「カローシ」
過労社会 止まらぬ長時間労働<下>
休憩重視 効率アップ 心の健康、介護…調和を
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「ここまでひどかったのか」。昨年五月、三菱重工労働組合の村元隆書記長は、社内の会議で、会社側から示された前年の社員健康調査の資料を見て驚いた。
全十三の事業所で、「精神面の不調」が会社を休んだ理由の上位を占めていた。休んだ日数を見ても全体の六割近くに上った。ただでさえ、二〇〇一年以降、一人当たりの年間の総労働時間は、国が目標とした千八百時間を大幅に上回る二千時間を超える高止まり。長時間労働が常態化し、社員の健康が危ぶまれていた。
想像を超える過酷な実態を目の当たりにし、村元書記長は「だからこそ『インターバル休息』は必要だ」との思いを強くした。
欧州連合(EU)で導入されているインターバル休息制度は、一日の生活のうち、まず休息時間を確保する考え方。EUでは、仕事を終えてから翌日の仕事を始めるまでに十一時間以上の休息を義務付けている。
三菱重工業でも、村元書記長が先頭に立ち、昨年四月に国内メーカーで初めて全職種一斉に導入された。今は最低七時間の休息が努力義務だが、より長い休息時間も検討している。
製造業だけに突発の発注もあり、会社側からは生産性への影響を心配する意見もあった。しかし、導入してみると、業務に支障が出たことはなく、一年が過ぎ、逆に社員の働き方に対する意識が変わりつつあるという。
村元書記長は「残業が減れば、社員は家庭のだんらんが増えて癒やしになり、健康維持にもつながる。仕事の効率化が図られ、生産性も上がる」と導入の意義を強調する。
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長時間労働を抑えるために「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)という考え方にも注目が集まっている。政府も〇七年十二月、指針などをつくり、官民挙げた取り組みが進みつつある。
仕事と家庭の両立というと、育休を連想しがちだ。しかし、企業向けに働き方のコンサルティングを手掛ける会社「ワーク・ライフバランス」(東京)には、昨年ごろから、介護との両立に関する相談が増えているという。
団塊世代は現在六十五歳前後。高齢化に伴い、要介護の親を抱える団塊ジュニアは今後、一気に増えてくる。しかも、介護を担う世代は男女を問わず、会社の主力社員たちだ。
厚生労働省の雇用動向調査によると、一〇年に介護を理由に仕事を辞めた人は約五万人に上る。多くの働き盛りの社員が、仕事との両立がかなわず辞めざるをえないとなれば、企業ばかりか社会にとってもマイナスだ。
同社の小室淑恵社長は「今や会社と家庭の両立は切迫した問題。長時間労働に頼った働き方の限界は近い。これ以上、経営者は現実に目を背けるべきではない」と話す。
働く人たちの命と健康の問題だけではない。ライフスタイルの多様な変化からも、「脱長時間労働」は待ったなしだ。
(中沢誠と皆川剛が担当しました)
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