八重山教科書 選定再協議へ踏み出す時だ
琉球新報社説 2011年11月25日
学びの主役は子どもたちである。3市町の教育委員会は原点に立ち返り、生徒や保護者、学校現場が納得する教科書選びをやり直してほしい。
公民教科書の採択をめぐる八重山地区の混乱のことだ。
この問題では、石垣市教委と与那国町教委が教科用図書八重山採択地区協議会(会長・玉津博克石垣市教育長)の答申に従って育鵬社版を、竹富町教委は独自の判断で東京書籍版を採択している。
答申に従わない竹富町について、中川正春文部科学相は「教科書無償給与の対象外」と発言しているが、世論調査で示された民意は逆に育鵬社版選定を疑問視している。
繰り返し指摘してきたが、八重山教科書問題は採択協の玉津会長が独断的に教科書の順位付け廃止や調査員選定、協議会の非公開、無記名投票による選定を進めたことが発端だ。
文科省は玉津氏主導の不透明、非民主的な選定手続きを不問に付し、育鵬社版を選んだ8月23日の採択協を「規則に従ってなされた」として有効と見ている。
しかし、採択協議会は非公開で行われ、その後、委員が教科書を読まず実質審議をしていなかったことが判明した。
文科省はずさんな選定を容認するのか。
文科省が採択協の運営や審議の在り方に言及しないのは、民主主義、教育に対する生徒の信頼を著しく損ねている。
文科省の「事なかれ主義」は犯罪的ですらある。
地域住民や教育関係者の間では玉津氏主導の選定手続きに対し、愛国心を強制し周辺諸国の脅威を強調する「『新しい歴史教科書をつくる会』系教科書の採択ありき」との疑念が渦巻いている。
世論調査によれば、県民は社会科教科書で「愛国心」「領土問題」よりも「平和教育」「人権・平等」を重視している。
悲惨な沖縄戦の教訓、米軍に人権を蹂躙(じゅうりん)されてきた県民の戦後体験からすれば、これは自然な感覚だ。
教科書選定でもこうした県民感情は大切にされてしかるべきだ。
県教育委員会(中野吉三郎委員長)は3市町教委に同一教科書の採択を働き掛ける方針を再確認した。
文科省はこの機会を逃さず県教委と連携し収拾を図ってほしい。
非民主的な教科書選びは全国どこであろうと許されない。
文科省は自覚してほしい。
このままでは民主主義を語る資格を失う、と。