独立行政法人・都市再生機構(UR)が耐震強度不足を理由に、日野市の「高幡台団地」73号棟の解体を決め、居残った住民7世帯に対して立ち退きを求めた訴訟の判決がきょう28日、地裁立川支部で言い渡される。耐震強度不足の賃貸住宅で、家主が改修をせずに解体を決めたことが、立ち退きを求める場合の正当な理由に当たるのか――。耐震補強のあり方を裁判所がどう判断するか、注目される。
 URによると、高幡台団地73号棟は1971年に入居開始した賃貸集合住宅。団地内のほかの棟が5階建てであるのに対し、73号棟は唯一の11階建てエレベーター付き住宅で、250戸ある。2006年にはURから住民に対し、「今後73号棟の改修工事をする」との説明がされていた。
 しかし、URは08年に突如、「耐震強度が不足しており、改修も難しい」として、高幡台団地73号棟を含めた全国の17団地にある集合住宅24棟の取り壊しを決定。対象となった住宅の住民には、移転費用などの補助をした上で、2年以内の退去を求めた。
 寝耳に水だった73号棟の住民たちは「なぜ突然、改修が解体に変わったのか」「ついの住み家を出ることはできない」などと反発。退去を拒否した7世帯11人が現在も暮らし続けており、11年、URが訴訟を起こした。
 居残った住民は50~80歳代で、73号棟に住み始めてそれぞれ25~40年程度が経過しているという。住民の1人、村田栄法さん(66)は、「建て替えならまだ理解できるが、納得のいかない説明で住み慣れた家を明け渡すことはできない」と話す。
 裁判では、UR側が「改修する方法を模索したが、7億5000万円の多大な費用がかかり、負担が重すぎるためできない」などと主張。一方住民側は「修繕の義務がある」「別の工法ならもっと安価にできる」などと反論している。
 借地借家法では、家主が賃借人に退去を求める際には、「正当な事由が必要」と定めている。住民側の代理人を務める飯田美弥子弁護士は「耐震強度不足を理由とした立ち退き訴訟は前例がない。家主の都合に合う耐震改修方法がないからと言って、それが正当事由には当たらないはずだ」と話す。
 一方、URは「係争中のためコメントできない」としている。
2013年3月28日 読売新聞)