1945年8月14日、日本政府は「ポツダム宣言」を受諾し、無条件降伏した。翌15日正午、天皇の「玉音放送」により、国民に降伏が伝えられた。すでに特高警察は、・・・・10日から敗戦の事態に備えた特別な態勢を敷いた。
「ポツダム宣言」の受諾の経緯や「終戦の詔勅」の「朕はここに国体を護持し得て」の一節にあるように為政者の最大の関心は「国体の護持」=天皇制の存続であったが、その役割の一端は、自他ともに特高警察が担うべきものとされた。「終戦の詔勅」では「情の欲するところ、みだりに事端を滋くし、あるいは同胞排擠{他を押しのけたり、おとしいれたりすること}互いに時局を乱り」と、治安を混乱させ、社会秩序を動揺させる行動をとらないことに注意が喚起された。
(「特高警察」荻野富士夫著 岩波新書2012年5月12日発行 202ページより)
岩波新書編集部だより
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/img/1dot.gif | http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_img/img1205/top02n.gif |
悪名高き特高警察は、過去のもの?
ワーキングプアが社会問題化するなか、『蟹工船』ブームがおきたのは、記憶に新しい。劣悪な環境で働かされる労働者を描き、当局の政治弾圧を批判した作者小林多喜二は、30歳で特高警察に虐殺された。
1911年に創設され、1945年の敗戦により「解体」されたとされる特高警察。果たして「特高警察」は過去のものなのか。
本書は、『特高警察関係資料集成』(全38巻)をまとめるなど、特高が残した大小さまざまな記録を読みこんだ著者が、その「生態」に迫ったものである。自分たちこそが国家を守っているとの使命感にもえる特高警察は、中央で、地方で、また「満州」や朝鮮で、いかなる行動をとってきたのか。
日本に特殊かどうか、ドイツの秘密警察ゲシュタポとの比較も試みる。
著者が「生態」と表現するように、生き物のごとく増殖し、しぶとく生き残り続けるさまが見てとれる。
貧困問題、震災や原発事故など、さまざまな社会不安にゆれる現代日本でいま、「特高警察」を考えることに、不幸なことであろうがリアリティーがある。これからの未来のために、示唆に富む1冊である。
(新書編集部 大山美佐子)
| | | | |
|
■著者紹介
荻野富士夫(おぎの・ふじお)1953年埼玉県生まれ。1975年早稲田大学文学部卒業。現在、小樽商科大学教授。専攻は、日本近現代史。
著書に『特高警察体制史 増補版』(せきた書房)、『北の特高警察』(新日本出版社)、『戦後治安体制の確立』(岩波書店)、 『思想検事』(岩波新書)、『外務省警察史』(校倉書房)ほか。
編著に『治安維持法関係資料集』(全4巻、新日本出版社)、『特高警察関係資料集成』(全38巻、不二出版)ほか。
| | | | |
|
I
| 特高警察の創設 | | | 1 特高警察の前史
2 大逆事件・「冬の時代」へ
3 特高警察体制の確立 | | |
|
II
| いかなる組織か | | | 1 「特別」な高等警察
2 特高の二層構造
3 一般警察官の「特高」化
4 思想検事・思想憲兵との競合 | | |
|
III
| その生態に迫る | | | 1 国家国体の衛護
2 特高の職務の流れ
3 治安法令の駆使
4 「拷問」の黙認
5 弾圧のための技術
6 特高の職務に駆り立てるもの | | |
|
IV
| 総力戦体制の遂行のために | | | 1 非常時下の特高警察
2 「共産主義運動」のえぐり出し
3 「民心」の監視と抑圧
4 敗戦に向けての治安維持 | | |
|
V
| 植民地・「満州国」における特高警察 | | | 1 朝鮮の「高等警察」
2 台湾の「高等警察」
3 「満州国」の「特務警察」
4 外務省警察
5 「東亜警察」の志向 | | |
|
VI
| 特高警察は日本に特殊か | | | 1 ゲシュタポの概観
2 ゲシュタポとの比較 | | |
|
VII
| 特高警察の「解体」から「継承」へ | | |
1 敗戦後の治安維持
2 GHQの「人権指令」―しぶしぶの履行
3 「公安警察」としての復活
| | |
|