【報告】仙台高裁に提出した主張の全文  (後半)
 
 
6 当事者適格について
 本件申立時、抗告人らは、速やかに認容決定が出るものと考えていたが、思いのほか時間が経過する中で、郡山市の中学校を卒業したもの、自主避難に踏み切った者がいるのは事実である。しかし自主避難児の多くは母子の避難であって、父親は郡山に残っている。避難先は仮の住まいであり、郡山の線量が安心できるレベルにまで下がれば、郡山に帰ってくるつもりである。もし、集団避難が実現するのなら、郡山に残っている友達と一緒に避難したいと考えている。このような児童・生徒に、郡山市に対して安全な環境下の学校施設で教育をすることを求める権利はないのだろうか。この問題については、裁判所の健全な判断に委ねたい。
 
7 被曝による健康影響に対する科学的知見と国際的合意について
抗告人らは、国際機関が、チェルノブイリ原発事故による一般住民の被害として子どもの甲状腺ガンしか認めていないことを批判している。ウクライナ政府の公式報告書(甲148)に記載されているウクライナの子ども、住民に拡がっている健康被害は、健全な社会通念に従えば、放射能の影響であるとしか理解できないはずである。
 
8 郡山市における放射線量、個人積算線量測定結果について
 子どもたちのいわゆるガラスバッジによる測定結果は信用出来ない。首から吊り下げる形式であるため、保育園や幼稚園では、事故の発生を恐れて、在園中はガラスバッジを外させていることが珍しくないのである(甲161報告書)。その場合、園児が園庭で遊んでいる間も、ガラスバッジは園舎内に保管されるから、園児が現実にうける放射線量とガラスバッジが表示する放射線量に大きな違いが生じることは明白である。個人積算線量測定結果は、そのような実態を踏まえて、慎重に検討されなければならない。
 なお、相手方は、抗告人らが通っている小中学校の児童生徒の個人積算線量から推計される年間追加被ばく量はほぼ1ミリシーベルトであるから、実質的には、抗告人らが求めている教育環境を満たしていると主張する。しかしながら、ガラスバッジによる測定結果が信用に値しない上、山内知也神戸大学教授の意見書(甲103)によれば、相手方の主張に理由がないことは明らかである。
 
第2、抗告人の主張の補充
1、これまでで最悪の健康被害の判明
(1)、本年9月11日、18歳以下の子どもを対象とした福島県の3回目の甲状腺検査結果が発表され(甲162)、かつてない深刻な健康被害の実態が明らかとなった。今回発表の4万2千人の子どものうち、6~10歳の女子の54.1%、11~15歳の女子の55.3%に「のう胞」または「結節」が、男女合わせた全体でも43%に「のう胞」または「結節」が見つかったからである(以下の福島県発表資料16頁)。
 
このうち「のう胞」と「結節」の割合は、以下の福島県発表資料15頁(H23年度は省略)によると、「のう胞」が1万8139人(43.13%)、「結節」が385人(0.92%)であり、つまり殆どが「のう胞」である。
これは福島県の2回目の甲状腺検査結果を検討した松崎意見書(甲131)で明らかにした通り、上記検査の主体である検討委員会の座長=山下俊一・福島県立医大副学長らが2000年に放射能非汚染地域の長崎の子どもたちを甲状腺検査した結果「のう胞」が見られたのは0.8%(甲131。3頁。同別紙2の論文593頁右段3~5行目)、チェルノブイリ事故の510年後にチェルノブイリ地域の子供たちを調査した結果「のう胞」が見られたのは0.5%(甲131。4~5頁)と比べて途方もなく高い値である。
本年4月の2回目の甲状腺検査結果の報告で3万8千人の子どもの35%に「のう胞」が見つかった時ですら、これを知った被曝問題に詳しいオーストラリアのヘレン・カルディコット博士は次のように警告した[1][1]
「この子ども達は追跡調査をしてる場合じゃありません。のう胞や結節などの全ての異常は直ちに生体組織検査をして悪性であるかを調べるべきです。こういった甲状腺異常が1年も経たないうちに現れるというのは早過ぎます。普通は510年かかるものです。これは、子供達が大変高線量の被ばくをしたことを意味します。もしも悪性なら、甲状腺の全摘出が必要です。子供達に甲状腺結節やのう胞があるのは、まるで普通ではありません!」 
また、アメリカ甲状腺学会の次期会長のブライアン・ホーゲン博士は米国の定評あるニュースサイトBusiness Insiderの取材に次のように答えた(甲154。本年7月19日の記事)。
「カルディコット博士の見解に同意します。福島原発事故後にこれほどすぐに、多くの子どもたちに甲状腺の嚢腫や結節が見られることに驚いています、なおかつこの事実が世間に広く知られていないことに驚いています。」
今回の検査結果(4万2千人の子どものうち6~10歳の女子の54.1%、11~15歳の女子の55.3%、男女合わせた全体の43%に「のう胞」が発見)を知った2人の衝撃がどれほどのものかは推して知るべしである。

(2)
、さらに、前回2回目で二次検査を終えた38人の中から初めて1人が甲状腺がんと診断された。これについて、上記検査の主体である検討委員会(座長山下俊一氏)は「
チェルノブイリ事故後の発症増加は最短で4年」等を理由にして原発事故との因果関係を否定した(甲163)。しかし、4頁で前述した通り、これは虚偽である。のみならず、それを最も鮮やかに見破るのは、ほかならぬ山下俊一氏自身である、但し昨年3月11日以前の。なぜなら、2009年、山下俊一氏は講演で、通常なら子どもの甲状腺がんは百万人に1名と述べている(甲125「放射線の光と影:世界保健機関の戦略」536頁1~2行目)。さらに、2000年に、山下俊一氏は国会で、原発から150キロ離れたベラルーシ「ゴメリ」地区の小児甲状腺がんは、チェルノブイリ事故の翌年に既に4倍に増加したデータを紹介している(以下の表。甲124チェルノブイリ原発事故後の健康問題)表2
 
このままでは、福島県の子どもたちは、甲状腺疾病だけでも4千人の小児甲状腺がん患者が出たチェルノブイリ事故を上回る深刻な事態もあり得る。しかも、甲状腺疾病は氷山の一角にすぎず、チェルノブイリでは、事故後子どもたちの心臓や血管の病気をはじめ様々な疾病が増え続けている(甲148ウクライナ政府報告書。甲152NHK・ETV特集「ウクライナは訴える」)。
以上から、福島の子どもたちに異変が発生しているのは明らかである。彼らをこのままにしておくと、福島は健康な子供が2割しかいないという今日のベラルーシやウクライナのようになってしまうのは必至である。その意味で、これは政策論争ではない。危機に瀕している命を救うのか見殺しにするのかという人権の根本問題である。チェルノブイリ事故の被害者の人たちが異口同音に訴える言葉――二度と決して、私たちの失敗をくり返して欲しくありません[2][2]――今こそ、チェルノブイリの痛恨の訓えから学び、「人権の最後の砦」の使命として最も重要な「子どもの命を救う」という緊急問題を解決すべきである。
 
2、ウクライナ訪問の報告書
本年9月、チェルノブイリ(ウクライナ)を訪問し、福島県と同程度の汚染地域で暮らす子どもたちの様子をつぶさに学んだ郡司真弓氏の報告書を提出する(甲153)。
 
3、郡山市の除染の現状
本年5月に、郡山市民の武本泰氏作成の除染の現状を報告した報告書(甲137)を提出したが、その後4ヶ月経過して、除染の限界或いは破綻が明らかになってきた現状について、再度、武本泰氏による報告書(2)(甲155)を提出する。
 
4、チェルノブイリ事故による子どもたちの健康被害について
チェルノブイリ事故による子どもたちの健康被害の実態、背景を考える上で有益な以下の映像を3点提出する。
①.チェルノブイリ・ハート2004年、アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞受賞。2006428日、国連総会で放映された)(甲150)
②.本年9月16日放送「NHK・ETV特集『シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地域からの報告 第1回 ベラルーシの苦悩』」(甲151)
③.本年9月23日放送「NHK・ETV特集『シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地域からの報告 第2回 ウクライナは訴える』」(甲152)
 
 
 
5、福島の子どもの人権侵害に対する国連の対応
国際連合の人権理事会のスタッフである特別報告者(今回は「健康の権利に関する特別報告官者」であるアナンド・グローバー氏)が、本年11月15日に来日し、福島の子どもたちの健康被害の実態を調査、監視、助言を行い、勧告を出す予定である。いま、福島の子どもの人権侵害問題は国連、世界が注視する問題である。これについて、国連に日本の人権問題を訴えてきた垣内つね子氏による報告書を提出する(甲156)。
 
 
6、署名に関する報告書の提出
 原審と同様、疎開をすることを認める決定を求める署名に関する報告書を提出する(甲164)
以 上
 

[2][2] 甲152NHK・ETV特集「ウクライナは訴える」のラストでも汚染地域の医師がこう訴えている。「私たちの失敗をくり返して欲しくありません。いくら注意してもしすぎるということはないのです」