社会権規約委員会:日本に対する第3回総括所見
配布:一般
2013年5月17日
原文:英語 先行未編集版
(日本語訳:社会権規約NGOレポート連絡会議)
経済的、社会的および文化的権利に関する委員会
第50会期(2013年4月29日~5月17日)に採択された、
日本の第3回定期報告書に関する総括所見
1.経済的、社会的および文化的権利に関する委員会は、2013年4月30日に開かれた第3回および第4回会合(E/C.12/2013/SR.3-4)において日本の第3回報告書(E/C.12/JPN/3)を検討し、2013年5月17日に開かれた第28回会合において以下の総括所見を採択した。
A.序
2.委員会は、日本による第3回定期報告書の時宜を得た提出を歓迎する。当該報告書は、委員会の報告ガイドラインにしたがっており、かつ、委員会が前回の総括所見で行なったいくつかの勧告の実施に関する最新情報を提供するものであった。委員会はまた、共通コアドキュメント(HRI/CORE/JPN/2012)の提出を歓迎する。
3.委員会は、事前質問事項に対する詳細な文書回答(E/C.12/JPN/Q/3/Add.1)の受領、および、締約国のハイレベルな省庁横断型代表団との建設的対話に、満足感をもって留意する。
B.積極的な側面
4.委員会は、2001年に行なわれた締約国との前回の対話以降、締約国が以下の文書を批准したことを歓迎する。
(a) 子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書および武力紛争への子どもの関与に関する同選択議定書(それぞれ2005年1月24日および2004年8月2日)。
(b) 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(2009年7月23日)。
5.委員会は、無償教育の漸進的導入に関する第13条第2項(b)および(c)についての締約国の留保が撤回されたことに、満足感をもって留意する。
6.委員会は、経済的、社会的および文化的権利の実施を促進するために締約国が行なっている努力に、評価の意をもって留意する。これには以下の取り組みが含まれる。
(a) アイヌを先住民族として認めたこと。
(b) 中等教育までの授業料無償化プログラムを導入したこと。
(c) 「待機児童ゼロ作戦」を実施したこと。
(d) 2009年に国籍法を改正し、婚外子が日本人父の国籍を取得できるようにしたこと。
C.主要な懸念事項および勧告
7.委員会は、締約国が国内法体系において規約の規定を実施していない旨の前回の懸念をあらためて表明する。このような状況が、規約の規定は適用されないという締約国の裁判所の決定につながってきた。委員会はまた、締約国が、規約上の義務は即時的効力を有しないと解していることを懸念する。(第2条第1項)
委員会は、国内法体系において規約を全面的に実施するために必要な措置をとるよう、締約国に対して促す。
そのための手段には、締約国が規約の規定に自動執行力がないと考える場合に関連の法律を制定することも含まれる。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、規約の国内適用に関する一般的意見9号(1998年)を参照するよう求める。
さらに、締約国の義務の性質に関する一般的意見3号(1990年)を参照しつつ、委員会は、規約上の権利には即時的性質を有する最低限の中核的義務がともなっていること、および、「漸進的実現」の語は、規約上の権利の全面的実現を可能なかぎり迅速かつ効果的に達成する義務を課すものであることを、締約国が想起するよう求める。
委員会はまた、締約国に対し、委員会の先例および一般的意見を念頭に置きながら、司法研修所のカリキュラムならびに司法専門職および弁護士を対象とする研修プログラムにおいて経済的、社会的および文化的権利の裁判適用可能性が十分に取り上げられることを確保するよう求める。
8.委員会は、締約国で国内人権機関がいまなお設置されていないことに、懸念をもって留意する。
この点に関する前回の勧告をあらためて繰り返しながら、委員会は、締約国に対し、パリ原則にしたがった国内人権機関の設置を速やかに進めるよう促す。
委員会は、締約国に対し、とくに経済的、社会的および文化的権利の保護における国際人権機関の役割に関する一般的意見10号(1998年)を参照するよう求める。
9.委員会は、社会的扶助に対する予算配分額が相当に削減されたことにより、とりわけ全住民のうち不利な立場に置かれた集団および周縁化された集団にとって、経済的および社会的権利の享受に悪影響が生じていることに、懸念をもって留意する。(第2条第1項、第2条第2項、第9条、第11条)
締約国の義務の性質に関する一般的意見3号(1990年)を想起しながら、委員会は、後退的措置は利用可能な最大限の資源を全面的に活用する中でのみとられることを確保するよう、締約国に対して求める。
さらに、委員会は、締約国に対し、社会的給付の削減が受給者による規約上の権利の享受に及ぼす影響を監視するよう求める。
委員会はまた、社会保障についての権利に関する一般的意見19号(2007年)のパラ42、および、世界的な経済・財政危機の文脈における規約上の義務に関して委員会の委員長が締約国に送付した2012年5月16日付書簡に対して、締約国の注意を喚起する。
10.委員会は、法改正を行う際に規約上の義務との一致を確保しようとする締約国の努力にも関わらず、女性、婚外子および同性カップルに対して差別的な規定が締約国の法律に存在し続けていることに、規約上の権利が関係するかぎりにおいて、懸念をもって留意する。(第2条第2項)
委員会は、規約上の権利の行使および享受に関して法律で直接または間接の差別が行なわれないことを確保するため、法律を包括的に見直し、かつ必要であれば改正するよう、締約国に対して促す。
11.委員会は、雇用等の分野では差別の禁止に関する法規定が存在するにも関わらず、締約国の法律において、規約が禁じている事由にもとづく差別からの全面的保護が提供されていないことに、懸念をもって留意する。(第2条第2項)
委員会は、法律で、規約の規定にしたがって経済的、社会的および文化的権利の全分野における差別が効果的に禁じられ、かつそのような差別に対する制裁が定められることを確保するよう、締約国に対して求める。
これとの関連で、委員会は、形式的および実体的差別を解消し、かつ特別措置の実施について規定することを目的とした、差別の禁止に関する包括的法律を制定するよう、締約国に対して奨励する。
委員会はまた、締約国に対し、経済的、社会的および文化的権利についての差別の禁止に関する一般的意見20号(2009年)を参照するよう求める。
12.委員会は、締約国の雇用法において障害を理由とする差別からの全面的保護が定められていないことに、懸念をもって留意する。さらに、委員会は、必要な場合に職場で合理的配慮を行なう法律上の義務が存在しないことも懸念する。委員会はまた、労働へのアクセス可能性を高めるための措置のような措置がとられているにも関わらず、障害のある人が雇用面で事実上の差別を経験していること(基準以下の条件で保護的就労施設に配置されることを含む)に、懸念をもって留意する。(第2条第2項)
委員会は、雇用のあらゆる側面において障害のある人に対する差別を禁止し、かつ必要な場合に職場で合理的配慮を行なう義務についても定める改正障害者基本法を速やかに制定するよう、締約国に対して求める。委員会はまた、保護的就労施設で働く障害のある人に対して労働基準を適用するとともに、障害のある人を対象とした、労働市場における生産的なかつ有給の就労の機会を、クオータ(割当枠)制の適用等も通じて引き続き促進するよう、締約国に対して求める。委員会はさらに、締約国に対し、障害のある人の権利に関する条約を批准するよう奨励する。
13.委員会は、締約国で根深く残るジェンダー役割についてのステレオタイプのため、女性による経済的、社会的および文化的権利の平等な享受が妨げられ続けていることを懸念する。委員会はまた、数次にわたる男女共同参画基本計画の採択のような措置がとられたにも関わらず、ジェンダー役割に関する社会一般の態度の変革を狙った十分な措置がとられてこなかったことに、懸念をもって留意する。さらに、委員会は、締約国の称賛すべき努力にも関わらず、労働市場における垂直および水平のジェンダー分離がいまなお徹底していること、および、出産後に離職またはパートタイム就労への移行を余儀なくされる女性の割合が高いことに表れているように、進展がなかなか見られないことを懸念する。委員会は、第3次男女共同参画基本計画で締約国が控えめな目標しか設定しておらず、規約上の権利の行使に関する平等の達成が加速されることはないであろう点を遺憾に思う。(第3条)
委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
(a) ジェンダー役割に関する社会のとらえ方を変革するための意識啓発キャンペーンを実行すること。
(b) 伝統的にいずれかの性が多数を占めてきた分野以外の分野での教育の追求を促進する目的で、女子および男子に対して平等な就業機会に関する教育を行なうこと。
(c) 男女共同参画基本計画において男女双方を対象とするいっそう大胆な目標を採択するとともに、教育、雇用ならびに政治的および公的意思決定の分野においてクオータ(割当枠)制等の一時的措置を実施すること。
(d) コース別雇用管理制度および妊娠を理由とする解雇のような、女性差別である慣行を廃止すること。
(e) 待機児童ゼロの達成をいっそう速やかに進めるとともに、保育が負担可能な料金で利用できるようにすること。
委員会は、締約国が、規約上の権利の享受に関する、性別、所得水準別および学歴別に細分化された統計データを(対話の際に代表団によって宣言されたとおり)次回の定期報告書に記載するとともに、男女平等に関する政策立案においてこのようなデータがどのように参考にされたかを説明するよう要請する。
14.委員会は、締約国の刑法が、強制労働の禁止に関する規約の規定に違反して、刑の一つとして懲役を規定していることに、懸念をもって留意する。(第6条)
委員会は、矯正措置または刑としての強制労働を廃止し、かつ、規約第6条に基づく義務にしたがって関連の規定を改正しまたは廃止するよう、締約国に対して求める。委員会はまた、締約国に対し、強制労働の廃止に関するILO第105号条約の批准を検討するよう奨励する。
15.委員会は、雇用および職業における差別に関するILO第111号条約の批准を検討するべきである旨の締約国に対する勧告をあらためて繰り返す。
16.委員会は、契約の性質に関係なくすべての被用者について同一の評価・能力認定制度を活用するよう促す奨励策を締約国がとっているにも関わらず、使用者によって有期契約が濫用されており、かつ、有期契約労働者が不利な労働条件を課されやすい状態に置かれていることを懸念する。委員会はまた、使用者が、有期契約を更新しないことにより、改正労働契約法で導入された有期契約から無期契約への転換を回避していることを懸念する。(第6条、第7条)
委員会は、締約国が、有期契約に適用される明確な基準を定める等の手段により、有期契約の濫用を防止するための措置をとるよう勧告する。同一価値労働について平等な報酬を確保する締約国の義務を参照しながら、委員会はまた、締約国が、有期契約労働者の不平等な待遇を防止するという目的が奨励金制度によって達成されているか否かを監視するよう勧告する。さらに、委員会は、有期契約労働者の契約が不公正に更新されないことを防止するため、労働契約法の執行を強化しかつ監視するよう、締約国に対して求める。