毎日新聞 3月25日(火)朝刊

◇内閣府のチーム、福島の3カ所

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実 施された個人線量計による被ばく線量調査について、内閣府原子力 被災者生活支援チームが当初予定していた結果の公表を見送ってい たことが24日、分かった。関係者によると、当初の想定より高い 数値が出たため、住民の帰還を妨げかねないとの意見が強まったと いう。調査結果は、住民が通常屋外にいる時間を短く見積もること などで線量を低く推計し直され、 近く福島県の関係自治体に示す見込み。調査結果を隠したうえ、 操作した疑いがあり、住民帰還を強引に促す手法が批判を集めそう だ。

 毎日新聞は支援チームが昨年11月に作成した公表用資料(現在も 未公表)などを入手した。これらによると、新型の個人線量計によ る測定調査は、支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構 (原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が昨年9月、 田村市都路(みやこじ)地区▽川内村▽飯舘村の3カ所( いずれも福島県内)で実施した。

 それぞれ数日間にわたって、学校や民家など建物の内外のほか、農 地や山林などでアクリル板の箱に個人線量計を設置するなどして線 量を測定。データは昨年10月半ば、支援チームに提出された。一 般的に被ばく線量は航空機モニタリングで測定する空間線量からの 推計値が使われており、支援チームはこれと比較するため、生活パ ターンを屋外8時間・屋内16時間とするなどの条件を合わせ、農 業や林業など職業別に年間被ばく線量を推計した。

 関係者によると、支援チームは当初、福島県内の自治体が住民に配 布した従来型の個人線量計の数値が、航空機モニタリングに比べて 大幅に低かったことに着目。

関係省庁の担当者のほか、有識者や福島の地元関係者らが参加する 原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・ 安心対策に関する検討チーム」が昨年9~11月に開いた会合で調 査結果を公表し、被ばく線量の低さを強調する方針だった。

 しかし、特に大半が1ミリシーベルト台になると想定していた川内 村の推計値が2.6~6.6ミリシーベルトと高かったため、 関係者間で「インパクトが大きい」「 自治体への十分な説明が必要」などの意見が交わされ、 検討チームでの公表を見送ったという。

 3市村に報告へ その後、原子力機構と放医研は支援チームの再要請を受けて、屋外 8時間・屋内16時間の条件を変え、NHKの「2010年国民生 活時間調査」に基づいて屋外時間を農業や林業なら1日約6時間に 短縮するなどして推計をやり直し、被ばく推計値を低く抑えた最終 報告書を作成、支援チームに今月提出した。支援チームは近く3市 村に示す予定だという。

 支援チームの田村厚雄・担当参事官は、検討チームで公表するため の文書を作成したことや、推計をやり直したことを認めた上で、「 推計値が高かったから公表しなかったのではなく、生活パターンの 条件が実態に合っているか精査が必要だったからだ」 と調査結果隠しを否定している。

 これに対し、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)は「屋 外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えるこ と自体がおかしい。自分たちの都合に合わせた数字いじりとしか思 えない」と指摘する。

 田村市都路地区や川内村東部は避難指示解除準備区域で、政府は4 月1日に田村市都路地区の避難指示を解除する。また川内村東部も 来年度中の解除が見込まれている。
【日野行介】