官邸前見守り弁護団
毎週末首相官邸前で繰り広げられる抗議行動に興味と関心を共有した弁護士有志による,「官邸前見守り弁護団」です。主催者とは(連絡を取っていますが)別個です。とにかく弁護士がその場に沢山いること,共通腕章でそれが視認されること,相互に情報交換し緩やかに連携することで,トラブルの未然防止,過剰警備への牽制,万が一の際の逮捕者支援、証拠保全などを心がけています。が,特に組織背景なく個々人が趣味でやってるようなものですので,あまり期待しすぎないでください。
 
関西電力大飯原子力発電所再稼働に反対する首相官邸前抗議行動について
市民の表現の自由を尊重し、過剰警備をしないよう求める声明
2012年8月2日  弁護士有志

はじめに
 首相官邸前(以下「官邸前」という)では、2012年4月以降、毎週金曜日夕刻には、首都圏反原発連合のよびかけによる、関西電力大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という)の再稼働に反対する抗議行動(以下「本件官邸前抗議行動」という)が続いており、6月下旬以降は、数万人以上が集まるという大規模なものとなっている。
 そうした中で、7月6日金曜日以降、警察は、警備体制を強化し、本件官邸前抗議行動が著しく制約され、また、参加者の撮影等肖像権侵害とみられる状況が発生している。
 こうした状況は、憲法21条によって保障された表現の自由、あるいは、憲法13条によって保障される肖像権、さらには憲法上の重要な価値である民主主義的な意思決定過程に対し、深刻な影響を及ぼしかねないものであって、私たち弁護士有志は、弁護士法に定める基本的人権の擁護を職責とする者として、非常な憂慮をいだくものであり、以下の通り、市民の表現の自由を尊重し、過剰警備をしないよう求める、声明を発表するものである。

第1 声明の趣旨
 1 本件官邸前抗議行動は、表現の自由という、民主主義の根幹にもかかわる、憲法上最大限の尊重が必要である権利、自由及び、市民の生命・身体の安全の確保に関わるものであり、その態様も平和的であり、警察その他の公権力が必要最小限度を超えて規制することは、あってはならない。

 2 7月6日及び7月13日に警察が行った本件官邸前抗議行動に対する制限・干渉は、十分な空きスペースがあるのに通行を制限したり、車道の通行を確保するためとして鉄柵や警察車両を用いて行動を制約したりする一方、車道を通行する車両に対してもそれを制限するなど、合理的理由のないものであるうえ、太鼓を抱えた参加者に対しては演奏を開始するとともに数十人の警察官が取囲む・写真撮影をするなどして威圧し、また、数ヶ所では、警察車両の上から本件官邸前抗議行動の参加者を威圧的な態度で見下ろし、参加者をビデオで撮影するなど、肖像権侵害等の妨害行為をするものであった。

 3 本件官邸前抗議行動に対するこうした制限・干渉は、警察法2条による規制権限の濫用であり、同条2項に違反し、憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害するものであって、違憲・違法である。また、ビデオによる本件官邸前抗議行動の参加者の撮影行為も、警察法2条2項に違反する他、憲法13条の保障する肖像権の侵害であり、また、憲法21条の保障する表現の自由に対する侵害であり、違憲・違法である。
 したがって、こうした制限・干渉はすべきではない。

 4 真に本件官邸前抗議行動の参加者の生命・身体の安全を確保するためであれば、首相官邸前の道路(車道部分)又は・及び国会正門前の道路(車道部分)の解放こそ検討されるべきである。
  

第2 声明の理由
 1 抗議行動をすることは憲法上の権利であり、最大限の尊重が必要であること
 本件官邸前抗議行動は、大飯原発再稼働の決定の責任者である総理大臣に対し、大飯原発再稼働反対の意思を、直接、表明する、非暴力の直接行動である。同行動に参加しているのは、組織動員によらず、ツイッターやフェイスブック等で活動を知り集まってきた市民である。思い思いのプラカードを手にして「再稼働反対」を唱和し、楽器を鳴らす等して意見表明をしている。その行動は極めて整然とし、いかなる種類の暴力にもよらない平和的なものである。抗議行動も午後6時から8時までに限定されている。

 政府に対する平和的な抗議行動は、憲法21条の表現の自由によって保障されるものであるが、このような政治的意思の表明たる表現の自由は、主権者たる国民が政治の場で意見を述べる権利の行使であって、民主主義の根幹に関わるものとして最大限度の尊重を必要とする。民主主義は市民が政府の行為を自由に批判し、抗議することができなければ成り立たないからである。「表現の自由」は、民主主義社会の絶対の生命線であり、専制に対する防波堤であって、警察権力の恣意的な行使によってその行使が妨げられることは、絶対にあってはならない。本件官邸前抗議行動も、かかる意味から最大限尊重されなければならない。

 また、本件官邸前抗議行動が抗議の対象としている原発の再稼働は、多くの市民の生命・身体の安全に関する問題である。2011年3月11日以降の東京電力福島第一原子力発電所事故は、広範囲に放射性物質を撒き散らし、広大な地域を汚染され、莫大な数の人の避難を生み、また、食や水、仕事を危機に陥れた。

 このため、現在でも約16万人の市民が家を失い、職を奪われ、故郷を追われる「国内避難民」の境遇に置かれ、塗炭の苦しみを味わいながら、未だに十分な補償すら受けていないのである。このように、原発再稼働は多くの市民の生命・身体の安全に関わる重大な政治的決断である。大飯原発の再稼働に反対する本件官邸前抗議行動は、市民が、自らの生命・身体を守るために、やむにやまれず行っている意思表示であり、主権者として意思を表示する数少ない手段であるから、その意味からも最大限度の尊重が必要となる。市民の生命・身体の安全の確保も憲法上最大限尊重されなければならない。

 そうすると、本件官邸前抗議行動は、民主主義、表現の自由、市民の生命・身体の安全の確保という、多くの憲法上の重要な諸価値に関わるものであって、警察当局は、これに最大限度の敬意を払い、最大限尊重しなければならないのであって,本件官邸前抗議行動を、警察その他の公権力が必要最小限度を超えて規制することは、あってはならないことである。

 2 本件官邸前抗議行動に対する、警察の、合理的理由のない制限及び不要不当な威圧、肖像権侵害等の妨害行為
 しかるに、私たちは、2012年7月6日及び13日、本件官邸前抗議行動の現場において、以下のとおり、警察による、恣意的で過剰な制限を目にした。
(略)
 
 3 警察当局の過剰規制が違憲・違法であること
 警察当局が本件抗議活動に対し規制を加える法的根拠として、警察法第2条がある。同条1項は、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」と定める。明石花火大会歩道橋事件に関する神戸地判平成17年6月28日は、「警察は,警察法2条,警備実施要則,「雑踏警備実施要領について(例規)」等により,個人の生命,身体等を保護することをその責務とする者として,参集者の生命,身体等の安全を確保すべき注意義務を負う。」「警察には,主催者側の自主警備について,参集者の安全の確保という観点から,積極的かつ具体的に指導・助言を行うとともに,雑踏警備を主催者側の自主警備のみに委ねることなく,自らも適正な雑踏警備計画を策定すべき注意義務があった。」としてその理を認めた。
 
 しかし、民主主義社会における表現の自由の価値に照らし、その制約は最小限度を超えてはならず、警察による規制は政治的弾圧にわたってはならないことは当然である。この点、同条2項は、「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。」と定めている。
 
 前項で既に詳細に述べたとおり、本件官邸前抗議行動に対する警察の対応は参加者の生命・身体の安全を確保するに必要な限度をはるかに超えている。その威圧的・挑発的対応はその目的を超えて本件官邸前抗議行動に対する妨害に及んでおり、その政治的中立性を疑わしめるものであったと言っても過言ではない。この点、前掲平成17年神戸地裁判決は「言論の自由」は問題になっていない事例であって本件とは事案を異にする。
 
 したがって、本件官邸前抗議行動に対する規制は、警察法2条による規制権限の濫用であり、同条2項に違反し、憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害するものであって、違憲・違法である。また、ビデオによる本件官邸前抗議行動の参加者の撮影行為も、警察法2条による規制権限の濫用であり、同条2項に違反する他、憲法13条の保障する肖像権の侵害であり、また、憲法21条の保障する表現の自由に対する侵害であり、違憲・違法である。

 4 首相官邸前の道路(車道部分)又は・及び国会正門前の道路(車道部分)の解放こそ検討されるべきであること
 真に本件官邸前抗議行動の参加者の生命・身体の安全を確保するためであれば、首相官邸前の道路(車道部分)又は・及び国会正門前の道路(車道部分)の解放こそ検討されるべきである。

 本件官邸前抗議行動の参加者の生命・身体の安全を真に脅かしているのは、実は警察による規制である。既に述べたとおり、警察当局は歩道の中に鉄柵を設け、本件官邸前抗議行動に参加する市民を狭いスペースに押し込んでいる。鉄柵に囲まれた狭いスペースの中で市民が折り重なって転倒すれば多数の被害者が出ることは必至な状況である。密集した狭いスペースの中で、官邸に近づくことができない市民の不満は高まり、一触即発の状態であるから、その危険は極めて高い
 
 このような危険を避け、市民の安全を最大限度確保する最も有効な手段は、官邸前から財務省上の交差点に至る道路(車道部分)又は・及び国会正門前の道路(車道部分)を、一定時間(午後6時から8時までの2時間)車両通行止めにして、本件官邸前抗議行動参加者に解放することである。
 この一帯には民家はなく、夕方の時間帯は車両の通行も少なく、一般市民の社会生活への悪影響は全くない。この付近を通過する公務員、国会議員等は徒歩での通過は可能であり、わずか2時間車両の通行が制限されたからといって公務に支障が生じることはありえない(緊急車両の通過については、その都度参加者の協力を求めることが容易である。)。特に、国会正門前の道路については、この道路によらなければ、他の道路に通じることのない建築物がないことから、この道路を本件官邸前抗議行動参加者に解放したところで、なんら悪影響は存在しない。

 以上から、私たちは、民主主義のための抗議行動を最大限尊重し、かつ、市民の安全を最大限度確保するために、官邸前から財務省上の交差点に至る道路(車道部分)又は・及び国会正門前の道路(車道部分)を、一定時間(午後6時から8時までの2時間)車両通行止めにして、本件官邸前抗議行動の参加者に解放することを求めるものである。
 5 結論
 以上のとおり、私たち弁護士有志は、警察に対し、本件官邸前抗議行動について、市民の表現の自由を尊重し、過剰警備をしないよう求めるものである。

以 上

賛同者リスト(8月2日10:15現在 145名) ※随時更新中