被災者を戸別訪問し、健康状態などを聞く神戸市の保健師(中央)ら=岩手県陸前高田市内で2011年4月7日、福永方人撮影 東日本大震災の被災地で、住民の健康相談などにあたる保健師が不足し、中長期的な医療・福祉支援に支障を来す恐れが出ている。被災地が広大な上、保健師自身も被災し、どこに支援が必要な被災者がいるかの把握が追いついていないのが実情だ。全国から保健師が派遣されているが、1週間程度で交代するケースが多く、被災地からは継続的なケアへ向け、同じ保健師の長期派遣を求める声も上がっている。【福永方人、長野宏美】
「お体どうですか」「ご家族で調子の悪い方はいらっしゃいませんか」
岩手県陸前高田市の米崎町地区。神戸市から派遣された保健師の豊留(とよどめ)則子さん(50)らが住宅地図を見ながら、2人1組で民家を一軒一軒回る。住人に健康状態を聞き、血圧や脈拍を測ってシートに記入していく。姉の家に身を寄せる阿部希子(まれこ)さん(65)は「水が出ないからお風呂に入れず、洗濯もできない。高血圧が心配です」と漏らした。
◇保健師9人中6人死亡
陸前高田市では今月6日から、県内外の自治体から応援に来た保健師らが全市民を対象に聞き取り調査を実施。95年の阪神大震災でも被災地で巡回活動をした豊留さんは「東北の人の気質なのか、我慢しているように感じる。悩みをため込むと、うつ症状につながる恐れもあり、阪神大震災の経験談も交えて話しかけ、打ち明けてもらえるよう努めている」と話した。
同市では、津波で約3300棟の住宅が倒壊。死者・行方不明者数は県内最多の約2200人で、人口約2万3000人の1割近くに上る。市の保健師も9人中6人が死亡。市民の健康診断の結果や介護・福祉サービスの受給状況などを記録した書類も流失した。避難者は約1万5000人に上り、避難所から親類宅などに移る人も少なくない。
聞き取り調査は地区ごとに担当チームを決めて避難所や住宅を巡回。市民の所在や健康状態などを把握し、医療や福祉につなげる。各地の自治体から派遣された保健師ら30~40人が担当し、調査を統括する県大船渡保健所の花崎洋子・上席保健師は「住民の健康チェックは本来市の仕事だが、市役所が流されて職員も被災し、とてもできる状態ではない。調査結果は今後の保健医療の重要な基礎データになる」と話す。大船渡市や大槌町なども同様の取り組みを進めている。
◇数日~1週間程度で交代
各地から交代で派遣される保健師でしのぐ現状には課題もある。厚生労働省によると、岩手、宮城、福島の3県には24日現在、保健師ら保健医療の担当者が全国から134チーム計441人派遣されているが、地元での通常業務もあり、数日~1週間程度で交代するケースが多いためだ。
陸前高田市内の避難所で父(84)を介護する金野英子さん(54)は巡回に訪れた保健師に、「来てくれるのはありがたいが、状況をしっかり把握してもらうためには同じ人に長期的に来てほしい」と要望した。花崎さんも「同じ人が継続的に見ないと、被災者の状態の変化を見落とす恐れもある。国などが主導し、保健師を年単位で派遣してもらえるような支援体制を整備してほしい」と訴える。
厚労省は13日、保健師の派遣の継続と増員を全国の自治体に要請した。だが、「地方公務員の派遣は本来、自治体同士で交渉するもの。今は災害救助法に基づき緊急的に国が代行しているが、長期的に派遣を要請するのは難しい」(同省健康局総務課保健指導室)という。
被災地の避難所などを視察した前田潤・室蘭工業大環境科学・防災研究センター准教授は「震災発生から6週間が過ぎ、避難者は心身ともに疲弊して栄養状態も良くない。中長期的な課題である心のケアでは、被災者と継続的にかかわって信頼関係を築き、微妙な変化を察知することが重要だ。県が被災市町村に代わって保健師を雇用し、長期派遣する体制をつくった方がいい」と指摘する。
◇ことば 保健師
保健所や市町村の保健センターに所属する看護職で、住民の健康相談や健康診断を受け持ち、医療・福祉の支援につなげる。地域社会に関する知識も必要で、資格を得るには看護師の国家試験を含む2度の国家試験への合格が必要。厚生労働省によると10年5月現在、常勤の保健師数は3万1769人。
毎日新聞 2011年4月25日 21時26分(最終更新 4月25日 23時18分)
http://mainichi.jp/life/today/news/20110426k0000m040099000c.html
「お体どうですか」「ご家族で調子の悪い方はいらっしゃいませんか」
岩手県陸前高田市の米崎町地区。神戸市から派遣された保健師の豊留(とよどめ)則子さん(50)らが住宅地図を見ながら、2人1組で民家を一軒一軒回る。住人に健康状態を聞き、血圧や脈拍を測ってシートに記入していく。姉の家に身を寄せる阿部希子(まれこ)さん(65)は「水が出ないからお風呂に入れず、洗濯もできない。高血圧が心配です」と漏らした。
◇保健師9人中6人死亡
陸前高田市では今月6日から、県内外の自治体から応援に来た保健師らが全市民を対象に聞き取り調査を実施。95年の阪神大震災でも被災地で巡回活動をした豊留さんは「東北の人の気質なのか、我慢しているように感じる。悩みをため込むと、うつ症状につながる恐れもあり、阪神大震災の経験談も交えて話しかけ、打ち明けてもらえるよう努めている」と話した。
同市では、津波で約3300棟の住宅が倒壊。死者・行方不明者数は県内最多の約2200人で、人口約2万3000人の1割近くに上る。市の保健師も9人中6人が死亡。市民の健康診断の結果や介護・福祉サービスの受給状況などを記録した書類も流失した。避難者は約1万5000人に上り、避難所から親類宅などに移る人も少なくない。
聞き取り調査は地区ごとに担当チームを決めて避難所や住宅を巡回。市民の所在や健康状態などを把握し、医療や福祉につなげる。各地の自治体から派遣された保健師ら30~40人が担当し、調査を統括する県大船渡保健所の花崎洋子・上席保健師は「住民の健康チェックは本来市の仕事だが、市役所が流されて職員も被災し、とてもできる状態ではない。調査結果は今後の保健医療の重要な基礎データになる」と話す。大船渡市や大槌町なども同様の取り組みを進めている。
◇数日~1週間程度で交代
各地から交代で派遣される保健師でしのぐ現状には課題もある。厚生労働省によると、岩手、宮城、福島の3県には24日現在、保健師ら保健医療の担当者が全国から134チーム計441人派遣されているが、地元での通常業務もあり、数日~1週間程度で交代するケースが多いためだ。
陸前高田市内の避難所で父(84)を介護する金野英子さん(54)は巡回に訪れた保健師に、「来てくれるのはありがたいが、状況をしっかり把握してもらうためには同じ人に長期的に来てほしい」と要望した。花崎さんも「同じ人が継続的に見ないと、被災者の状態の変化を見落とす恐れもある。国などが主導し、保健師を年単位で派遣してもらえるような支援体制を整備してほしい」と訴える。
厚労省は13日、保健師の派遣の継続と増員を全国の自治体に要請した。だが、「地方公務員の派遣は本来、自治体同士で交渉するもの。今は災害救助法に基づき緊急的に国が代行しているが、長期的に派遣を要請するのは難しい」(同省健康局総務課保健指導室)という。
被災地の避難所などを視察した前田潤・室蘭工業大環境科学・防災研究センター准教授は「震災発生から6週間が過ぎ、避難者は心身ともに疲弊して栄養状態も良くない。中長期的な課題である心のケアでは、被災者と継続的にかかわって信頼関係を築き、微妙な変化を察知することが重要だ。県が被災市町村に代わって保健師を雇用し、長期派遣する体制をつくった方がいい」と指摘する。
◇ことば 保健師
保健所や市町村の保健センターに所属する看護職で、住民の健康相談や健康診断を受け持ち、医療・福祉の支援につなげる。地域社会に関する知識も必要で、資格を得るには看護師の国家試験を含む2度の国家試験への合格が必要。厚生労働省によると10年5月現在、常勤の保健師数は3万1769人。
毎日新聞 2011年4月25日 21時26分(最終更新 4月25日 23時18分)
http://mainichi.jp/life/today/news/20110426k0000m040099000c.html