生活保護問題対策全国会議
厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会において、住宅扶助基準をめぐる議論が急ピッチで進められています。
「引き下げありき」の拙速な議論であり、国土交通省が定めた最低居住面積水準もないがしろにされるなど、健康で文化的な最低限度の生活を保障するための住環境についての議論も不十分です。さらに、生活保護利用世帯の居住実態の調査をする作業部会は非公開となっています。
このような状態で11月にとりまとめが行われ、来年度予算案において、住宅扶助基準の引き下げが断行される可能性は極めて高いです。
生活保護問題対策全国会議と住まいの貧困に取り組むネットワークでは、この動きに反対すべく、6月14日に共同声明を発表しました。声明文は、下記をご覧下さい。
この共同声明に賛同していただける団体を6月末7月8日まで募集し、発表する予定です。
7月9日に記者会見の予定ですので、ギリギリまで受け付けます。
ぜひ多くの団体から賛同をお願いします。
共同声明文の印刷用(PDF)ダウンロードはこちらから click
2014年6月14日
生活保護の住宅扶助基準引き下げの動きに反対する共同声明
~「健康で文化的な最低限度の住生活」の基準を変更することは許されません~
厚生労働省の社会保障審議会生活保護基準部会において、住宅扶助基準をめぐる議論が急ピッチで進められています。今年5月16日には第17回、30日には第18回と、立て続けに部会が開催されました。今後、7月以降に「生活保護受給世帯の居住実態に関する調査」(仮称)を実施し、11月には「住宅扶助に関する検討結果のとりまとめ」を行うとしています。
1.「引き下げありき」に議論を誘導
厚生労働省が2015年度から住宅扶助基準を引き下げる方針を持って、部会の議論を誘導しようとしていることは、部会の中で事務方が提示している資料から明白に読み取れます。
例えば、第17回部会で提出された、財務省財政制度等審議会の資料では、「住宅扶助と一般低所得者の家賃実態の比較(2人以上世帯)」という二本の棒グラフを示し、「住宅扶助の方が2割程度高い」と指摘しています。しかし、そこで用いられていたのは住宅扶助の「上限値」と一般低所得者の家賃実態の「平均値」で、公平な比較とは言えないものでした。これには「ミスリーディングではないか」という指摘が委員からもなされています。
2.最低居住水準をないがしろに
また、第18回部会で、厚生労働省がまとめた「住宅扶助に関する主な論点」では、「住宅扶助特別基準額の妥当性を検証するにあたって、健康で文化的な最低限度の住生活を営むことができる住宅かどうかをみるための尺度は、住生活基本計画において定められている最低居住面積水準でよいか」としたうえで、わざわざ、「 全国の民営借家では、約1/3の世帯で、最低居住面積水準が未達成の状況にある」と述べています。
これは、明らかに「健康で文化的な最低限度の住宅の尺度」から最低居住面積水準を外すことを狙ったものと言えるでしょう。生活保護世帯の暮らす住宅には、現在も最低居住面積水準未満のものがかなりの割合で含まれますが、「住宅扶助基準を下げるとさらに未達成の割合が増える」という批判をあらかじめ封じこめようとしているのでしょう。生活扶助基準引き下げでの際にも根拠とされた「一般低所得者世帯との均衡」という考え方で、最低居住面積水準を取り払おうとしているのです。
そもそも最低居住面積水準とは、健康で文化的な住生活を確保するうえで必要不可欠な水準です(2006年以降の基準は単身世帯の場合、面積で25㎡以上など)。国土交通省が策定し、2011年に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)の中でも、最低居住面積水準未満の住居は「早期に解消」することが指標として定められています。政府が閣議決定した指標を厚生労働省が有名無実化しようとする動きに対して、部会の中でも複数の委員から批判の声があがりました。最低居住面積水準は、公営住宅や行政による住宅改修費補助などの基準としても活用されています。このような重要な基準をないがしろにすることは、生活保護世帯のみならず、社会全体の住まいの貧困化を招きます。
3.非公開とされた「作業部会」
第18回部会では、委員の一部からなる「作業部会」を設置し、7月以降に「生活保護受給世帯の居住実態に関する調査」(仮称)を実施することとしています。しかし、その「作業部会」の議論は非公開とすることが決定されました。非公開の調査により、生活保護世帯の暮らす住宅の家賃が一般低所得者の家賃よりも割高である、という結論を導き出し、「一般低所得者世帯との均衡」を口実として、住宅扶助基準を引き下げる報告書をまとめるつもりでしょう。居住実態調査は、言うまでもなくオープンに科学的に行わなければなりません。
4.問題は、国の住宅政策の失敗に起因している
生活保護世帯が暮らす民間賃貸住宅は、その地域の住宅扶助基準の上限額に貼り付いてしまう傾向があることが以前から指摘されています。単身高齢者や障がい者、ひとり親家庭、外国籍住民などは、民間賃貸住宅への入居にあたって差別を受けることが多いため、貸主や仲介業者から「本来、その部屋にふさわしい家賃」よりも高い家賃を提示されても、その家賃額を受け入れざるをえない現状があります。身内に連帯保証人を頼める人がいない場合、その傾向はさらに強まります。
住宅扶助の基準は現在でも充分であるとは言えません。特に都市部では現行の基準(東京都内で53700円、障がいなど特別な事情のある場合は69800円)で適切な賃貸住宅を確保することが困難な地域もあります。2013年には東京都千代田区で福祉事務所職員が「脱法ハウス」を生活保護利用者に紹介するという事例が発覚しました。特に、車イスの身体障がい者の部屋探しは困難を極め、やむをえず「管理費」「共益費」といった名目で、実質的な家賃の一部を生活扶助費から持ち出さざるをえないケースも珍しくありません。
また、多人数世帯の住宅扶助基準は6人世帯であっても2人世帯と同じ基準(東京で69800円、大阪で55000円)に設定されており、子どもの多い世帯が劣悪な居住環境を強いられています。
5.住宅扶助の目的は住宅の「質」を確保することにある
こうした問題の背景には、公営住宅を増やさず、民間賃貸住宅市場へのコントロールを怠ってきた国の住宅政策があります。また、住宅行政と生活保護行政が全く連携をせず、福祉事務所に住宅の質をチェックする機能が存在しないことも問題を悪化させています。
国や地方自治体が従来の住宅政策を転換し、低所得者が入居できる低廉な住宅を大量に供給し、入居差別をなくすための法整備や公的保証人制度の導入、貧困ビジネスの規制など、民間賃貸住宅市場をコントロールしていく施策に本格的に取り組むのであれば、それと連動して生活保護の住宅扶助基準を見直すことも考えられるでしょう。住宅扶助の目的は住宅の「金額」ではなく「質」を確保することであり、低家賃で住宅の「質」を確保できる環境が整えば、基準自体は低くなっても問題は生じないからです。
しかし、長年にわたる住宅政策の失敗により民間賃貸住宅市場が野放し状態になっている現状を放置して、住宅扶助の「金額」だけを切り下げることは、さらなる「質」の低下を招き、ますます生活保護利用者を劣悪な住宅に追いやることになります。
6.「住まいの貧困」を悪化させる引き下げに反対します
私たちは、社会保障審議会生活保護基準部会が作業部会も含めて、すべての議論の過程をオープンにすることを求めるとともに、11月までに住宅扶助に関する検討結果をとりまとめるという拙速なスケジュールを撤回することを求めます。そして、生活保護の利用当事者や居住支援をおこなっている民間団体の関係者、住宅問題に詳しい研究者や法律家などから意見を聴収することを求めます。
また、基準部会の議論と並行して、政府が国土交通省と厚生労働省の関連部局を中心に「住宅対策総合本部」(仮称)を設置し、「健康で文化的な最低限度の住生活をどう保障するか」という観点のもと、「脱法ハウス」問題など「住まいの貧困」への対策を進めていくことを求めます。そして、その対策の進捗状況を見極めながら住宅扶助についての議論も慎重に進めていくことを要求するものです。
国が自ら定めた「健康で文化的な最低限度の住生活」の水準をないがしろにする動きは決して許されてはなりません。「住まいの貧困」を悪化させる住宅扶助基準の引き下げに断固として反対します。
生活保護問題対策全国会議(代表幹事:尾藤廣喜)
住まいの貧困に取り組むネットワーク(世話人:稲葉剛、坂庭国晴)
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