毎日新聞2012年8月22日
 
<ロシア>WTOに正式加盟へ 経済効果に期待
 【モスクワ田中洋之】ロシアは22日、世界貿易機関(WTO)に正式加盟する。ソ連崩壊後の93年に前身の関税貿易一般協定(GATT)に加盟申請してから約20年を経てようやく実現する。ロシア政府は、国外からの投資拡大や国内経済の近代化につなげたい考えだ。ロシアは156番目のWTO加盟国で、「大国」の加盟は01年の中国以来。24日にはバヌアツも加盟するため、WTO加盟国は157カ国・地域に増加する。
 世界銀行の予測によると、ロシアはWTO加盟に伴う経済効果として中期的に3.3%、長期的には11%の国内総生産(GDP)成長が期待できるという。ロシアは輸入品の平均関税率を現行の10%から最終的に7.8%以下まで引き下げる。国庫収入は13年に1880億ルーブル(約5132億円)、14年には2570億ルーブル減少する見通しだが、経済発展省は「貿易量の増大でカバーできる」としている。
 一方、ロシアでは国内の製造業や農業が安価な輸入品の直撃を受けて衰退し、失業者の増加につながることに懸念が出ている。官僚主義や汚職が横行し世銀のランキングで世界120位に低迷するビジネス環境の問題点を指摘する声もある。
 
 ロシアは昨年12月のWTO閣僚会議で加盟が認められ、国内の加盟批准手続きは先月に上下両院の承認とプーチン大統領の署名を経て完了していた。
 
 
 
NHK NEWS WEB  8月22日 6時21分

ロシア WTOに正式加盟

石油やガスの輸出に支えられて経済成長を続ける新興国のロシアは、22日からWTO=世界貿易機関に正式に加盟し、段階的な輸入関税の引き下げによって、日本など外国企業の輸出や投資の拡大につながるのかに関心が集まっています。
ソビエト崩壊後の1993年に加盟を申請したロシアは、農業やエネルギー分野の保護政策をとったため欧米と対立し、さらに4年前に起きた欧米寄りのグルジアとの軍事衝突を受けて加盟交渉が長期化し、WTOに加盟していない「最後の大国」と呼ばれてきました。
しかし、去年12月、当時のメドベージェフ大統領とアメリカのオバマ大統領が米ロ関係の改善を図るなかで、WTOの閣僚会議でロシアの加盟が承認され、国内での批准手続きを終えて22日から正式に加盟国となりました。
これにより、ロシアの輸入関税率の上限は、平均して現在の10.3%から7.1%まで、最大7年かけて段階的に引き下げられることになります。
経済成長を続ける新興国、ロシアのWTO加盟は、自動車や機械、食品などの分野を中心に、日本を含む外国企業の輸出や投資の拡大につながるのかに関心が集まっています。
一方、ロシア政府も、外資の導入によって国内の製造業を立て直し、資源輸出に依存する経済構造からの脱却を目指していますが、煩雑な通関手続きや深刻な汚職などの課題は依然残されたままです。

ロシア 世界9位の経済規模

ロシア政府によりますと、去年のGDP=国内総生産は、およそ53兆5000億ルーブル(日本円でおよそ134兆円)で、世界第9位の経済規模です。
経済成長率は、リーマンショックの影響で2009年にマイナス7.8%と落ち込みましたが、石油とガスの輸出に支えられて翌年には4%のプラス成長に転じ、去年の成長率は4.3%となっています。
好調な経済を反映して拡大を続けているのが、ロシアの自動車市場です。
新車の販売台数は、ことしは280万台、2015年には300万台を突破するとみられており、日本や欧米、韓国の自動車メーカーがしれつな販売競争を繰り広げています。
ロシアのWTO加盟により、新車の乗用車の輸入関税率は、23日に30%から25%に下げられ、その後7年かけて15%まで引き下げられることになっています。
しかし、ロシア政府は、関税率の引き下げによる国内の自動車産業への影響を最小限に抑えるため、ことし9月から輸入車を対象に「リサイクル税」と呼ばれる廃車手数料を導入する予定で、日本を含む外国の自動車メーカーが、WTO加盟の恩恵をどれだけ享受できるかは依然として不透明な状況です。

“日本企業進出には追い風 課題も”

ジェトロ=日本貿易振興機構、モスクワセンターの服部隆一所長は、「ロシアに進出している日本企業のおよそ70%が、WTO加盟を歓迎している。今後1~2年でロシアでビジネスを拡大していくという企業は80%に上っており、ロシアのWTO加盟は追い風になっている」と述べ、ロシアへの進出を検討している企業からの相談件数も、去年の同じ時期に比べて倍増しているということです。
ただ、課題として残る煩雑な通関手続きや汚職などの問題については、「必ずしもWTOのルールで判断できないので、ロシア政府自身が効率化を進めていく過程で変わっていくことが期待される。ロシア国内の自助能力で動かざるをえない」と話しています。
さらに、汚職対策と並んで外国企業にとって重要なのが、ロシア経済の民間分野の発展だとして、「旧ソビエトからロシアになってまだ20年。20年の間で民間企業の育成がまだまだ進んでおらず、そのスピード感が国際水準に合致していくか。それによって外国企業の活動もしやすくなる」と指摘しています。