ルポ「奨学金なのか?サラ金なのか?」樫田秀樹(ルポライター)
 
   奨学金が高利子と取り立て・財産差し押さえの恐ろしいものになっていることを
 
   知っていますか?
 
    許せますか?
 
 
  「奨学金なのか?
 
   サラ金なのか?」
 
 
『世界』10月号 9月8日発売 2011年 岩波書店  
      定価 840 円(本体800 円)(送料 108円)

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   編集後記   岡本 厚 『世界』編集長 
 
 多くの人の命を一瞬にして呑みこんだ3月11日の大津波。
 
 その中で、日ごろの教育と訓練を生かし、
 自分たちの命を守った子どもたちがいる。
 
 岩手県・釜石市の小・中学生だ。
 
 小学生1927人、中学生999人が無事で、生存率99.8%。
 
 いま「釜石の奇跡」と呼ばれている。
 
 大地震が起きたとき、学校にいた中学生たちは、
 まず校舎の上に上がるが、それでは十分でないと判断、
 建物を降りて避難所に向かって走り始めた。
 
 中学生が集団で走るのを見て、隣の小学生たちも一緒になって走った。
 
 第一次避難所に着くが、そこで崖崩れや津波の大きさに気づいた子どもたちは、
 そこも危険と判断、
 さらに高台に駆け上がり、難を逃れたという。

 八年にわたって釜石の防災教育に携わった群馬大学の片田敏孝教授が提唱する 「避難の三原則」とは、
 
 ①ハザードマップを信じるな
 ②そのときできる最善を尽くせ
 ③率先して避難せよ
        ──である。
 
 つまり
 「想定」など信じてはいけない、
 大人や教師の指示など待たず自ら判断し、
 即行動に移せ、
        ということである。
 
 実際、
 すでに下校して自宅にいた子どもたちも、
 海に釣りに行っていた子どもたちも、
 その場で自分たちだけで適切に判断して行動し、
 命を守った。
 
 防災という特殊性があるとはいえ、
 子どもたちはいざというとき自分の頭で考え、
 しっかり判断が出来ることを示した。
 
 日本の学校システムでは、
 常に教師の指示・指導があり、
 子どもたちはそれに従い、
 集団で行動することがよい、
 とされてきた。
 
 だからこそ、
 
 子どもたちの「意見表明の権利」や
 「表現の自由」を掲げる「子どもの権利条約」が、
 批准 (1994年) 以後17年も経つのに、
 いまだに日本の学校では蔑(ないがし)ろにされている
 
 片田教授の「避難の三原則」が、日本の学校や指導のあり方とは、
 まったく逆の考えであるところが面白い。
 
 
 8月17日、衆議院議員会館で、
 文科省や内閣府の役人たちに対して意見を述べた福島の子どもたちの言葉も
 心を打った (本号メディア批評)。
 
 「福島の子どもたちがプールにも入れず、
 マスクをして登下校しているこの状況を安全だと言い張る政府に、
 私はとても疑問を感じます」
 「これほどの事故が起きても、
 どうしてまた原発再開を目指すのか。
 私にはまったく分かりません」
 
 「みんなが (安全な場所に) 避難している間に
 学校も田畑も森も山も川も福島県全体を
 徹底的にきれいにする計画を立ててそれを実行してください」
 
 誰しもが感じていることを、
 ど真ん中の直球で投げ込んでいる。
 受け止めきれずに官僚たちはタジタジとなっていたが、
 この言葉は、日本社会の大人すべてに向けられていると考えるべきだろう。
 
 大震災と史上最悪の原発事故という絶望的な状況の中で、
 こうした新しい世代の能力の高さと感性の確かさを感じられるのは、
 小さな、しかし明るい希望である。
 
 これからの日本の向かうべき方向のヒントであろう。
 
 米国の力の衰退が顕著になった今 (本号特集) に、
 「日米同盟」を「基軸中の基軸」とする首相が誕生した。
 
 国際環境が激変している中では、現状維持は現実的ではありえない。
 
 閉塞状況を切り開くには、
 物事を根源に遡って捉え直し、構想を立てる以外にないが、
 それは民主党には無理であることが分かった
 
 では誰が担うのか。
 
 子どもたちの声を真っ直ぐに受け止めた、私たち一人一人以外にない。
 
 
 
 

 3月11日の東北関東大震災で亡くなられた方々に、心より哀悼申し上げます。また被災によってご家族やご親戚、あるいはご友人を失われ、いまも避難所などで不自由な生活を余儀なくされている方々に、心よりお見舞い申し上げます。
 福島第一原発の事故はなお進行中です。地震・津波の被害に加えて、原子力災害の不安の中で暮らしておられる地域の方々に、心よりのお見舞いと激励を申し上げます。
「世界」編集部

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定価 840 円(本体800 円)(送料 108円)
ISSN 0582-4532 雑誌 05501-10
  2011年10月号 9月8日発売

2011年11月号 (2011年10月8日発売予定) 予告
 史上最悪の原発事故が続いています。「脱原発」を叫んだ菅内閣が野田政権に代ったとしても、「脱原発」へ向かう大きな世論の流れは変わっていません。問題は、原発を止めるとして、果たして、よく言われる再生エネルギーで代替できるのか、ということです。再生エネルギーとは何か、その現状、コスト、将来性はどうか。可能性はどこまであるのか。「脱原発」の将来像を考えます。
 
 
 
 
特 集 原子力復興という危険な夢
 これまで経験したことのない巨大地震と巨大津波、被害はなお続いています。
 かつてない規模の被災者にとって、いま緊急に必要なのは支援、救援体制の整備と静かな喪の時間の確保です。しかし、救援と喪の時間を妨げ、不吉な影を落としているのが、いうまでもなく、福島原発の深刻な事故です。
 本誌は、原子力発電について、その安全性、経済性、エネルギー政策の面などから、疑問を呈し、批判的な論陣を長く張ってきました。
 その直近の号が2011年1月号の特集「原子力復興という危険な夢」でした。
 事故以後、この号を読みたいという要望が多く寄せられました。本屋さんを通じて注文をいただくことも可能ですが、被災地に近いところではそのようなことは不可能です。そこで、著者の方々の了解を得て、特集の一部をPDFとし、当面の間、無料でダウンロードすることができるようにしました。

 2011年3月28日
「世界」編集長 岡本厚 
経済の視点から
原子力のたそがれ──米・仏・独のエネルギー政策分析から浮かび上がる再生可能エネルギーの優位性
 マイケル・シュナイダー (マイケル・シュナイダー・コンサルティング代表)、訳=田窪雅文 (「核情報」主宰)
>>>公開中[PDF:1.4MB]
「原発輸出」論議暴走の背景
新政権の環境エネルギー政策はなぜ逆噴射したか
 飯田哲也 (環境エネルギー政策研究所所長)
ハイリスク ノーリターン?
原発輸出──これだけのリスク
 明石昇二郎 (ルポライター)
>>>公開中[PDF:1.1MB]
ル  ポ
岐路に立つ日本の原子力外交──インドとの協定交渉の舞台裏
 黒川朋子 (TBS報道局外信部)
自治にとって原発とは
原発依存からどう脱却するか──自立したまちづくりを考える
 伊藤久雄 (東京自治研究センター)
ル  ポ
原発頼みは一炊の夢か──福島県双葉町が陥った財政難
 葉上太郎 (地方自治ジャーナリスト)
>>>公開中[PDF:1.5MB]
地震と原発
蘭嶼島 津波の島に蓄積される核廃棄物
 中生勝美 (桜美林大学)
世界の潮
COP10 生物多様性保全へ向け名古屋議定書を採択  足立旬子
複雑化する「空の交通整理」 航空管制の現状  中野秀夫
ビルマ総選挙とアウンサンスーチー「解放」  根本 敬
米国が打ちこんだ楔
「尖閣問題」と安保条約
 豊下楢彦 (関西学院大学)【執筆者からのメッセージ】
八方塞がりの外交
瀕死の北方領土交渉
 東郷和彦 (京都産業大学客員教授)
外事3課文書流出
無知の怖さ──外事警察機密文書流出から見える「テロ対策」の実態
 田原 牧 (東京新聞)
尖閣ビデオ流出問題
「ネット告発」はマス・メディアに何を突きつけたか
 大石泰彦 (青山学院大学)
映像流出で露呈した政権運営の迷走
 東アジア安全保障研究会
沖縄県知事選
オール沖縄 普天間「県外移設」の民意
 渡辺 豪 (沖縄タイムス)
TPP
浮き足立つ民主党政権にTPP協議をまかせられるか
 田代洋一 (横浜国立大学名誉教授)
米中間選挙分析
自らの「成功」のツケを払わされたオバマ大統領
 佐藤 学 (沖縄国際大学法学部教授)
二番底は回避できるか
経済危機いまだ終息せず
 ポール・クルーグマン&ロビン・ウェルズ
 訳・解説=山本俊明 (時事通信)
新 連 載
世界の本屋さん (1)──本の声
 中村和恵 (明治大学)
感じて歩く (1)──杖を片手に
 三宮麻由子 (エッセイスト)
表現の自由は、いま
マンガ表現の規制強化を問う──本物の民意はどこに?
 河合幹雄 (桐蔭横浜大学)
ル  ポ
東国原県政へのレクイエム──「故郷」を踏み台にした男の4年間
 横田 一 (ジャーナリスト)
対  談
「国境」を越えるためには何が必要か
 土井香苗 (ヒューマンライツウォッチ)、サヘル・ローズ (女優)
「小泉・竹中時代」を問う
「金融革命家」の栄光と挫折 (下) ── 木村 剛とは何者だったのか
 佐々木実 (ジャーナリスト)
連  載
過去からの行進 第22回  金石範
小説家の四季 2010 秋  佐藤正午 (小説家)
●イラストルポ 飼い喰い
第14回 課題と変化と逡巡と
    内澤旬子 (イラストルポライター)
いつか来た道 とおりゃんせ──50年代児童が読んだ本
第7回 みんながハイジを愛したので
    田中眞澄 (映画・文化史家)
非業の生者たち 集団自決 サイパンから満洲へ
第12回 満洲興安省「葛根廟事件」
    下嶋哲朗 (ノンフィクション作家)
沖縄 ( シマ ) という窓
沖縄戦と精神障害  山城紀子 (フリーライター)
脳力のレッスン (105)
2010米中間選挙の意味  寺島実郎
メディア批評 第37回  神保太郎 (ジャーナリスト)
おきなわ散歩 第25回 カミンチュ  比嘉 慂 (漫画家)
●世界論壇月評 朱 建 栄/竹田いさみ/吉田文彦/石郷岡建
●「ル・モンド・ディプロマティック」より
グローバル企業に対するグローバルな抵抗
フィリップ・ルヴェリ 訳=橋本一径
ドキュメント 激動の南北朝鮮 第162回 (10.10〜11) 編集部
グラビア
山大夫──公募作品94  坂本泰士
グラビアについて (公募規定)
アムネスティ通信
読者談話室
表紙写真=橋口譲二 「Woman」
デザイン=赤崎正一+栄元正博 (協力=小笠原幸介)
Webサイト制作=田原浩一
編集後記
全文掲載
岡本 厚 (本誌編集長)