杉良太郎(法務省特別矯正監、歌手・俳優)

 ”三文バラエティー”のまね事か。経済産業省原子力安全保安院の「やらせ問題」は、自分たちの仕事の内容や目的、立場を見失い、「日本国社会の秩序は末期的であります」と証明したようなものだ。
 こんなことがばれないと思うところが、幼稚でかつ悪質である。

 一個人が物を盗むと窃盗、人をだますと詐欺の罪に問われ、刑罰を受ける。これに対し、放射能漏れで土を汚染し、牛のえさのワラがさらに汚染して牛が汚染し、それを国民が食べて健康被害を受けても、行政担当者への罰は注意か、せいぜい減給が関の山。
 この問題で「失敗のツケは国民の税金で賄います」というのが政府の方針だ。

 今回の原発事故被害は、本来なら行政が招いた人災であり、詐欺や業務妨害、健康被害が出れば傷害、最悪は業務上過失致死にも当たる「犯罪」だと思う。
 だが、行政が多くの国民の生命を危険にさらすような過失を犯しても、残念なことにそれらを取り締まる法律はこの国にはない。国民は「補償しろ」と叫ぶか、ただ泣き寝入りである。


 それにしても、保安院の全員が悪人とは思えないので、「この人がやりました」と当事者個人の罪を明示した方がいいのではないか。でなければ責任は政治に転嫁され、そして大臣を務める人もいなくなる。
 結局、国民は自分で自分を守るしかない。
 私はそのために、より精度の高いうそ発見器と放射線測定器を持つことをお勧めしたい。

 『東京新聞』(2011/8/6【紙つぶて】)