《山内康一(みんなの党)の「蟷螂(とうろう)の斧」から》
 ● 道徳教育の教科化・強化


 いじめ対策として道徳教育の強化が議論され、教育再生実行会議でも提言が出されています。
 昨日の予算委員会の教育分野の集中審議では、道徳教育に関する質問をしました。
 しかし、あまりかみ合った議論にはならず、何となく消化不良なまま終わりました。

 ○道徳教育を全国一律カリキュラムでやる国は、あるのかという質問を最初にしました。
 それに対しては、韓国がやっているという答え。他に欧州では、宗教教育をやっているとの答弁。
 つまりは先進国で道徳教育を教科として取り上げ、国がやっている国はほとんどありません。
 道徳教育とは良心の関わることなので、思想・信条・良心の自由に関わります。
 国家が道徳を統制することに対しては、警戒感を持つ国が多いのだと思います。


 ○次に「道徳教育をすればいじめはなくなる」とする根拠は何かと尋ねました。
 具体的な根拠はないことがわかりました。

 道徳教育を行えば子どもの規範意識が高まり、その結果として、いじめはなくなるだろう、という希望的観測に基づく政策のようです。
 教育政策もエビデンスベースで議論しましょう、というのが国際的なトレンドになっています。
 教育学者等の専門家が、新しい教育手法を試し、ある程度の効果があることを検証した上で、それを普及していくというのがトレンドです。
 下村文科大臣には、そういう発想はなさそうです。

 いじめ自殺がおこった大津市の中学校というのは、文科省の道徳教育研究事業のモデル校でした
 道徳教育のモデル校でも、いじめ問題は発生して、自殺にまで至っているわけです。
 文科省が推進する道徳教育の効果がないことを、実証するモデル校になってしまっています。
 サンプル数が少ないので結論は出せませんが、道徳教育をやればいじめがなくなる、という単純な答えにはならないように思います。

 ○また「道徳教育を強化しなくてはいけないのは、道徳水準が下がっているという認識に基づくのか」という趣旨の説明をしました。

 文科大臣の答えは、社会の規範意識が低下している、といった趣旨の答弁でした。
 何を根拠にそうお答えになるのか不明です。
 いつの時代も「最近の若者はなっていない」と、おじさんたちは嘆くものです。
 おそらく「最近の若者は無礼でなってない」と言われ始めてから、3000年くらいでしょう。
 また、教育再生を叫ぶ政治家の多くは、「少年の凶悪犯罪が増えている」と主張し、道徳教育や教育改革を訴えいます。
 下村文科大臣も「青少年による凶悪犯罪の増加などの問題に直面をしております」と発言して、教育改革の必要性を訴えておいででした。

 しかし、実際のところは、少年の凶悪犯罪は、増えるどころか、長期的には減少傾向です。
 警察庁によれば、凶悪犯少年の検挙人数の推移は、以下のようになっています。
        凶悪犯    殺人
昭和33年  7,495  359
昭和47年  2,848  147
平成 3年  1,152   76
平成24年    836   46

*凶悪犯=殺人、強盗、放火、強姦
*少年=14歳以上20歳未満
 つまりは、少年の凶悪犯罪は増えていません。
 教育再生を訴える人たちの根拠のひとつは誤りです。
 こういうデータを見ていると、いまの少年たちも、そんなに規範意識が悪化しているとは思えません。

 安倍総理は「オールウェイズ3丁目の夕日」が、お好きなようで著書でも感想を述べられています。
 東京タワーのそばの下町で、みんなが貧しいが、地域の人々はあたたかいつながりのなかで生きていた時代、と安倍総理は述べています。
 しかし、当時(昭和33年)は少年の凶悪犯罪は多く、当時の人口動態を見ると、若者が農村から都市に移り、農村社会が激変した時期でもあります。
 当時の少年の方がは、今どきの少年よりも、凶悪犯罪を起こす確率は高いわけです。
 人は誰でも過去を美化したくなるものです。
 特に安倍総理の周辺には、過去を美化する人が、大勢集まっているようにお見受けします。
 個人的にノスタルジーにひたるのはいいですが、政策判断の根拠は情緒的な懐古主義ではなく、客観データや事実に基づくべきです

 単なる思い込みや印象論で政策判断をするのではなく、専門的知見や客観データに基づき判断すべきです。
 安倍政権の危うさを感じます。
 思い込みの政策判断では、教育だけではなく、外交や安保も危ういです。

『山内康一 の「蟷螂(とうろう)の斧」』(2013年4月11日)
http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-6459.html

※動画『みんなの党が道徳否定の酷い質疑で安倍総理が激怒!! 平成25年4月10日』
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=UDvePufSXhA
 
 
パワー・トゥ・ザ・ピープル!! パート2