琉球新報社説2011年5月8日

 北沢俊美防衛相が仲井真弘多知事と会談し米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり意見交換した。県外移設を求める知事に対し、北沢氏は日米合意に基づき名護市辺野古に移設する方針を繰り返した。
 発言内容は予想通りで、新味はほとんどゼロ。2本の滑走路をV字形に配置する方針についても説明がなかった。米国向けに、沖縄の理解を得ようと努力するポーズを示しただけだ。中身の乏しい来県だった。
 あらためて鮮明になったのは、誠実さに欠ける政府の姿勢だ。「民主党は公約を変えた」という仲井真知事の指摘に、北沢氏は「鳩山(由紀夫)さんが『県外、国外』と言ったのは民主党の選挙公約ではない。党首(の発言)だから公約と言われても否定はできないが、マニフェスト(政権公約)に書いているわけではない」と開き直った。
 民主党は2009年衆院選のマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と明記した。見直しの方針を百八十度転換し、自公政権下の合意に回帰したのだから、公約破りそのものだ。防衛相の釈明は詭弁(きべん)にすぎない。
 北沢氏は昨年5月、日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、普天間飛行場の辺野古移設を再確認する共同声明に合意した当事者の一人だ。県外・国外移設や無条件撤去を求める多くの県民を裏切った。本来、沖縄に顔向けできない立場のはずだが、政権公約ではないとしらを切る。厚顔としか言いようがない。
 ウィキリークスが公表した米公電を見れば、民主政権発足当初から、外務・防衛官僚に在日米軍再編合意を変更する考えがなかったことが分かる。その後、官僚たちの思惑通りに事は進んだ。
 今や閣僚とは名ばかりで役人が描いたシナリオに沿って動く操り人形も同然だ。知事が県外移設を要求しても「のれんに腕押し」でらちが明かないのは無理もない。
 政府がどんなに強弁しようと、名護市の稲嶺進市長をはじめ県民の大半が辺野古移設に反対している。もはや実現する可能性はない。
 民主党政権に求められるのは「かいらい大臣」を一掃し、米国に迎合する官僚から主導権を奪い返すことだ。原点に立ち返り、現行案よりも現実味がある「県外」を追求してほしい。