琉球新報 4月23日(土)10時0分配信
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110423-00000000-ryu-oki

「曖昧にされてきた沖縄戦の真実が認められた」と語る大江健三郎さん=22日、東京・霞が関の司法記者クラブ

 沖縄戦で旧日本軍が「集団自決」(強制集団死)を命じたとする作家大江健三郎さんの著書「沖縄ノート」などの記述をめぐって、座間味島元戦隊長の梅澤裕氏や渡嘉敷島戦隊長の故赤松嘉次氏の弟、秀一氏が名誉を傷つけられたとして、大江さんや版元の岩波書店を相手に出版差し止めなどを求めた上告審で、最高裁判所第一小法廷(白木勇裁判長)は22日、一審・二審に続き、上告を棄却した。これにより軍関与を認めた一、二審判決が確定した。同小法廷は、原告の申し立てを「上告理由にあたらない」とした。21日付。
 棄却を受けて大江氏は「自分たちの主張が正しいと認められた。訴訟で強制された集団死を多くの人が新たに証言し、勝利を得る結果になった」と述べた。
 同裁判では、2008年3月の一審・大阪地裁判決で、両隊長による自決命令は推認できるが、「断定できない」と判断。大江氏が隊長による集団自決命令を事実と信じるには相当な理由があったとして名誉棄損を退けた。
 同年10月の二審・大阪高裁判決は一審判決を支持した上で、「総体として日本軍の強制ないし命令と評価する見識もあり得る」とした。さらに、「表現の自由」に考慮し、公益目的で真実性のある書籍が新たな資料により真実性が揺らいだ場合、記述を改編せずに出版を継続しただけでは不法行為とはいえないとした。
 裁判原告の「隊長の自決命令は聞いてない」などとする陳述書が契機となり、06年度の教科書検定意見によって、高校日本史教科書の「集団自決」における軍強制の記述が削除された。記述削除に対し、「沖縄戦の実相をゆがめるもの」という反発が県内で起こり、07年9月に県民大会が開かれるなど、沖縄戦体験の正しい継承を求める世論が高まった。


「県民の思い受け止めた」/大城県教育長
 最高裁の上告棄却を受け、大城浩県教育長は「教科書検定問題については2007年の県民大会の結果、広い意味での『日本軍の関与』の記述が回復され、高校生がこれまで同様に学習できると考える。最高裁の判決は、県民の思いを受け止めた判決」とコメントを発表した。

沖縄でも大きな力に/大江健三郎氏の話
 自分たちの主張は高裁で正しいとされ、最高裁では憲法上の問題はないと認められた。沖縄戦の真実が曖昧になり、教科書からも取り除かれたが、沖縄からの反論で、沖縄戦(についての記述)が少しずつ真実に近づいている。強制された集団死を多くの人が新しく証言し、勝利を得る結果になった。(最高裁の判断は)力強い励ましだ。沖縄でも大きな力になる。

裁判の意義はあった/原告代理人・徳永信一弁護士の話
 名誉棄損が認められなかったのは残念。しかし、隊長の自決命令について高裁判決は「関与」とし、一審より控えめな事実認定。この問題は、集団自決に梅澤さんらの隊長命令がなかったという認識が重要だった。裁判を通して自決命令の根拠がないとの認識が国民に定着したので、意義はあったと総括している。


 守った沖縄戦の真実 岩波・大江勝訴  琉球新報 4月23日(土)10時50分配信
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110423-00000011-ryu-oki

最高裁の棄却で勝訴が確定した大江健三郎氏らの会見=22日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ

 【東京】「沖縄戦の真実が認められた」―。「沖縄ノート」をめぐる名誉毀損(きそん)訴訟で、住民の「集団自決」(強制集団死)の日本軍関与を認めた判決が確定したことを受け、著者の大江健三郎さん(76)らが22日午後、版元の岩波書店の関係者と共に東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した。「真実がずっとあいまいなまま、米軍基地があり続けたのが戦後一番の問題。最高裁で主張が認められ、力強い励みになった」。大江さんは言葉をかみしめるように話した。
 東日本大震災に心を痛め、勝訴確定にも笑顔はなかった。「最近『日本は一つ』という言葉をよく目にする。だが本土の人と沖縄の人の心は一つではない」と目を伏せる。「基地を望まない沖縄に、本土の人間がどうするか。米軍基地問題はこの1、2年で最大の転換点を迎える。本当に日本が一つか否かが示されるだろう」
 「沖縄ノート」は大江さんが人生で最も大切とする著作の一つ。「一生を懸けた本が認められた」と安堵(あんど)の表情も浮かべる。さらに、「もっと強い内容にし、新たな章を加えることができれば」と改訂を示唆した。
 今回の訴訟も含め、「集団自決」における強制・関与を否定する主張があることに対し、「島民が軍隊の関与によって一緒に死んでいったのは事実だ」と断言。「文部科学省は『係争中だから載せない』と言っていたが、今はもう係争中ではない」と述べ、軍命による集団自決が教科書に記載されることを期待した。
 被告側の弁護士、秋山幹男さんは「訴訟があったおかげで生存者の証言をまた集めることができた」と振り返り「沖縄の人々に与えた苦痛をなかったことにしようという訴訟で、真実を守り切ることができた」と評価した。