NHKWEBNEWS  5月6日 18時13分2014年

南海トラフ地震 アジア各国にも津波到達

南海トラフで起きる地震で、日本周辺の国々にどのくらいの高さの津波が押し寄せるのかを推計した研究がまとまりました。最悪の場合、津波の高さはフィリピンなどで4メートル以上、中国でも2メートル近くになるという結果で、専門家は、国際的な救助や援助の計画も考える必要があると指摘しています。
この研究は、東京大学総合防災情報研究センターの原田智也特任助教が、国の研究プロジェクトの一環で初めて行いました。

駿河湾から九州沖にかけての海底に延びる谷筋「南海トラフ」で、国が想定するマグニチュード9クラスの巨大地震が発生した場合、周辺の国々にどのくらいの津波が押し寄せるのかシミュレーションしました。
最悪の場合、津波は地震発生から3~4時間でフィリピンなど東南アジア各国に到達し、高さは広い範囲で4メートル以上、中には8メートルに達するところもありました。また、津波は九州などを回り込んで中国の沿岸にも到達し、地震発生から9時間後には、上海周辺で高さ1メートルから2メートル近くになるという結果になりました。

東シナ海は海底が浅く津波が弱まるため、中国にはこれまで影響があまりないと考えられてきましたが、川を伝って内陸で浸水するおそれは十分にあるということです。

研究を取りまとめた東京大学の古村孝志教授は「南海トラフで発生する津波の防災対策は、日本だけではなく東アジア全体、太平洋の島々についても一緒に考えることが重要だ」と述べ、警報システムや避難訓練などの対策に加え、国際的な救助や援助の計画も考える必要があると指摘しています。

津波は各国にどう伝わる

南海トラフでは、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいて、プレート境界が大きくずれ動くことで津波が発生します。シミュレーションは、南海トラフで大津波が発生する想定として政府の中央防災会議がまとめたマグニチュード9.1の巨大地震のケースで行いました。

津波は地震発生直後に日本の沿岸の広い範囲に押し寄せ、日本の南にも伝わっていきます。津波は海が深いほど速度が速く、水深5000メートルでは時速800キロとジェット機並みの速さで進むため、最悪の場合、▽地震発生から3~4時間でフィリピンに到達し、高さは広い範囲で4メートル以上、ミンダナオ島南部の湾では8メートルにも達します。▽5時間ほどするとインドネシアやパプアニューギニアにも到達し、高さ6メートルに達するところもあるなど各国に影響するという結果になっています。
また、津波は鹿児島県の屋久島と奄美大島の間から東シナ海にも伝わっていきます。東シナ海は水深が100メートルから200メートルと浅い大陸棚が続くため、津波の速度は遅くなり勢いも弱まります。
このため、中国にはフィリピンなどよりも遅いおよそ9時間後になって津波が到達し、上海付近では高さは1メートルから2メートルになるという結果になりました。
東京大学の古村孝志教授は「今回のシミュレーションはあくまでもマグニチュード9.1の最大級の想定に基づいていることに留意する必要がある。ただ、マグニチュード8クラスでも各国に津波が押し寄せることには変わりがなく、過去に南海トラフで起きた地震の規模を明らかにするためにも、各国のデータや文献を集める必要がある」と話しています。

巨大地震の津波 世界で観測

3年前に東北沖で発生した巨大地震では、世界各地で津波が観測されました。
気象庁やNOAA=アメリカ海洋大気局によりますと、ハワイ州にあるカフルイでは、地震発生からおよそ8時間後に2メートルの津波を観測したほか、カリフォルニア州のクレセントシティでは、およそ11時間後に2メートル47センチの津波を観測しました。さらに、1万7000キロ離れた南米チリのカルデラでは、地震発生からおよそ24時間後に2メートル14センチの津波を観測しました。
一方、日本列島を回り込んで中国やロシアにも津波が到達したほか、人工衛星の観測では南極にも到達し、氷山を崩したことも確認されています。

中国にも津波

3年前に東北沖で発生した巨大地震では、地震から6時間から8時間後に中国南東部に相次いで津波が押し寄せ、中には50センチ以上の津波も観測されました。
国家海洋局によりますと、観測された津波は、東部・浙江省の舟山市で55センチ、南部・広東省の汕尾市で26センチ、上海市の崇明島で8センチなどとなっています。

この際、中国では、東部地域に1メートル未満の津波が発生するおそれがあるとして、日本の津波注意報に当たる情報を出しました。中国でこうした情報が出されたのは、システムが導入された1983年以来、これが初めてです。
東日本大震災のあと、中国では、津波を想定した住民参加の避難訓練を初めて実施したほか、去年11月には、国家海洋局の中に、津波の観測や予測などを行う「津波アラートセンター」を設立するなど、対策を強化しています。

中国 過去の「津波」

人口2300万と中国最大の経済都市である上海では、日本付近で発生した地震によって、津波と思われる潮位の変化が起きたとする文献が残されています。

上海市地震局によりますと、1498年、1707年、1854年の3回記載があるということです。このうち、1854年のケースでは、現在の上海の中心部を南北に縦断し、東シナ海へとつながる「黄浦江」の水位も1メートルほど高くなったという記録があり、上海市地震局では「海に押し寄せた津波が川に入り込んで、水位が上昇した可能性がある」としています。このほか一部の地域では、住宅が浸水したほか死者が出たという記録もあると話しています。

現状の津波対策

中国に押し寄せる津波について、上海市地震局震災被害対策センターの徐永林主任は「過去の文献の記載では、津波の中国への影響はそれほど大きくないが、2004年のインドネシアで起きた巨大地震(=インド洋大津波)以降、中国でも津波の研究が重視されるようになっている」と話しています。そのうえで、現在の津波対策について、徐主任は「被害の拡大防止のために、とりわけ原子力発電所や石油化学関連の大型の施設について、津波によるリスクを考慮し対策を取っている」と説明しています。
また、今後の政府の取り組みについて、徐主任は「市民の津波に対する意識はまだ低い。今後は、津波や地震に関する知識を広め、市民の理解を深めるよう広報活動に力を入れたい」と述べ、津波に関する市民の防災意識を高める必要があるという認識を示しました。

上海市地震局によりますと、中国では、各地の地震局で、津波の被害が想定される地域を把握しているとしていますが、ハザードマップは一般には公表されていません。