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東京新聞2012年5月17日 朝刊
 労働条件 言うがまま 協定 店長指示でバイトが署名
 「挙手による選出」と明記されたワタミフードサービスの不正な三六協定届

 あらかじめ時間外労働の上限時間が書き込まれた三六協定届に、店長の指示でアルバイトが署名する-。
新入社員森美菜さんが過労自殺したワタミフードサービスでは、違法な手続きで、従業員に時間外労働させていた。
会社から一方的に提示された労働条件を、受け入れるしかない従業員。
労使対等とは名ばかりの実態が浮き彫りになった。 (中沢誠、皆川剛)

 森さんが働いていた「和民京急久里浜駅前店」(神奈川県横須賀市)。
この店の三六協定届には、労使協定を結ぶ労働者側の代表は、「挙手による選出」と印字されていた。
しかし、男性アルバイトは「協定届を見たことはないし、挙手で代表を選んだこともない」と打ち明ける。

 「会社側から三六協定の説明を受けたことはない」。
首都圏で店長や副店長を務めた男性(30)も、そう証言する。
男性は同意した覚えのない協定届を根拠に、毎月三百時間ほど働いていた。

 ある現役店長は「全従業員の意思を確認する時間もない」と明かす。
 自分の店の時間外労働の上限を知らない店長までいた。

 ワタミによると、毎年の協定更新の際、店長が経験の長いアルバイトの中から代表を指名。
すでに時間外労働の上限時間が記載された協定届を印刷し、アルバイトが署名をして本社に返送するやり方が常態化していた。

 ワタミの辰巳正吉・ビジネスサービスグループ長は「大きな不都合やクレームは起こらなかったので、踏襲してきてしまった」と話している。

 <三六(サブロク)協定> 
 時間外労働を例外的に認めた労働基準法36条の規定から取った通称。同法で定める労働時間は1日8時間、週40時間。
 この時間を超えて働かせるには、労使合意に基づき書面で上限時間などを定めた協定を結び、労働基準監督署に届け出ることを36条で義務付けている。
 協定にも月45時間の上限はあるが、上限を超えて働かせられる「特別条項」もあり、労使の力関係で時間外労働は青天井になりうる。

◆労働者の声反映を
 労働問題に詳しい鵜飼良昭弁護士の話 三六協定を結ぶ際に、「百二十時間も働けない」という労働者の声が反映される適切な運用ならば、過労死は防げただろう。
 労使協定は労働時間や賃金控除など、さまざまな労働条件に影響する問題で、組合のない企業でも、労働者が声を上げられる法制度や環境づくりが大切だ。

東京新聞5月17日

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012051702000093.html