公務員と政治 大阪市は刑罰案撤回を(5月25日)
大阪市の橋下徹市長が、市職員の政治活動を厳しく規制するため、刑罰規定を盛り込んだ条例制定を目指す考えを表明した。
地方公務員の政治活動は地方公務員法で制限されているが、刑罰規定はない。そもそも憲法は表現の自由を保障しており、政治活動の自由は民主主義の基盤である。
橋下氏は、「(刑罰規定がある)国家公務員と地方公務員を区別する必要はない。法律の不備だ」と指摘する。
ただ、地方公務員法に規定がないのは、国家公務員法の行き過ぎを是正したという側面がある。
公務員が職務外で政治活動を行う場合の規制は、憲法の観点から極力抑制的にとらえる必要があるのではないか。
条例案に対しては、憲法学者から違憲との指摘が出ている。大阪市に、憲法に抵触する恐れのある条例案の撤回を求める。
条例案は、政治団体の機関誌の発行と配布、政治的目的での行進や示威運動、集会での拡声器を使った政治的な見解主張などを禁止し、違反すれば2年以下の懲役や100万円以下の罰金を科す方向という。
公務員の政治活動制限をめぐっては、最高裁が1974年、行政の中立性確保のため「合理的で必要やむを得ない限度にとどまる限り、憲法が許容する」との判断を示し、判例となっている。
制限を全面的に認めたわけではない。条例案からは、この視点が抜け落ちているのではないか。
2003年、元社会保険庁職員が共産党機関紙「しんぶん赤旗号外」などを配ったとして国家公務員法違反に問われた事件で、東京高裁は10年3月、最高裁判例を踏襲しつつ、被告に逆転無罪を言い渡した。
判決は、「被告を処罰することは、国家公務員の政治活動の自由に対する必要限度を超えた制約を加えるもので、表現の自由を保障した憲法21条に違反する」との判断を示している(東京高検は上告)。
許認可や発注などの権限を持つ公務員が地位を利用して政治活動を行うことや、労働団体の政治家への違法献金は公職選挙法などが禁じており、条例で罰するまでもない。
勤務中の政治活動も、有権者が許さないだろう。
一方、個人の自らの意思に基づく政治参加は、公務員であっても認められるべきだ。