兵庫県震災復興研究センターHP
 
2012年4月22日
防災対策推進検討会議の「中間報告」に関する意見書
 
出口 俊一(でぐち としかず)
兵庫県震災復興研究センター事務局長
 
      目 次
 
はじめに
 
1.国民の生命と財産、基本的人権を守る姿勢を欠いていないか2
-「第1章 日本の持続的な発展に不可欠な防災対策」-
 
2.「徹底的な検証」と「大震災の教訓の総括」になっているのか3
-「第2章 東日本大震災から学ぶもの」-
 
3.法制度の見直しを図り、法制度の整理・統合・再構成を4
-「第2章東日本大震災から学ぶもの」「第3章『ゆるぎない日本』の再構築を目指して」 -
 
4.義援金の取り扱いを明確に10
-「第2章東日本大震災から学ぶもの」「第3章『ゆるぎない日本』の再構築を目指して」 -
 
5.福島第一原子力発電所事故に関する検証と教訓の整理を12
  
はじめに 
中央防災会議の「防災対策推進検討会議中間報告~東日本大震災の教訓を活かし、ゆるぎない日本の再構築を~」に対する意見を、各章毎に述べます。
 なお、兵庫県震災復興研究センターが阪神・淡路大震災と東日本大震災の復興過程においてまとめました以下の7冊の書籍を別添資料として添付致します。
資料①:『大震災100の教訓』(2002年10月17日、254頁)
     ・復興いまだならず、100の課題提示
資料②:『大震災10年と災害列島』(2005年1月17日、304頁)
・創造的復興批判
資料③:『災害復興ガイド』(2007年1月17日、180頁)
・阪神・淡路大震災の相対化、「復興災害」の提起
資料④:『世界と日本の災害復興ガイド』(2009年1月17日、200頁)
・被災者生活再建支援法抜本改正、復興制度の必要性提起
資料⑤:『大震災15年と復興の備え』(2010年3月17日、136頁)
・阪神・淡路大震災15年の復興過程を検証し、今後の復興の備えを提言
資料⑥:『東日本大震災 復興への道-神戸からの提言-』(2011年10月17日、18
    0頁)
      ・東日本大震災の復旧・復興、原発震災におくる提言
資料⑦:『「災害救助法」徹底活用』(2012年1月17日、190頁)
       ・災害救助法を徹底的、最大限に活用して、災害に直面した人々のいのちと生活を
守る
 
1.国民の生命と財産、基本的人権を守る姿勢を欠いていないか
-「第1章 日本の持続的な発展に不可欠な防災対策」-
 
「中間報告」は、宝永4(1707)年10月に発生した「宝永地震」の49日後の富士山の「宝
永噴火」など歴史の事実や教訓を述べ、「日本列島は大規模災害の発生に関しては、焦眉の急
と言っても過言ではない」としていますが、その結論として「何としても災害の発生によっ
て国力をそがれ、経済社会の持続的発展が損なわれることだけは、絶対に阻止しなければな
らない」(P9)とのみ述べています。
 「国力」のことばは、繰り返し登場しますが、「人間」とか「国民」は登場してきません。
災害対策基本法1条は「この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から守る
ため、……(中略)……社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする」
と規定しており、「国土」と「国民の生命、身体及び財産」の2つを併記しています。「中間
報告」は、国民の生命と財産、基本的人権を守る姿勢を欠いていないでしょうか。
  また、「防災」「減災」対策には言及していますが、東日本大震災後1年余の経過は、「復
 旧・復興」であり、「防災」「減災」とは違うカテゴリー「復旧・復興」を明確に位置づける ことが重要です(資料⑤参照)。
 
2.「徹底的な検証」と「大震災の教訓の総括」になっているのか
-「第2章 東日本大震災から学ぶもの」-
 
1.「東日本大震災を受けてとられた(政府の)対策の概要」(P11)について
この項では15項目記述されていますが、すべて「早期復旧が図られた」「支援金が支給さ
れた」「緊急総合対策が取りまとめられた」となっており、ここだけ読んでいますと「政府は、よくやった」との結論しか導き出されません。しかし、この1年余の復旧・復興過程をわがこととして関心を寄せ、状況の分析と政策の提言を行い、また4回の現地調査を行った者としては、腑に落ちません。これでは、「政府の対応を検証し、教訓の総括を行う」(本検討会議の概要)ことにはならないのでないでしょうか。
 
2.「災害応急対応はうまく機能したのか」(P13)と「生活再建や復旧復興はスムーズに進んでいるのか」(P17)について
 「避難所の設置・運営」(P15)「災害時要援護者への配慮」(P16)など両方併せて25項目にわたって問題点の現象面が列挙されていますが、なぜそのような現象が生じたのかの原因は全く触れられていません。
 例えば、「避難所の設置・運営」には、次のような記述があります。
 
 ○避難所生活における被災者のニーズの変化への対応が十分にできなかった。
 ○避難所になるべき施設に、避難所に必要な設備や、食料、水、燃料などの備蓄が十分備
わっていなかった。
 
  「できなかった」「備わっていなかった」とありますが、政府や自治体が認識していたにも
 かかわらず「しなかった」、つまり不作為について述べなければならない箇所ではないでしょ
うか。
根拠として以下に、2011年5月7日、兵庫県震災復興研究センターが政府と国会など
に提出しました「東日本大震災の救援・復旧に関する第3次提言」の一部を引用しておきま
す。
提出先は、①緊急災害対策本部本部長:菅直人内閣総理大臣、②被災者生活支援特別対策本部本部長:松本龍防災担当大臣、③同本部長代理:片山善博総務大臣、④同副本部長:仙谷由人官房副長官、⑤各党・政府震災対策合同会議参加の国会議員各位、⑥被災自治体の知事・市町村長各位、⑦全国の都道府県知事・市町村長各位です。
 
 (引用、開始)
大震災から2か月近くも経っているにも拘らず、家族を失い自宅を失い避難所生活を送る人びと、これからの生活に希望を見出せず途方に暮れる被災者に政府は、どのような具体策を打ち出し、手を差し伸べているのでしょうか。大震災の避難者は依然12万人近くにのぼっています。
政府の「被災者生活支援特別対策本部」は5月2日、「3県全避難所に対する実態把握結果」を公表しました。分析結果は、以下の通りです。
 
〔総 評〕
(1)水道等ライフラインが全く復旧していない避難所が2か所(前回11か所)。
(2)おにぎりとパンのみの避難所は1か所(前回0か所)。未だ温かい食事の提供ができて
いない避難所が3か所(前回8か所)。
 (3)替えの下着がないか、あっても洗濯できず下着が不足している避難所が182か所(前
回186か所)。
 (4)間仕切りなどが全くない避難所が108か所(前回130か所)。
(5)医師の巡回等が十分でない避難所が28か所(前回19か所)。
(6)入浴できていない避難所は0か所。
(7)総合的に見ると、特に著しく厳しい状況にある避難所は0か所(前回0か所)、著しく
厳しい状況にある避難所は2か所(前回1か所)、厳しい状況にある避難所は57か所
(前回58か所)。
 
〔対 応〕
(1)この結果を県・市町村と共有し、特に改善が必要な避難所への支援の強化について、
引き続き県・市町村に対し要請する。
(2)まだ実態が把握できていない避難所の把握を進める。
 
  改善の課題は明確です。政府・県・市町村の総力を結集して取り組めば、実現できること
ばかりです。
(引用、終わり)
 
政府の「被災者生活支援特別対策本部」は昨年5月2日の時点で、実態調査の結果を把握
していたのですから、何をしなければならないかは認識できていたのです。なぜ実行できな
かったのか、実行しなかったのかといったことなどを追究しないと検証も教訓の総括もでき
ません。