リビア首相、武装勢力が一時拉致 米作戦に報復か

2013/10/11日本経済新聞
【カイロ=押野真也】リビアの首都トリポリで10日、暫定政権を率いるゼイダン首相が武装勢力に一時拉致される事件が起きた。2011年のカダフィ政権崩壊から国家の再建が遅れ、武装勢力による石油施設などへの攻撃も相次いでいる。リビアの不安定化はエジプトなど周辺国にも影響を与えており、地域の安定を揺るがしている。
 
 10日早朝、首相の住居があるトリポリ中心部の高級ホテルに重火器で武装した集団が押し入り、首相を拉致した。同日午前中に解放された首相は閣議で「解放に関わった人々」に感謝すると表明し、救出作戦があったことを示唆した。
 
 米軍がリビア国内で対テロ作戦を実施し、5日に国際テロ組織「アルカイダ」の幹部を拘束したばかり。今回の拉致事件はこの作戦への報復との見方がある。11年の内戦に参加した元民兵組織の犯行とみられ、背後ではアルカイダが関与しているとの報道もある。
 リビアでは内戦時に国外から大量の武器が流入し、多くの民兵組織が発足した。民兵組織を取り込んで国軍を再編する計画が進まぬ中で、政府関係者などを拉致する事件が続発。身代金を要求したり、組織メンバーの釈放を要求したりするなど、動機は様々で、今回の拉致事件についても背後関係などは不明だ。
 
 周辺国にも深刻な影響をもたらしている。隣国のエジプトでは、リビアから持ち込まれたとみられる武器や弾薬がイスラム過激派の手に渡っているもようだ。東部のシナイ半島では軍や警察施設が立て続けに襲撃される事態が起きている。
 
 1月に起きた、隣国アルジェリアの人質事件ではリビアから武器や武装組織のメンバーが流入したことが確認されている。リビアとエジプト、チュニジアは11年に相次いで独裁政権が崩壊。いずれも国内の混乱から国境警備が手薄になり、テロ組織が国境を越えて活動しているとされる。
 
 テロ対策は国家間の連携が不可欠だが、リビアでは部族間の対立から憲法制定のメドが立たず、本格政府への移行時期も不透明。エジプトとチュニジアも暫定政権が統治する状態が続き、本格的なテロ対策を打ち出せずにいる。アルカイダは北アフリカ地域を新たな活動の拠点にしているとの懸念も高まっている。
 
 英BPによると、リビアの原油確認埋蔵量は約480億バレルで、アフリカ大陸で最大。独裁政権崩壊後は原油や天然ガスの生産で経済再生も順調に進むとみられていた。しかし、油田や精製施設、港湾も攻撃を受けており、原油生産への打撃も懸念されている。

 
リビア首相、元反政府勢力が解放後テレビ出演 
ロイター2013年 10月 11日
 
  リビアのゼイダン首相は10日、元反政府勢力の一団による拘束から解放された後、テレビに生出演した。
首相はテレビ放送された閣議で、「リビア人にはこの状況に対応するために、激化ではなく知恵が必要だ」と述べ、解放を手助けした反政府勢力の一部に謝意を表し、軍に加わるよう呼びかけた。
元反政府勢力の一団は、米軍がリビアで国際武装組織アルカイダのリビア人幹部を拘束したことへの報復として、首都トリポリのホテルから首相を連れ去り、数時間拘束した後解放した。
 
 

武装集団がリビア首相を拉致し連れ去る、首都の高級ホテル

2013.10.10 Thu
(CNN) リビアのアリ・ジダン首相の報道担当者は10日、武装集団が同日未明、首都トリポリの高級ホテルで首相を拉致し、不明の場所へ連れ去ったと述べた。CNNに明らかにした。
 
誘拐の現場となったコリンティア・ホテルの従業員によると、首相は待機していた車列に連れ込まれた。この際、銃撃戦などの衝突は起きず、武装集団は礼を失した行動は取らなかったという。
民兵組織「Operations Room of Libya's Revolutionaries」が同首相は財政、行政上の汚職容疑に問われたため拘束したと明らかにした。同組織は内務省との関係が深いとされ、これまで多数の民兵組織の制御を試みたが失敗したという。各省は警備要員の確保などそれぞれ抱える事情に応じて各民兵組織と協力するのが実情となっている。
 
法務省はジダン首相に逮捕状は出ていないとして、今回の事件を誘拐と断定した。首相府は当初、交流サイト「フェイスブック」でジダン首相の拉致はうわさと否定したが、後になり誘拐犯に強要された上での説明だったと述べた。
 
リビア東部では民兵組織らが自治権拡大などを要求。同国の主要な外貨獲得源でもある原油生産にも大きな混乱が出ている。
 
リビアでは2011年8月、一部の欧米諸国による空爆などの支援を得た反体制派が強権政治を長年敷いてきたカダフィ政権を駆逐。ただ、これ以降、地域の部族などに根差した民兵組織が乱立して治安が悪化し、移行政府の統治の脅威ともなっていた。
 
ジダン政権は民主的に選ばれているが、閣僚の人選に反発する武装勢力が法務や外務など主要省庁を包囲し、圧力を加える事件も相次いでいる。
カダフィ政権崩壊に伴い、民兵組織に流出した大量の兵器の処理も課題となっている。リビア政府の情報機関当局は同国は国際テロ組織アルカイダが組織再編や世代交代を図る聖域と化しつつあるとの危機感も表明していた。