防だ。それを政府与党が力で壊しにかかっている」と批判した。
こうしてみると、「NEWS23」「報道ステーション」も、与党協議と閣議決定にたいして抵抗しようがなかった国民の不安、批判の声を反映する役割を果たしたといえる。
一方、同日の「ニュースウオッチ9」は、この二つの民放番組とはまったく違う姿勢の放送となっていた。閣議決定の内容を批判的に検討しようという姿勢はどちらかといえば希薄で政府与党の主張と、閣議決定の内容についての記者解説に終始した。
番組中挿入された安倍首相の記者会見の内容は「閣議決定は日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく大きな力を持っている。これが抑止力だ」というものだった。
同じ番組の中で、大越キャスターは、日本の安全保障の歴史について解説し、集団的自衛権の容認の歴史的段階を「これまでとは別のステージに入る。つまり“協力”から“抑止”へ。集団的自衛権というカードを持つことで、日本への脅威を抑止するという性格が強まる」と述べた。これは行使容認が「抑止力」が目的だという安倍首相の主張とほぼ同一の認識を語るものであった。
 
5)NHKの集団的自衛権報道の特徴
 
 これまでみてきて明らかなように、NHK「ニュースウオッチ9」には集団的自衛権行使容認に対する批判的な論議は皆無に近かった。
 次表は、3つの番組が批判的な立場の出演者をどれだけ番組に登場させたかを、論議を呼んだ項目別に一覧にしたものである。この表は、番組が行使容認を批判的に検討したかどうかを同時に示すものでもある。 (カッコ内は出演した放送日。放送期間515日~7月1日。NHKの場合を除き、非常に短いインタビューは除外した。)。
 

主張の種別
報道ステーション
NEWS23
ニュースウオッチ9
集団的自衛権行使容認そのものへの批判、慎重論
小林節 (5/15
中島岳志(6/6
海部俊樹 (6/9
 
大田昌秀(6/23
姜尚中(6/27
半藤一利(7/1
澤地久枝(7/1
阪田雅裕 (7/133)
閣議決定による憲法解釈の変更批判
小林節(6/3(7/1
山崎拓(6/27
古賀茂明(6/27
姜尚中(5/16
真山仁(6/13
小林節(6/30
 
「邦人輸送の米艦防護」批判
柳澤協二(5/15
小原凡司(5/26
 
 
機雷掃海は戦闘行為という指摘
柳澤協二(5/15
山崎拓 (6/20
水島朝穂(6/16
 
NGOへの駆けつけ警護批判
谷山博史(5/26
中村哲(6/27
 
 
集団安全保障での武力行使批判
柳澤協二(6/3
小川和久 (6/6
 
 
【参考】
政府与党のスタジオ生出演
山口公明党代表(5/20
石破自民党幹事長(5/15
 
礒崎首相補佐官(5/15
山口公明党代表(6/26
高村自民党副総裁(6/27
【参考】
抗議デモの報道
 
 
数回にわたって市民の抗議デモを取材、参加者のインタビューを伝えた。
71日は官邸前から生中継を実施
数回にわたって市民の抗議デモを取材、参加者のインタビューを伝えた。630日、71日は官邸前から生中継を実施
この期間中、627日に13秒、30日に27秒、71日に17秒、計わずかに1分弱しか紹介していない。ほとんどがナレーションのバックの映像という扱い。

 
 5月15日から7月1日まで、「ニュースウオッチ9」の集団的自衛権関連の放送をチェックしたところ、与党協議の経過や内容、安倍首相記者会見、礒崎首相補佐官、高村副総裁、山口公明党代表のスタジオインタビューなど、政府与党の主張の紹介が放送全体のおよそ7割を占めている。
あとは記者の解説、国会審議のダイジェスト、街の声、各党の反応、といった内容であり、上記の表でわかるように、国会外の批判的な見解は取り上げられていない。抗議デモなど市民の行動にも極めて冷淡である。
 一回の放送を視聴しただけでは分からないが、一定期間通してみたとき判明したこの偏りは指摘しておかなければならない。行使容認については、視聴者・国民の中に反対の声が強く、また識者の有力な反対意見も存在した。このような批判、反対の声に対して放送内容は公平とは言えない。
放送法第4条は、放送番組の編集に当って、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めている。この間の「ニュースウオッチ9」の内容は、この規定に違反する疑いが強い。
与党協議や政府の主張を伝えることは重要であり、「ニュースウオッチ9」に、集団的自衛権反対の立場に立てと要求しているわけではない。しかし、反対、批判の声を遮断して、政府与党に関する情報の伝達を主要な任務とするかのような報道は、政府から独立した公共的な放送機関というNHKの建前に反する。
 
 
3、週一回のニュース番組
 
 週一回のニュース番組については、前述のように政府の広報のような番組と、批判的な視点を持ち続けた番組とに明確に分かれた。週一回の番組に共通する傾向を抽出することは困難なので、番組ごとの特徴を概括的に示しておきたい。
 
読売テレビ(日本テレビ系列)「ウエークアップ!ぷらす」(土曜午前8時~)
期間中、集団的自衛権問題を扱ったのは5回。その内5月17日と6月28日に比較的長い特集を組んでいる。
この番組では、集団的自衛権行使容認の是非についての本質的な議論はほとんど行われなかっ
た。 5月17日は、石破幹事長に集団的自衛権行使の必要性について長々と発言する機会を与えるとともに、解釈改憲によるか、憲法改正によって集団的自衛権行使を認めるかに焦点が絞られ、集団的自衛権行使そのものに反対する意見は、討論の中では聞かれなかった。
6月28日の放送分では、元アメリカ国務省の日本部長や、元駐米大使をゲストに迎え、日米安保条約を重要と考え、集団的自衛権行使容認を歓迎し、安倍首相を評価する発言を中心とする討論が行われた。批判的立場の加藤タキ氏の発言時間は極めて少なく片隅に追いやられていた。
集団的自衛権行使容認が、閣議決定で決められようとしていることの是非や、反対世論や運動が大きく広がっているのに、明確な反対論者を出演させなかったこの番組は偏向との批判を免れない。
 
テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」(日曜午前10時~)
この番組は、デイリーの「報道ステーション」と同じようなスタンスで集団的自衛権問題を報じようとしていた。長野智子キャスターは、行使容認に批判的な姿勢を持っており、コメンテーターの政治ジャーナリスト後藤謙次氏と朝日新聞論説委員の星浩氏も批判的な立場で論評している。
このスタンスの下で、重要な証言、コメントが放送されたことはこの番組の特徴となっている。たとえば5月25日、第一次安倍内閣の官房副長官補だった柳澤協二氏のインタビューを紹介したのはその一例である。柳澤氏は、「総理の記者会見は、憲法上も許されている個別的自衛権で解決可能な事例を並べ立てた欺瞞的な内容」「総理は、いざとなったら、戦闘にも参加してアメリカと行動を共に出来る血の同盟を実質化することだという狙いを隠さず、国民に訴えるべきだった」と語った。かつて安倍首相の協力者だった人物からこのような証言を引き出したことは評価される。
 
TBS「報道特集」(土曜午後5時30分~)
 この番組の報道姿勢は、秘密保護法報道とあわせて、2014年の日本ジャーナリスト会議賞を受賞した。週一回の報道番組の中では、ジャーナリズムの精神に基づく優れた報道を貫いていたと言える。本報告の上でもこのことは特記しておきたい。
 その特徴は次の三点に集約される。
 第一に、集団的自衛権容認の動きに対して、取材した事実を対置して検証しょうという姿勢があったこと。