( 前半 http://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/21962450.html からの続き)
 
 
 4 自由社・育鵬社採択の時代的背景――新しいナショナリズム運動とその体制化
 これまで横浜市を中心に述べたが、もうすこし全国的に、また時間軸を長くこの問題を俯瞰してみたい。そのなかで横浜は、0年代のナショナリズムの動きのなかでどういう位置を占めるか、時代背景をみる。
 現代の教科書問題は、教科書検定で
「侵略」を「進出」に書き換えたことが82年に報道され、アジア諸国から批判が起きたことに始まる。85年には近隣諸国条項が制定され、日本の加害の問題が浮かび上がり、90年の河野談話を経て95年には村山内閣のもと戦後50年決議が可決された。
 この事態に危機感を抱き97年1月「新しい歴史教科書をつくる会」、5月には日本会議が次々に発足した。日本会議の設立宣言で「冷戦構造の崩壊によってマルキシズムの誤謬は余すところなく暴露されたが、その一方で、世界は(略)新たなる混沌の時代に突入している。にもかかわらず、今日の日本には、この激動の国際社会を生き抜くための確固とした理念や国家目標もない」と指摘していることに留意すべきである。そのうえ草の根的な国民運動として急激に発展した。つくる会神奈川県支部は、県レベルで全国初の支部である。
 さらに0年代になるとたんなるポピュリズム運動の段階にとどまらず、体制に関与し
政治的影響力を行使するようになった。愛媛や東京の中高一貫校で相次いで「つくる会」教科書が採択され、文科省は「静謐な採択環境」という通達を出して応援した。
 そのきっかけは「9.11」ではないかと考える。「国・国民の安全」「安全・安心の社会」が政治的課題となり、有事関連立法が次々に成立した。日本の安全を守るということはアジアの国を「脅威」ととらえることであり、北朝鮮に対しては拉致問題、韓国は竹島・独島、中国は尖閣諸島の領土問題が脅威としてあわせて出てきた。
 さらに、
新しいナショナリズムと新自由主義路線にたつ首長が台頭し政治的ヘゲモニーを握った。石原慎太郎都知事、山田宏杉並区長、中田宏横浜市長、橋下徹大阪府知事、河村たかし名古屋市長らが当選および再選・三選した。
 そして教育改革の主導権をとり、
教育基本法が「改正」された。01年に文科省が諮問し03年に答申が出て安倍首相の下、06年に改正された。
 「改正」教育基本法の特徴として、愛国心の強調がよくいわれる。しかしもうひとつ重要なのは、教育行政について「国民全体に対し直接に責任を負う」という文言が削除され、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」と教育行政法律主義が明文化され、「国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下」と教育と政治の一体化が条文化されたことが大きい。ここが利用されている。新教育基本法を体現するかたちで、育鵬社教科書の母体の日本教育再生機構が06年に発足した。

 おわりに――ポスト戦後・グローバル化時代のなかで
 このように新しいナショナリズムはポスト戦後・グローバル時代に新たな処方箋を提示し、主導権を握った。戦後の基本であった教育基本法や制度が改訂され、近々憲法改定も明確なかたちをとるだろう。
 教育の分野では、
教育と政治が一体化し、学校に強い管理統制が課されている。たとえば東京では日の丸君が代の強制で教員が大量に処分され、大阪では教育基本条例案が審議されている。育鵬社の教科書採択はこの動きと一体化して行われた。教科書だけの問題ではない。「時代の問題」であることを確認すべきである。
 たしかに対抗運動には根強いものがあるが、社会一般に浸透せず若者の関心が薄い。また市教委の権限が強く、請願を出しても新教育基本法や新学習指導要領のもと、「取るに足りない意見」として処理されており深刻な事態である。
 
グローバル化という新しい時代の主導権を握られ、すでに体制化されている。この事実を見据えると、オルタナティブなヴィジョンを考えることが必要である。いままで常識として考えてきたことを再考することも含め、徹底的に考える必要が出てきているのが現在ではないかと感じる。

☆あまりにも悲観的な講演だった。しかしこの10年を振り返ると納得できる点が多い。わたくしが天皇制に関心をもったのは99年8月の国旗国歌法成立だった。以降、国立二小・五小の問題を契機にどんどん事態は悪化した。わたくしが長期的にウォッチしたり関与したものでは、今年6月の最高裁の連続敗訴をはじめ、裁判は大江・岩波裁判を除きほぼ全敗、選挙も07年の川田・参議院選挙と今年の保坂・世田谷区長選を除き全敗だった。どうしてそういうことになったのか、この日のマクロな分析で少し理解できたような気がする。
 しかし13日(日)告示、27日(日)投票の大阪市長選では、大阪を「第二の東京」にし教員の大量処分や免職を生み出さないために、できるだけのことをやりたい。


『多面体F』より(2011年11月12日 集会報告)
http://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/6684f609fc98b2b88a64b6ec42d0c779