大阪の条例案 教員免職 乱用が心配だ(8月26日) 職務命令に3回違反した教職員はクビ-。

 大阪府の橋下徹知事が代表を務める地域政党「大阪維新の会」が、こうした内容を含んだ教育基本条例案と職員基本条例案を近く府議会と大阪市議会に提出する。

 政治の関与を前面に打ち出し、首長に強い権限を与える内容で、成立すれば全国で初めてだ。

 条例を盾にした首長の職権乱用が心配である。歯止めも見えない。

 教育行政を進める教育委員会は本来、知事や市町村長の意向に左右されない独立した行政機関である。制度疲労は指摘されるが、中立性がゆがめば根幹が揺るぎかねない。

 条例案は問題が多すぎる。府議会では維新の会が過半数を占めているとはいえ、慎重に論議するべきだ。

 教職員に対する分限免職は、入学・卒業式で君が代を斉唱する際に起立を求める学校長の職務命令を念頭に置いたものだろう。

 免職を突きつけて内心に踏み込み、問答無用で起立させる手法は教育現場にふさわしいとは思えない。

 最高裁は三つの小法廷とも、起立を求める職務命令について「合憲」判決を下している。

 だが、合憲とした裁判官も重い処分を科すことは「裁量権の逸脱または乱用に該当する場合があり得る」などの補足意見を付した。行き過ぎに対する強い懸念表明があったことをあらためて指摘しておきたい。

 首長が学校の目標を定め、公募で任命された校長が学校を運営する仕組みを導入することも問題だ。教育委員が目標実現の責務を果たさないと首長が判断した場合、罷免できる規定すら盛り込む。

 これでは首長の権限が巨大になりすぎ、教育への直接的な干渉を許すことになる。

 入学定員割れが続く府立高を統廃合の対象にしたり、学力テストの結果を学校別に公表することも求めるという。教職員を競争原理で追い立て成果を強制することで、実りある教育が実現するのだろうか。

 低い人事評価が続く教職員には処分の規定も設け、リストラ規定もつくる。公平に評価できるのか、現場を萎縮させることはないか、疑問だ。

 橋下知事は「政治が決めたルールでモチベーションが上がる人だけ来たらいい」と述べた。独特の挑発的な言辞かもしれないが、多様な考えを認める民主主義とは相いれない。

 11月に見込まれる大阪市長選と知事選の「ダブル選挙」で条例案の是非を問う考えもあるようだ。過激な改革案を示し、有権者の喝采を得ようとする思惑も透けて見える。

 教育には、政治的な打算や強権的手法を持ち込むべきではない。

北海道新聞:8月26日 社説
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/314223.html