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チェルノブイリ極秘―隠された事故報告

アラ ヤロシンスカヤ Алла Ярошинская (原著),
和田 あき子 (翻訳)
平凡社1994年

 P&M_Blogより
 http://piaa0117.blog6.fc2.com/blog-entry-417.html

 1986年に起こった、チェルノブイリ原発事故について、もっと知りたいとかねがね思っていたので図書館から借りてきた。この本は事故そのものについて書いたものではなく、事故後にソビエト連邦が何をしたかについて書いたものである。
 事故は1986年4月26日未明、チェルノブイリ原発の4号炉で原子炉の停止後の余熱での運転の実験中に爆発が起きた。これは人為的な運転ミスと炉内の反応を下げるために制御棒を入れた時に一瞬反応が大きくなる炉の基本構造の問題が重なって起こった事故であった。この事故で推定10t前後のヨウ素131、ルテニウム103、セシウム137などの放射性物質が大気中に放出された。周辺の土地は汚染され、上空数kmの高さまで放出された放射性物質は遠い日本でも観測された。
 火災を起こした原発は数日間燃え続け、鎮火した後放射線物質の更なる飛散を食い止めるため延べ数十万人の作業員を動員して「石棺」と呼ばれるブロックを積み上げて建物を封じた。当然このときの作業員も大量被曝した。

 このルポルタージュでは事故の後、汚染された土地に住む人々をソビエト連邦がどう扱ったかが書かれている。公式な発表では事故を起こした原発から半径30km以内に住む住民は全員移住し、被曝による被害は軽微であるとされている。

 ところが実際には30km以遠の場所でも場合によっては原発直近と同じくらい汚染された地域があるし、場合によっては移住先のほうが元の住まいよりもはるかに汚染がひどいところもある。政府はその集落の周辺の汚染が相当深刻である事を知っていながら、すでに予算の下りていた公共施設の建設を優先したのだ。さらにかなりの数の住民が深刻な被曝を受けている事がわかって、被曝の危険基準(何年で何レム被曝すると危険という基準)を勝手に引き下げて被曝の被害者の統計上の数を減らしたりしているのだ。ここで政府の提示したのは70年35レムという基準で、要するに70年間の人生で35レムの被曝までは安全、という基準なのだ。

 しかし、と筆者は言う。大人の私が10年かけて10レム被爆するのと、赤ん坊が1日で10レム被爆するのが同じだと言うのか。
 政府は基準に達しない住民は放射能恐怖症にかかっているだけというが、では事故以来いなくなってしまった森の小鳥達も、すっかり元気がなくなって動くのさえ億劫そうな飼い猫も放射能恐怖症だというのか。

 それにしてもここで描かれる被災地の状況や、政府の高官たちのシュールなまでの官僚主義ぶりはこの事故の起こるよりもずっと前に書かれたストルガツキーの小説…前者は「路傍のピクニック(ストーカー)」で、後者は「トロイカ物語」で…描かれたものと酷似していて、興味深いというよりも恐ろしくなってしまう。いや小説の方がまだ救いがある。ここでは住民達が、子供達が苦しんでいるのを尻目に、高官たちが被害を隠蔽するため、また住民=被害者を移住させたり生活を保障する費用を惜しんだため(?)に被曝の基準を変えたりするばかりか、そこで発生する利権から利益を上げようとする(と筆者ははっきりと書いてはいないが)あたりは全く正気の沙汰ではない。怒りを覚える。「トロイカ物語」の三人委員会の方がまだ真面目だったと思えるほどである。

 また、私は全く知らなかったし、多分ほとんどの方は知らないと思うのだが、この本ではウラル地方のチェチャ川で1950年代に起きた放射線物質の垂れ流し事件、1957年の爆発事故についても触れている。これによって550万キュリーの放射能を27000平方kmの土地にばらまき汚染し、軽く見積もっても30万人が被曝していたのだ。こんな恐ろしい事がグラスノスチまで当事者と一部のソビエト高官以外だれも知らなかったなんて!

 そしてチェルノブイリ原発が、事故後も2000年まで、事故を起こした以外の炉を使って操業していたというのだから唖然としてしまう。立ち入り禁止区域のはずなのに。
 ウクライナではチェルノブイリ原発ツアーというのもあるそうで、人類の負の遺産として見るべきものはあるのだろう。だが、参加した日本人女性が石棺で覆われた4号炉を背景にしてピースサインをした恥ずべき写真をネットで見てすごく情けない気分になった。

 筆者はジャーナリストで、子供を持つ母でもあった。事故の時チェルノブイリの南西にあるジトーミルという街に住んでいた。自分の子供達の被曝被害について知りたい一心から取材を重ね、政府のメチャクチャぶりを糾弾し続け、89年にはソ連邦議員になって被害者救済のために活動したという女傑である。
 この本自体1994年に出ているのでソ連崩壊後の情報も知りたいと思う。最近では「石棺」の老朽化が問題になっているとは聞いているが…


『マスコミに載らない海外記事』より
  http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/oj--d754.html

これも、女性ジャーナリストによる傑作。事故そのものではなく、事故の庶民生活に対する余波、無責任な政治家、学者の様子が余すところなく描かれている。

今の放射性物質放出、汚染報道、疎開問題を考える上で、これほど参考になる書物は少ないだろう。ところが、これも不思議なことに入手困難。平凡社には、緊急大増刷をお願いしたいものだ。避難されている当事者の皆様にも、是非お読み頂きたいものだ。

•システム上の欠陥ではなく、人間による操作ミスに、強引にもってゆく政府
•なんと、汚染地域に疎開させてしまう無責任さ
•子供たちが、ヨウ素を摂取してしまうのを、放置する政府
•食物や環境に関する放射性物質の基準を、どんどん都合よく緩和してゆく政府
今の日本そのまま。目次は以下の通り。

第1部わが内なるチェルノブイリ
1 世界ではじめての体験 17
2 ルードゥニャ=オソシニヤ村-偽りのゾーン 29
3 廃墟のそばで 39
4 ジトーミルでの政治戦 65
5 議会での虚しい叫び声 77
6 体制の秘密主義-情報はいかに統制されたか 89
7 罰なき罪 107
8 イズラエリは告白する 127
9 「子どもたちの健康は心配ない」 141
10 真理の瞬間 177
11「地球規模の大惨事(カタストロフ)である」 201
12 IAEAはそれでいいのか? 229
13 チェチャ川は流れる─ウラル核惨事の警告 259
14 溺れる者を救うのは、溺れる者自身の手である 273
15 汚染地域再訪 301
16「子どもたちが死にかかっています、助けて下さい!」 333

第2部 極秘
1 クレムリンの賢人たちの四〇の機密議事録 367
 ─「秘密の対策本部」は何を決めたのか
  ウソ1─放射能汚染について
  ウソ2─汚染された農地の「きれいな」農産物について 
  ウソ3─新聞向け報道について
2 この世の生活は原子炉とともにあるのか 381
 ─共産党政治局の白熱の議論
   一味の利益
  「炉の安全性は組織面や技術面の対策によってではなく、
   物理法則によって保証されなければならない」
  「あなたはどの原子炉を選ぶのか」
解説(今中哲二) 404
機密議事録解題/年表 413
訳者あとがき 416

佐藤栄佐久元福島県知事が、外国特派員協会での会見で、いっておられる。

「日本の原発事故、チェルノブイリ事故を起こしたロシアのような、ファシスト的構造がひきおこした。」というようなご意見だ。ごもっとも。ご本は英語版が必要だろう。

(個人的には「ソ連の衛星国政権のようなファシスト的構造」か、「アメリカというファシスト宗主国の属国ファシスト支配構造」の方がより適切と思うが、些細な違い。)

つまりは、ハワード・ジンが講演で語っている通り「ひとつだけ覚えておくように、国家は嘘をつくものなのです。」

アラ・ヤロシンスカヤ チェルノブイリ・極秘 感想

DOL特別レポート・ダイヤモンド・オンライン 2011/4/20記事は、チェルノブイリ事故処理班の生存者が語る凄惨な過去と放射能汚染への正しい危機感
「政府発表を鵜呑みにせず自分の身は自分で守れ」

この二つの本をまとめて絵に描いたような、下記のビデオがある。

  Chernobyl:A Million Casualties