国連広報センター プレスリリース12-058-J 20121126
 達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する
 国連人権理事会特別報告者 アナンド・グローバー
 
 訪日期間:20121115日~26
 日本記者クラブ
 プレス・ステートメント / 2012 11 26 / 東京
 
後半:
 
報道関係者の皆様、
 
日本政府は、避難者の方々に対して、一時避難施設あるいは補助金支給住宅施設を用意しています。これはよいのですが、住民の方々によれば、緊急避難センターは、障がい者向けにバリアフリー環境が整っておらず、また、女性や小さな子どもが利用することに配慮したものでもありませんでした。
 
悲しいことに、原発事故発生後に住民の方々が避難した際、家族が別々にならなければならず、夫と母子、およびお年寄りが離れ離れになってしまう事態につながりました。これが、互いの不調和、不和を招き、離婚に至るケースすらありました。苦しみや、精神面での不安につながったのです。
日本政府は、これらの重要な課題を早急に解決しなければなりません。
 
食品の放射線汚染は、長期的な問題です。日本政府が食品安全基準値を1kgあたり500Bqから100Bqに引き下げたことは称賛に値します。しかし、各5県ではこれよりも低い水準値を設定しています。さらに、住民はこの基準の導入について不安を募らせています。
 
日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。
 
また、日本政府は、土壌汚染への対応を進めています。長期的目標として汚染レベルが年間20mSv未満の地域の放射線レベルは1mSv まで引き下げる、また、年間2050mSvの地域については、2013 年末までに年間20mSv未満に引き下げる、という具体的政策目標を掲げています。
ただ、ここでも残念なのは、現在の放射線レベルが年間20mSv未満の地域で年間1mSv まで引き下げるという目標について、具体的なスケジュールが決まっていないという点です。
更に、他の地域については、汚染除去レベル目標は、年間1mSvを大きく上回る数値に設定されています
住民は、安全で健康的な環境で暮らす権利があります。
従って日本政府に対して、他の地域について放射線レベルを年間1mSvに引き下げる、明確なスケジュール、指標、ベンチマークを定めた汚染除去活動計画を導入することを要請いたします
 
汚染除去の実施に際しては、専用の作業員を雇用し、作業員の手で実施される予定であることを知り、結構なことであると思いました。
しかし、一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われていのは残念なことです。
 
また、日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。これは、日本政府の計画に対する避難者の信頼構築にもつながります。
 
訪問中、多くの人々が、東京電力は、原発事故の責任に対する説明義務を果たしていないことへの懸念を示しました。
日本政府が東京電力株式の大多数を所有していること、これは突き詰めれば、納税者がつけを払わされる可能性があるということでもあります
健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。
従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。
 
訪問中、被害にあわれた住民の方々、特に、障がい者、若い母親、妊婦、子ども、お年寄りなどの方々から、自分たちに影響がおよぶ決定に対して発言権がない、という言葉を耳にしました。
健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。
つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。こうした参加を通じて、決定事項が全体に伝わるだけではなく、被害にあった地域の政府に対する信頼強化にもつながるのです。これは、効率的に災害からの復興を成し遂げるためにも必要であると思われます。
 
日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。こうしたプロセスには、健康管理調査の策定、避難所の設計、汚染除去の実施等に関する参加などが挙げられるでしょう。
 
この点について、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」が2012 6 月に制定されたことを歓迎します。
この法律は、原子力事故により影響を受けた人々の支援およびケアに関する枠組みを定めたものです。
同法はまだ施行されておらず、私は日本政府に対して、同法を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。
これは日本政府にとって、社会的弱者を含む、被害を受けた地域が十分に参加する形で基本方針や関連規制の枠組みを定める、よい機会になるでしょう。
 
ご清聴ありがとうございました。