《数字が見抜く理不尽ニッポン》
◇ あり余るカネ持つ大企業と金持ち!
あまり気づいていない国民が多いのだが、1980年代以降、金持ちや大企業には大幅な減税が次々と実施されてきた。これにより彼らはあり余るほどのカネを持っている。
金持ちや大企業への大幅な減税がどれだけ巨額なものであるかは、簡潔に言えば次のようになる。
かりに、今の日本の経済状態で一九八○年代の税制に戻せば、税収は今の二倍ほどに増える。消費税を上げることなく、東日本大震災の復興費などは簡単に賄えるのだ。
<表1>を見てほしい。
一九八八年時点では今より一三兆円も税収が多かった。八八年というのはバブル崩壊の直前の時期であり、消費税導入の前年である。つまり八八年は消費税がまだないのに、今よりはるかに税収が大きかったのである。
現在(二〇一一年)と一九八八年を比べればGDP(国内総生産)は二五%以上上昇している。だから、本来ならば、八八年よりも二五%税収が上がっていなければおかしい。しかし、実際は二五%以上も税収が下がっているのである。
◆ 金持ち優遇 庶民いじめの税制
なぜか、というと税制が大きく変えられたからだ。
<表2>を見てほしい。
八八年と今とでは、税金はどこが違ったのか、それは簡単に言うと次の四点である。
①大企業の税率が大幅に下げられた。
②高額所得者の税率が大幅に下げられた。
③資産家の相続税の税率が大幅に下げられた。
④消費税が導入された。
これを見れば、八八年以降は、国の税制は大企業、金持ちを優遇し、庶民の税負担を増やしてきたということが言える。
消費税は、国民に広く負担を求める税金であり、金持ちより庶民の方が、税負担率は高くなる。
所得税の最高税率を下げ、法人税を下げ、相続税を下げ、消費税を導入した、ということは、非常にわかりやすく「金持ちの負担減、庶民の負担増」となるものである。
このデータを見れば、われわれが今後の税制をどうしなければならないのかは明確である。
もちろん、大企業、金持ちに八八年レベルの税負担を求めることだ。
八八年よりも現在の方が経済キャパ(GDP)は二五%も大きくなっているのだから、八八年当時の税制に戻せば概算でも、六〇兆円以上の税収が見込める。これに今の消費税を合わせれば、七〇兆円の税収となる。
現在の税収のだいたい倍である。これだけの税収があれば、復興費も十分に捻出できるし、財政再建だって果たせるのである。
◆ あなたの給料が少なくなった理由
近年、わが国は大企業や金持ちを減税する一方で、中間層以下には大増税を連発している。財務省は「増税」という言葉を使わないで巧みに増税してきたので、国民は気づいていないが、われわれは近年、大増税を受けていたのだ。
多くの人が、「最近、手取りが少なくなった」と感じていると思うが、それは増税されているからなのだ。
たとえば、二〇〇四年には「配偶者特別控除」が廃止されている(現在の配偶者特別控除とは別)。
配偶者特別控除というのは、「年収一〇〇〇万円以下の人で、配偶者に収入がない場合は税金を割引します」という制度だった。
子どもが小さくて妻が働きに出られない家庭などにとっては、大事な制度だった。この制度が廃止されたために、だいたい四万~五万円の増税となったのである。
子どもが小さい家庭に四万~五万円もの増税をするなどというのは、少子高齢化の国は絶対にしてはならないことである。国や財務省が、いかに目先の税収のことしか考えていないか、いかに国の将来のことを考えていないか、ということである。
国や財務省は、国民から文句が出ないのをいいことに、これを決行してしまった。
しかし国民は文句を言わなかったのではなく、よくわからなかったから言えなかったのである。
「配偶者特別控除を廃止します」と言っても、一般の人には、それがどういうものかなかなかわからない。
もし、「子どもが小さい家庭に四万~五万円の増税になる」ということがわかっていれば、絶対に反対していたはずだ。
また、二〇〇七年には定率減税が廃止されている。
定率減税とは低所得者層の負担を減らすために作られた減税制度である。最高で所得税の二割が減税されたため、多い人では二〇万円以上にもなった。
またこの減税額には事実上の所得制限があったため、高額所得者にとってはあまり減税にはならないものだった。つまり、低所得者に恩恵が多い制度だったのだ。
これが廃止されたため、中間層以下の給与所得者全体にだいたい四万~五万円の負担増となった。
このように、昨今の税制改革の流れを見れば、見事なほど、「金持ちに大減税」「中間層以下に大増税」となっているのだ。これで格差社会ができないはずはないのである。
ここまで読んでこられた方の中には、こんな疑問を持つ方も多いはずだ。<なぜ八○年代以降、金持ちと大企業は大減税されてきたのか?昨今、日本は税収不足だし、高齢化社会のためにもたくさんの税収が必要だったのではないか?>と。
この疑問の答えを知ると、多くの人は怒りで震えるはずである。
◆ 金持ちと大企業が大減税された理由
八○年代以降、金持ちと大企業の税金が下げられてきたのは、金持ちと大企業が政府に「税金を下げろ」とうるさく要求し続けてきたからである。
*戦後、日本の税制は、金持ちや大企業には高い税金をかけてきた。これは古くはGHQ(連合国軍総司令部)の勧告に基づくものである。
GHQは、戦前の日本社会の欠陥として「貧富の差」を重要視していた。戦前の日本は、富のほとんどが財閥に握られ、産業の収益の多くが財閥に集中されるようになっていた。財閥のトップは、国民の平均収入の一万倍を得ていたのである。
しかも当時は、所得税が一律八%だったので、どんなに収入が多くても八%の税金を払えば済んだ。そのため今よりもはるかに貧富の差が激しかったのである。
戦前の日本で軍部が暴走したのは、そういう国民の不満を吸収していたからという面があるため、GHQは日本の貧富の差の解消に努めたのである。
そして経済学者のカール・シヤウプ(注)を中心としたプロジェクト・チームが日本社会を数カ月かけて調査し、金持ちや大企業に高い税率を課す税制を構築したのである。
戦後の日本社会は、このシャウプの税制を守り続けていたのだが、八○年代に入ってそれが崩れ始める。
金持ちや大企業にとっては、シャウプの税制を変えることが長年の念願だった。財界など金持ちたちの団体は、以前から税制の変革を求めて続けていたが、政治家も官僚も、貧富の格差に対する恐れがあり、なかなかそれは成らなかった。
しかし、戦後四〇年を過ぎて日本は経済大国に成長し、国民は戦前の貧富の格差を忘れ始めていた。そこで金持ちたちは、一気に税制を変えさせようと圧力をかけてきたのだ。
だから八○年代後半から怒涛の勢いで、大企業と金持ちの税金が下げられたのである。
(注)第二次大戦後の一九四九年、税制使節団長として来日。負担の公平」をめざし直接税を中心とした勧告を行なう。これをもとに日本政府は税制改革を実施(五一年)するが、勧告とは一部異なる内容も。
たけだともひろ。一九六七年、福岡県生まれ。九九年に大蔵省退官。著書に『ヒトラーの経済政策』(祥伝社新書)、『ワケありな日本経済』(ビジネス社)など。
『週刊金曜日』(2011.11.25 873号)
◇ あり余るカネ持つ大企業と金持ち!
武田知弘(経済ジャーナリスト)
あまり気づいていない国民が多いのだが、1980年代以降、金持ちや大企業には大幅な減税が次々と実施されてきた。これにより彼らはあり余るほどのカネを持っている。
金持ちや大企業への大幅な減税がどれだけ巨額なものであるかは、簡潔に言えば次のようになる。
かりに、今の日本の経済状態で一九八○年代の税制に戻せば、税収は今の二倍ほどに増える。消費税を上げることなく、東日本大震災の復興費などは簡単に賄えるのだ。
<表1>を見てほしい。
一九八八年時点では今より一三兆円も税収が多かった。八八年というのはバブル崩壊の直前の時期であり、消費税導入の前年である。つまり八八年は消費税がまだないのに、今よりはるかに税収が大きかったのである。
現在(二〇一一年)と一九八八年を比べればGDP(国内総生産)は二五%以上上昇している。だから、本来ならば、八八年よりも二五%税収が上がっていなければおかしい。しかし、実際は二五%以上も税収が下がっているのである。
◆ 金持ち優遇 庶民いじめの税制
なぜか、というと税制が大きく変えられたからだ。
<表2>を見てほしい。
八八年と今とでは、税金はどこが違ったのか、それは簡単に言うと次の四点である。
①大企業の税率が大幅に下げられた。
②高額所得者の税率が大幅に下げられた。
③資産家の相続税の税率が大幅に下げられた。
④消費税が導入された。
これを見れば、八八年以降は、国の税制は大企業、金持ちを優遇し、庶民の税負担を増やしてきたということが言える。
消費税は、国民に広く負担を求める税金であり、金持ちより庶民の方が、税負担率は高くなる。
所得税の最高税率を下げ、法人税を下げ、相続税を下げ、消費税を導入した、ということは、非常にわかりやすく「金持ちの負担減、庶民の負担増」となるものである。
このデータを見れば、われわれが今後の税制をどうしなければならないのかは明確である。
もちろん、大企業、金持ちに八八年レベルの税負担を求めることだ。
八八年よりも現在の方が経済キャパ(GDP)は二五%も大きくなっているのだから、八八年当時の税制に戻せば概算でも、六〇兆円以上の税収が見込める。これに今の消費税を合わせれば、七〇兆円の税収となる。
現在の税収のだいたい倍である。これだけの税収があれば、復興費も十分に捻出できるし、財政再建だって果たせるのである。
◆ あなたの給料が少なくなった理由
近年、わが国は大企業や金持ちを減税する一方で、中間層以下には大増税を連発している。財務省は「増税」という言葉を使わないで巧みに増税してきたので、国民は気づいていないが、われわれは近年、大増税を受けていたのだ。
多くの人が、「最近、手取りが少なくなった」と感じていると思うが、それは増税されているからなのだ。
たとえば、二〇〇四年には「配偶者特別控除」が廃止されている(現在の配偶者特別控除とは別)。
配偶者特別控除というのは、「年収一〇〇〇万円以下の人で、配偶者に収入がない場合は税金を割引します」という制度だった。
子どもが小さくて妻が働きに出られない家庭などにとっては、大事な制度だった。この制度が廃止されたために、だいたい四万~五万円の増税となったのである。
子どもが小さい家庭に四万~五万円もの増税をするなどというのは、少子高齢化の国は絶対にしてはならないことである。国や財務省が、いかに目先の税収のことしか考えていないか、いかに国の将来のことを考えていないか、ということである。
国や財務省は、国民から文句が出ないのをいいことに、これを決行してしまった。
しかし国民は文句を言わなかったのではなく、よくわからなかったから言えなかったのである。
「配偶者特別控除を廃止します」と言っても、一般の人には、それがどういうものかなかなかわからない。
もし、「子どもが小さい家庭に四万~五万円の増税になる」ということがわかっていれば、絶対に反対していたはずだ。
また、二〇〇七年には定率減税が廃止されている。
定率減税とは低所得者層の負担を減らすために作られた減税制度である。最高で所得税の二割が減税されたため、多い人では二〇万円以上にもなった。
またこの減税額には事実上の所得制限があったため、高額所得者にとってはあまり減税にはならないものだった。つまり、低所得者に恩恵が多い制度だったのだ。
これが廃止されたため、中間層以下の給与所得者全体にだいたい四万~五万円の負担増となった。
このように、昨今の税制改革の流れを見れば、見事なほど、「金持ちに大減税」「中間層以下に大増税」となっているのだ。これで格差社会ができないはずはないのである。
ここまで読んでこられた方の中には、こんな疑問を持つ方も多いはずだ。<なぜ八○年代以降、金持ちと大企業は大減税されてきたのか?昨今、日本は税収不足だし、高齢化社会のためにもたくさんの税収が必要だったのではないか?>と。
この疑問の答えを知ると、多くの人は怒りで震えるはずである。
◆ 金持ちと大企業が大減税された理由
八○年代以降、金持ちと大企業の税金が下げられてきたのは、金持ちと大企業が政府に「税金を下げろ」とうるさく要求し続けてきたからである。
*戦後、日本の税制は、金持ちや大企業には高い税金をかけてきた。これは古くはGHQ(連合国軍総司令部)の勧告に基づくものである。
GHQは、戦前の日本社会の欠陥として「貧富の差」を重要視していた。戦前の日本は、富のほとんどが財閥に握られ、産業の収益の多くが財閥に集中されるようになっていた。財閥のトップは、国民の平均収入の一万倍を得ていたのである。
しかも当時は、所得税が一律八%だったので、どんなに収入が多くても八%の税金を払えば済んだ。そのため今よりもはるかに貧富の差が激しかったのである。
戦前の日本で軍部が暴走したのは、そういう国民の不満を吸収していたからという面があるため、GHQは日本の貧富の差の解消に努めたのである。
そして経済学者のカール・シヤウプ(注)を中心としたプロジェクト・チームが日本社会を数カ月かけて調査し、金持ちや大企業に高い税率を課す税制を構築したのである。
戦後の日本社会は、このシャウプの税制を守り続けていたのだが、八○年代に入ってそれが崩れ始める。
金持ちや大企業にとっては、シャウプの税制を変えることが長年の念願だった。財界など金持ちたちの団体は、以前から税制の変革を求めて続けていたが、政治家も官僚も、貧富の格差に対する恐れがあり、なかなかそれは成らなかった。
しかし、戦後四〇年を過ぎて日本は経済大国に成長し、国民は戦前の貧富の格差を忘れ始めていた。そこで金持ちたちは、一気に税制を変えさせようと圧力をかけてきたのだ。
だから八○年代後半から怒涛の勢いで、大企業と金持ちの税金が下げられたのである。
(注)第二次大戦後の一九四九年、税制使節団長として来日。負担の公平」をめざし直接税を中心とした勧告を行なう。これをもとに日本政府は税制改革を実施(五一年)するが、勧告とは一部異なる内容も。
たけだともひろ。一九六七年、福岡県生まれ。九九年に大蔵省退官。著書に『ヒトラーの経済政策』(祥伝社新書)、『ワケありな日本経済』(ビジネス社)など。
『週刊金曜日』(2011.11.25 873号)
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