独仏は「知る権利」強化 報道機関捜査に批判 

 政府の秘密保護をめぐって、厳しい罰則を定めている海外の主要国では「国民の知る権利」との関係で問題が相次いで表面化している。特に欧州では、知る権利の拡大に向け、関連の法改正を進める動きが目立つ。
 
 刑法の「秘密漏えい罪」で公務員による国家機密の漏えいを五年以下の禁錮と定めるドイツでは昨年三月、報道の自由が妨げられるとして刑法改正を促す「報道の自由強化法」が成立。六月には刑法を改正し、ジャーナリストを漏えい罪の対象外とした。この結果、ドイツの司法当局は、捜査や裁判でジャーナリストに対して機密情報を提供した人物の名を明かすよう迫ることができなくなった。
 
 法改正のきっかけは二〇〇五年九月、捜査当局の秘密文書を基に国際テロ組織アルカイダの活動を報じた雑誌の編集部と編集者宅が家宅捜索されたことに批判が起き、憲法裁判所が捜索の違法性を認めたからだった
 
 フランスでも〇七年に、米中枢同時テロ関連の仏情報機関の極秘資料を報じたとしてルモンド紙記者が拘束され、批判が噴出刑法が一〇年に改正され、報道機関の情報源に関わる捜査を原則禁止にした。昨年就任した左派のオランド大統領は、報道の自由の保障をさらに強化すると公約捜査権を縮小する法案を提出し、国会で審議が進められている
 

官の不正も機密? 内部告発、逮捕の懸念 

 組織の不正を内部告発した人の立場を守る公益通報者保護法は、公務員にも適用される。しかし、機密を漏らした公務員らへの罰則が強化される特定秘密保護法ができれば、内部告発が困難となる場合がありそうだ。国の不正は、さらに表に出にくくなる可能性がある。 (早川由紀美)
 
 「今後、警察の不正を内部から明らかにしようという人は出てこなくなるでしょうね」
 元愛媛県警巡査部長の仙波敏郎さん(64)は話す。二〇〇五年、裏金問題を現職警官としては初めて実名で明らかにした。捜査協力者に支払ったという体裁の領収書を偽造し、捜査用報償費(県費)や捜査費(国費)から裏金を捻出するという手法だった。
 
 「捜査費にまつわることを話せば、警察庁長官が指定した、テロなどに関わる特定秘密に触れたとして逮捕されることもありうるのではないか」と推測する。
 そもそも〇六年施行の公益通報者保護法には、報復人事をした会社への罰則がなく、通報した人は依然、不安定な立場に置かれている。仙波さんは、精密機器大手オリンパス社員の浜田正晴さんや、元トナミ運輸社員串岡弘昭さんらと公益通報者のネットワークをつくり、法改正を求めているが行方は不透明だ。
 そこに、最高で懲役十年となる秘密保護法ができれば、公務員の口はなおさら重くなる。
 
 森雅子担当相は二十四日の参院予算委員会で「政府中枢や当局の違法行為や重大な失態は、特定秘密の対象になり得ないので、通報しても罰せられない。公益通報者保護法で保護される」と答弁している。
 
 しかし公益通報に詳しい阪口徳雄弁護士は「公益通報者保護法は民事上不利益に取り扱わないというルールを定めたもので、刑事罰に触れる行為をした場合に免責にするとはしていない」と説明する。特に秘密保護法のように重い刑事罰の場合、「実務の現場では森大臣のような説明は吹き飛ばされるだろう」と言う。
 「違法行為は特定秘密になり得ない」という答弁についても、疑問を示す。例えば防衛省の官製談合の場合、特定の社にしか受注できない仕様書は、談合という違法行為そのものではないが、重要な証拠にはなりうる。しかし、仕様書は安全保障上の理由で、特定秘密に指定される可能性が高い。「特定秘密保護法は、省庁の違法行為を隠す役割を担うことになる」と指摘する。
 
公益通報者保護法> 企業や官庁の不正や犯罪行為を告発しても、解雇などの不利益な扱いを受けないよう通報者を守るのが目的。2004年6月成立、06年4月施行。通報先は(1)組織の内部(2)処分や勧告をする権限を持つ行政機関(3)マスコミなどの外部-となっているが、(3)の場合は内部通報後20日を過ぎても調査されなかったり、通報すると証拠隠滅の恐れがある場合など、要件が厳しくなっている。
(東京新聞)