安易に重責解雇を認めるハローワーク
事業主に懲戒解雇を証拠立てる資料を求めるべき
大した理由が無いのに懲戒解雇。その結果、失業給付が受けられない。
9月4日にUPした記事「【失業給付】離職票の離職理由に異議がある場合の対処方法」では、会社から自己都合退職を強要された結果失業給付を受給できない労働者が沢山いることについて述べ、その対策を書きました。今日の記事では大した理由が無いのに懲戒解雇とされたために失業給付に給付制限が付き(文末脚注参照)、事実上受給を受けられないケースについて書くことにします。
懲戒解雇は企業が就業規則に基づいて従業員に課す最も重たい制裁のはず
重責解雇(懲戒解雇)は、企業が従業員に課す最も重たい制裁です。重たい刑罰である死刑や無期懲役と比較するのは適当でないとしても、労働者にとって職を失うことは生活の糧を失うことです。それが冤罪であれば耐え難いものとなります。裁判でも懲戒解雇は余程でなければ有効とされない
懲戒解雇が争われる裁判は多数ありますが、労働者の営業成績が思わしくないなどの理由では懲戒解雇の有効性は認められません。整理解雇を正当化するのに4要件がありますが、懲戒解雇にも要件があります。(文字数の関係で省略)懲戒解雇による解雇予告手当除外認定も殆ど認められない
また、労働基準監督署に懲戒解雇した労働者に対する解雇予告手当の支払いをしない許可を求めても(「解雇予告手当除外認定」という)滅多なことでは認められません。○どのような場合に解雇予告手当の除外認定が認められるか→http://labor.tank.jp/kaiko_etc/kaikoyokoku.html#7
法律でも懲戒解雇の乱用を規制している
法律でも懲戒解雇の乱用を規制しています。労働契約法の15条では次のように規定しています。労働契約法第十五条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
事業主の懲戒解雇が安易にまかり通るハローワーク
ところが、事業主がハローワークに提出する離職票の離職理由を「重責解雇」(懲戒解雇のこと)としてしまうと、労働者が異議を申し立てても、なかなか労働者の主張が認められないという問題があります。事業主の主張と労働者の主張が異なる場合にハローワークは労働者の主張を証拠立てる資料が提出されなければ、労働者の主張は認められないケースが多いのです。「一身上の都合での退職にしないと懲戒解雇にする」との脅し
時々あるのが「一身上の都合での退職にしないと懲戒解雇にする」との脅しです。「脅しに過ぎないよ」などと言っているうちに本当に実行されてしまった事例がありました。このケースでは労働局へ「懲戒解雇撤回」の「助言指導」を申出し、労働局による社長に対するアドバイスが功を奏し、解雇は撤回されなかったものの離職理由が普通解雇に修正され、会社都合として給付が開始されました。しかし、いつも、こううまくいくとは限りません。
重責解雇(懲戒解雇)は、言わば極刑に相当するものです。これの適用に関しては既に説明したとおり、裁判所でも監督署でも法律の上でも、その濫用を戒めています。ただ、ハローワークだけが安易に事業主の主張を認めるのはやはり問題だと思います。
会社側に懲戒解雇を正当化する資料提出を義務付けるべき |
労働者に重責解雇が不当であることを示す資料を要求するのではなく、事業主に重責解雇を証拠立てる資料を要求するのが正しいやり方ではないのでしょうか。
ハローワークにどのような場合に重責解雇になるのかと問い合わせても、まちまちな答えが返ってきます。キチットした基準が無いように思われるわけです。折角、解雇予告手当除外認定基準というものがあるわけですから、それを基準とすべきだと考えます。
まずは、重責解雇の基準を解雇予告手当の除外認定基準と同じにすべき |
認定基準は以下のとおりです。(労務安全情報センター資料から転載)
(1) 原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合。
(2) 賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ほす場合。
また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
(3) 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。
(4) 他の事業場へ転職した場合。
(5) 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
(6) 勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合。
の如くであるが、認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと。(昭和23.11.11 基発第1637号、昭和31.3.1 基発第111号)
(1) 原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合。
(2) 賭博、風紀素乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ほす場合。
また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合。
(3) 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。
(4) 他の事業場へ転職した場合。
(5) 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
(6) 勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合。
の如くであるが、認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと。(昭和23.11.11 基発第1637号、昭和31.3.1 基発第111号)
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(脚注)失業給付に給付制限が付き
給付制限とは、失業給付の支給開始が会社都合の離職に比べ3か月先送りされ、給付日数も短くなることがあるということです。
解雇者や退職者が出ると事業主は10日以内に3片制の「離職証明書」を所轄のハローワークへ提出します。ハローワークは3片の内「ハローワーク控え」を受け取り、「事業主控え」と労働者に事業主から渡す3片目(「離職票」という)に押印し事業主に返します。
○離職票フォーム(右のサイトから記入例:雇用保険被保険者離職票-2を選択)→https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_guide.html
事業主が誠意をもってこの離職手続きをスピーディーに行えば「離職票」が労働者に渡されるのは離職日から1週間後ぐらいでしょうか。法律の制限である10日目にハローワークで手続きした場合には2週間目ぐらいに入手できることになります。
「離職票」を入手した労働者は、居住地の近くのハローワークへ失業給付の申請をします。申請を受けたハローワークは「離職票」に記載された離職理由がいわゆる会社都合であれば申請日の7日後から失業給付を開始します。
離職理由が「一身上の都合」(一身上都合であってもの正当な理由のある自己都合として給付制限がない場合もあります。→冒頭に紹介した9月4日の記事を参照)であったり「重責解雇」(懲戒解雇のこと)であったりすると更に3か月給付開始が遅れます。(「3か月間の待期」という)更に、給付期間も短くなることがあります。
上に示した「離職票フォーム」をご覧ください。離職理由の大項目3「事業主からの働き掛けによるもの」の(2)「重責解雇」(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)に○印がされると給付制限が付くことになります。
勿論、「離職票」には労働者自身が離職理由を選択して○印を付す欄が設けられています。事業主と労働者の離職理由が異なる場合に、ハローワークは簡単に労働者の主張を認めるわけではありません。
給付制限とは、失業給付の支給開始が会社都合の離職に比べ3か月先送りされ、給付日数も短くなることがあるということです。
解雇者や退職者が出ると事業主は10日以内に3片制の「離職証明書」を所轄のハローワークへ提出します。ハローワークは3片の内「ハローワーク控え」を受け取り、「事業主控え」と労働者に事業主から渡す3片目(「離職票」という)に押印し事業主に返します。
○離職票フォーム(右のサイトから記入例:雇用保険被保険者離職票-2を選択)→https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_guide.html
事業主が誠意をもってこの離職手続きをスピーディーに行えば「離職票」が労働者に渡されるのは離職日から1週間後ぐらいでしょうか。法律の制限である10日目にハローワークで手続きした場合には2週間目ぐらいに入手できることになります。
「離職票」を入手した労働者は、居住地の近くのハローワークへ失業給付の申請をします。申請を受けたハローワークは「離職票」に記載された離職理由がいわゆる会社都合であれば申請日の7日後から失業給付を開始します。
離職理由が「一身上の都合」(一身上都合であってもの正当な理由のある自己都合として給付制限がない場合もあります。→冒頭に紹介した9月4日の記事を参照)であったり「重責解雇」(懲戒解雇のこと)であったりすると更に3か月給付開始が遅れます。(「3か月間の待期」という)更に、給付期間も短くなることがあります。
上に示した「離職票フォーム」をご覧ください。離職理由の大項目3「事業主からの働き掛けによるもの」の(2)「重責解雇」(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)に○印がされると給付制限が付くことになります。
勿論、「離職票」には労働者自身が離職理由を選択して○印を付す欄が設けられています。事業主と労働者の離職理由が異なる場合に、ハローワークは簡単に労働者の主張を認めるわけではありません。