毎日新聞
2014年2月19日朝刊
見送られた特別警報
「雪続かぬ」と判断
関東甲信地方を中心に各地で観測史上最大の積雪を記録し、多数の孤立集落を発生させた今回の大雪に対し、気象庁は「特別警報」を発表しなかった。
特別警報は、重大な災害が起こる可能性が著しく高い場合に発表する。大雪では、「50年に一度」の雪が積もった状況で、さらに大雪警報に相当する降雪が1日以上続くと予想される場合が対象だ。
「50年に一度」の雪の深さには地域ごとに基準値があり、観測史上最大の積雪114センチを観測した甲府市では41センチ▽同98cmだった埼玉県秩父市48センチ▽同73cmの前橋は31センチ――などと定められている。
今回の雪では、14日夜から15日未明にかけて各地で基準値を超え始め、同庁は特別警報の発表を検討した。しかし雪は、関東甲信では正午ごろやむと予想。「丸一日以上刑法レベルの雪は続かない」と判断し発表は見送った。実際、降雪は徐々に少なくなった。
しかし、今回の雪の影響とみられる死者は群馬、埼玉など8件で18人に上った。
基準を低くすれば大規模災害への警告の意味がなくなるなど弊害は否定できないものの、孤立集落が発生した関東地方の自治体の防災担当者からは「特別警報が出ていたらもう少し早く対応できたかもしれない」との声も上がる。
同庁業務課は「今回の記録的な大雪の事例を検証し、どのように情報提供していくべきか検討したい」と話している。
2014年2月18日
大雪:除雪難航、孤立続く 食料、灯油ピンチ…山梨・早川
町全体が14日夜から孤立状態の山梨県早川町に18日、記者が取材に入った。同日午前までに町役場までは緊急車両などが通れるようになったが、山間に点在する多くの集落が孤立したまま。自衛隊などによる除雪は大量の雪のため難航している。町は「食料や灯油が底をつき始めている世帯もある」と危機感を募らせている。
町の玄関口に当たる同町高住にある町役場。そこまでの県道は同日午前までの除雪で車1台が通る道が確保されたが、多くの場所に雪崩や倒木などが残る。町内37集落のうち22集落に近付けない状態で、一部の集落では停電も続いている。
「踏んだり蹴ったりでつらい」。高住地区の北隣・薬袋(みない)地区で1人暮らしの無職、水野定夫さん(87)は嘆く。今月上旬の大雪で屋根の雪下ろしの際に転落して調子を崩し、また豪雪に見舞われた。毎日届いていた宅配食も滞っている。「こんな雪は初めて。近所の若い夫婦が食事を作ってくれて助かっている」と話す。
町内の民家は1メートル以上の雪に埋もれ、屋根などが壊れた家も目立つ。山の斜面に残る雪には亀裂が走り、いつ雪崩が起きてもおかしくない危険な状態だ。薬袋の西隣にある大島地区の農業、望月健市さん(72)は「個人の力では限界。燃料もポリタンクにあと少しだった。このまま続いていたらとぞっとする」と振り返る。
山間の過疎地である町は665世帯1183人が居住。高齢化率は49.8%に達する。町職員は14日から役場に泊まり込みで安否確認などを実施。耳が遠く電話に気づけない90代女性の家まで、半日がかりで確認に行った。18日も町の最奥部にある稲又集落の60〜80代3人の確認を自衛隊が徒歩で行った。
町の望月公隆総務課長は「孤立集落はお年寄りが多く、自宅周りの雪かきもできていないはず。一刻も早い除雪を」と訴える。【片平知宏、藤河匠】
◇東京から移住の小森さん「驚き」
早川町に昨年3月、小学生の3人の子供たちと山村留学するため東京都杉並区から同町に移住してきたカメラマン、小森由美子さん(47)は毎日新聞の電話取材に、「積雪は少ない地域だと聞いていました。ご近所でも対策はあまりしていなかったそうで、顔を見合わせて驚いています」と話した。
今年2度目の大雪が降り始めたのは14日の朝。翌15日朝には、住宅の周りに物干しざおの高さまで雪の壁ができた。近所に雪かきの手伝いに行こうとしたが、1歩歩いた途端に腰まで雪で埋まり、断念した。数回の停電と断水も発生。集落によっては、4日間停電しているところもあるという。小森さんは「お世話になっている高齢の方々が心配です」と、集落の人々を気にかけていた。【山崎明子】