内外製薬資本の利権漁りの場と化すTPP参加国交渉


  経済的弱者の命綱を奪う米国の新薬特許延長の要求

 今朝の「読売新聞」1面に、「新薬特許、米が延長要求」という見出しの記事が載っている。それによると、今月25日までマレーシアで開かれたTPP参加国交渉会合の「交渉の中で、世界的な製薬会社を抱える米国が新薬の特許期間を延長するよう要求していることが現地の交渉関係筋の話で分かった」という。こうした米国の要求に対しては、「マレーシアなどの新興国が強く反発しているほか、医療費を抑制するため、安価な後発薬の普及を進めている日本も慎重な立場で、今後の交渉の焦点の一つになりそうだ」という。

 記事によると、「日本は、新薬(先発薬)の特許期間を最長25年に設定しているが、関係筋によると、米国はTPP参加に先立つ日米事前協議で特許期間を数年程度、延ばすよう求めていたが、同様の要求を日本以外の参加国にもすでに行っている」という。
 こうした「米国の要求の背景には、米製薬業界の『特許期間が短いと企業の新薬開発意欲がなくなり、結果的に悪影響が出る』との主張があるとみられる。これに対し、後発薬に頼っているマレーシアなどは、後発薬の発売が遅れると自国の低所得者層を中心に影響が出るとして警戒感を強めている。」

 以上のような新薬への開発投資の保護を大義名分にした米国の新薬特許期間の延長要求は今に始まったことではない。これについては、筆者も『文化連情報』20131月号に寄稿した論稿で取り上げた。同誌の編集部の許可を得たのでその全文を以下、ここに転載することにした。

  日本の医療財政の改善策を阻む先発薬の保護強化要求
  これをお読みいただければ、新薬の特許期間延長など医薬品への投資の保護を強化すべきという米国の要求は、安価なジェネリック薬を命綱とする途上国の貧民の健康と生命を犠牲にしてでも販路の拡大と薬価の高値維持を求める多国籍製薬資本の強欲を代弁するものであることが理解いただけると思う。
 また、そうした日本国内外の製薬資本の強欲に屈して割高な先発薬の特許権保護を強化することは、開発費を要しない分だけ新薬より安価な後発医薬品を普及させることによって薬剤費、ひいては窮迫する医療保険財政の立て直しを図ろうとしている厚労省のロードマップの達成を阻む重大な障害となることを理解いただけると思う。

(補足)
 厚労省は2007年に、2012年度末までにジェリック医薬品の数量ベースの普及率を30%以上とする目標を掲げたが、実際には26.3%にとどまった。そこで、本年4月に、普及率の算定方法を変更した上で、2017年度末までにジェリック医薬品(数量ベース)の普及率を60%以上とする目標に改めた。
 ちなみに、日本製薬工業会/医療産業政策研究所がまとめたリサーチ・ペーパー(「後発医薬品の使用促進と市場への影響」20126月)によると、2009年現在の各国のジェネリック医薬品の数量シェアは次のとおりだった。
  アメリカ  72.0%      カ ナ ダ  66.0
  イギリス  65.0%      ド イ ツ  63.0
  フランス  44.0%      スペイン  37.0
  日  本  21.0%      イタリア   6.0

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(以下は『文化連情報』№41820131月号に寄稿した拙稿を同誌編集部の許可を得て転載するものである。)全文のPDF版は次のとおり。
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tpp_yakka_bunkaren.pdf

                             
  TPPは薬価制度をどう変えるか
                                ~医薬品業界の経営動向~


                           醍醐 聰

TPP
は単なる貿易自由化協定ではない
薬価制度を脅かすTPP
ジェネリック医薬品の普及に逆行する知財保護要求
医療を受ける国民の権利に対する多国籍製薬資本による挑戦

2013726日(この記事の画面右サイドの「TPPニュースクリップ」の山田俊男氏の発言も是非、ご覧ください。)http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130723/plc13072322060023-n1.htm