月刊マスコミ市民「放送を語る会 談話室」 からの転載

スカイツリーからの地デジ放送開始と新たな受信障害
 
放送を語る会会員 松原十朗
 
  東京スカイツリーからいよいよ地デジ放送が開始される時期が迫り、試験電波が出された。受信情況を調査した結果、少なくない地点で電波障害が発見されて関係者は困惑しているようだ。
 “新しい観光スポット”としてのスカイツリーが繰り返し放送されているために、多くの人は現在、地デジ放送もスカイツリーからのものと思い込んでいる。しかし、2011年7月アナログ放送停止後も、地デジは東京タワーのアナログアンテナより低い高さ(265m)から送信されている。アンテナの位置が低いことに加えデジタル波のためアナログ放送よりサービスエリアも小さいのだが、これも知らされていない。
 東京タワーからスカイツリーに送信が切り替わると、8.4km送信所が移動する。アンテナの方向調整が必要な送信所に近い所でも、「強電界地域は電波が強いので、受信障害は生じない、何とかなるだろう」考えていたようだ。私からみれば随分粗雑な処理思考だと思う。
 「ゴーストを除去できるデジタル波」であり、「送信アンテナの高さも265mから630mになる」とはいっても、山も谷もない大草原の中の送信タワーではない。巨大な高層ビルが立ち並び、その中に密集した住宅地のある23区内で、送信所が8.4kmも移動する。そのために不特定多数の受信点で電波の到達情況が変化する。そのとき、「不具合になるポイントは生じないか」と、現場を少しでも視野におけば、常識的に考えるものであろう。
 電波伝播の理論に寄りかかって(?)「アンテナの高さが2倍になるのだから」「ゴーストを処理できるデジタル波だから」といって、“万が一”を想定してこなかったのは現場を預かっている関係者の怠慢だと思う。
 
 デジタル波への移行にはアナログ波と併存する期間を設けるのが常識
 
 当面している課題は前例のない性格の問題である。
 通常のアナログからデジタルへではなく、1000万単位の受信者をもつ首都圏で、デジタルからデジタル、送信所の8km移動に対応しなければならないのである。
 なぜ、こうした事態を招いたのか?
 「地上デジタル放送懇談会」(NHK、民放、総務省等で構成、97.5~98.10)の報告書は、「地上デジタル放送」の導入の道筋として、「アナログ波とデジタル波の併存期間を設け、その期間にデジタル波への移行」を提案していた。具体的には、「アナログ放送終了時期とその検討条件は、1-デジタル放送の普及率85%以上、2―現行のアナログ放送対象と同一対象地域をデジタル放送で100%カバーしていること」とされていた。
 アナログ放送を停止した2011年7月、これらの条件が全く顧みられなかった。本来ならば、アナログ放送は延長されねばならなかったのである。
 
 デジタル→デジタルの困難な綱渡りを乗りこえるには
 
 スカイツリーへの移行は当初予定の2013年1月から5月に延期されたが、難問となっている受信障害にどう対応するのか。関係者に問い合せた。
 「移行前にスカイツリーにアンテナを向ければ東京タワーが受信できなくなるケースが心配。そういう場合どうするのか」の問に対して、「どちらかが見えなくなることは考えていない。アンテナの方向調整等で両方受信できるようにする」との回答だった。
 電界強度の関係では、電波の強い東京23区内は「ブースターの調整か、交換も必要になってくる場合がある」とも言う。こうした障害が万単位で起こる心配もあるがどう対応するのか?
 答えは、「3月から4月の受信障害対応は続ける」「その内容はまだ具体化はしていない」という心もとないものだった。また、東京タワーからの電波を山梨等で受信しているが、スカイツリーに移ると受信不能になってしまう事例についても把握していなかった。
 東京タワーからスカイツリーへの移行には、スケジュール優先ではなく移行時期を延期しても、受信者に過大な負担を強いることのないよう十分に配慮して欲しいもの。 今後どのような障害が発生するか予測し難い。何よりも、拙速を避け、受信障害の有無の調査を十分に行い、受信者に時間をかけた丁寧な説明ときめ細かで柔軟な対応策が関係者に求められる。
2013年3月号より