ー・-・-・-・-・-・- 毎日新聞6月2日2012年 転載記事ー・-・-・-・-・-・-・-・-
秘密会議:「新大綱」議案も配布 原子力委は虚偽説明
内閣府原子力委員会が原発推進側だけを集め「勉強会」と称する秘密会議を開いていた問題で、原子力委の「新大綱策定会議」で使用する議案の原案が2月16日、秘密会議で事前に配布され、その後内容が追加されていたことが分かった。
核燃サイクル政策を論議する小委員会への関与は発覚していたが、原子力政策全般を対象にした策定会議への影響が判明したのは初めて。問題が小委員会にとどまるとの原子力委の説明は虚偽で、批判は一層厳しくなりそうだ。
原子力委は毎日新聞の報道で秘密会議の存在が発覚した翌日の5月25日、「見解」と題した文書をホームページにアップし「(秘密会議は)小委員会の資料準備のための作業連絡」の場と説明。近藤駿介原子力委員長も5月29日の策定会議で「小委員会の作業をするため、小委員会の座長である鈴木達治郎・委員長代理に提案して(秘密会議を)設置した」と述べ、自らが議長を務める策定会議との関係を否定していた。
配布されたのは2月28日の策定会議に使用された議案「原子力人材・技術基盤について」の原案。全23回の秘密会議のうち2月16日に配布され、参加者は策定会議メンバーでもある鈴木代理と秋庭悦子原子力委員のほか▽内閣府の中村雅人参事官▽経済産業省・資源エネルギー庁の吉野恭司・原子力政策課長▽文部科学省の西條(にしじょう)正明・核燃料サイクル室長▽電力各社で作る電気事業連合会の小田英紀原子力部長▽東京電力や関西電力の社員ら約40人。原発反対・慎重派はいなかった。
東京電力福島第1原発事故後、大学の原子力関係学科への志望者が減る中での人材確保の必要性がテーマだった。参加者からは「原発反対派は『福島を安全に廃炉にしろ』と言うだろう。ならば技術者が必要だという話につながればいい」などの意見が出た。これを受け、事故後どんな分野の技術者が福島入りしたか記載した資料を加えることを決めた。
2月28日の策定会議にはこの追加資料を含む議案が提出された。反対派の阿南久・全国消費者団体連絡会事務局長が「廃炉技術大学みたいなものを創設すべきだ」と発言するなど、人材確保に前向きな意見が多く出た。
策定会議のメンバーで反対派の伴英幸・原子力資料情報室共同代表は「議案は当日(2月28日)初めて見た。(小委員会にとどまるという原子力委の)説明の範囲を超えている。単なる作業会合ではなく議論の方向性を決めていたことがはっきりした」と話した。【核燃サイクル取材班】
◇政策全般に関与か
内閣府原子力委員会が原発推進側だけを集め「勉強会」と称する秘密会議を開いていた問題は、原子力政策大綱作りを担う「新大綱策定会議」に波及した。
大綱は研究・開発、発電、廃棄物処分や医療分野での放射線利用などすべてに及び、原子力分野の憲法と言われる。国と事業者だけで草案を練り上げていく実態が露見した意味は極めて重い。
現行の大綱(05年閣議決定)作成準備期間中の04年にも、少なくとも10回秘密会議が開かれていることが分かっている。近藤駿介・原子力委員長は04年会議の主催者であり、当時「表に出た瞬間に勉強会をやめる」と発言したとされる。使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し高速増殖炉(FBR)で使う核燃サイクルという大綱の核心部分の一つについて話し合った事実も判明しているが、近藤委員長は「大局的なことを議論する集まりならばいいのかなあと思った」(5月29日、記者団に)などと問題の深刻さを理解しているとは思えない発言を繰り返している。
秘密会議が昔も今も、表の会議を巧妙にコントロールするシステムである事実が浮かび上がろうとしている。5月29日の原子力委の定例会議で鈴木達治郎・委員長代理は「委員会始まって以来の危機」と語り信頼回復を急ぐ方針を表明した。的を射た発言だが虚偽説明が発覚しては額面通りに受け止められない。委員会のあり方の根幹にかかわる重大局面と言える。【小林直】
毎日新聞 2012年06月02日 02時33分(最終更新 06月02日 02時34分)