戦前の出版検閲を語る資料展「浮かび上がる検閲の実態」 が開かれている(3月26日まで)。非常に興味深い展示だ。
詳しくはリンク先を見てもらいたいが、関連展示であるミニ展示「発禁本の境界」がまた大変貴重である。『蟹工船』の発売即発禁になった初版は復刻もされてよく目にする機会があるが、ここには「初版が三種類ある』とよくいわれるうちの『改訂版』(29年11月)『改訂普及版』(30年3月)の伏字の状態を見較べることができる展示がなされている。
このショーケースには、初版の注文を受けながら、それが発禁になったため改定版を頒布せざるをえなくなった出版元(戦旗社?)からのお詫びと協力要請のチラシ(ガリ版)も展示されている。以下その全文である。
読者諸君!!
★蟹工船(初版)は発行即日売切発禁となり、諸君が申込まれた時すでに本社には一本も無かった。今日漸く改訂版から余儀なく削除せざるをえない事実を報告する。初版蟹工船と同質のものは再び入手し難いものとなった。現下検閲制度沿下に於ては「我々の恨みに燃ゆる三月十五日」そのものが発売頒布を禁止されてゐるのである。後日諸君の前に我々は再び「一九二八・三・一五」を提供する機会を持つ事を附言する。しかし兎も角我々は「蟹工船」の再版を急いだ。★新装新に発行された改訂版を以て読者諸君の了解を我々は得たいと思ふのである。
★改訂版は定価五〇戔・送料四戔計五四戔…ついては七六銭払込まれた諸君はこの差額二二戔の処分について御面倒だらうが通信していたゞきたい。
★返金希望の方には切手代用を以て返金します。
戦旗、振り替ることを希望されるならば不足だけの追加を送っていたヾきたい。
(定価一部毎号二七戔(送料共)半年二円(送料共、特別号の代価は割引)
★今度「少年戦旗」が十一月号を以て独立創刊した。十月号創刊号を発行する予定であったが、製本屋を発見され製本中の全部数五〇〇〇部を押収強奪された。「少年戦旗」は独立する、しかし労働者農民の少年少女の階級的目覚めを怖れてゐる支配階級は我我の手から毎号「少年戦旗」を奪ふこんたんでゐる。即ち毎号「少年戦旗」は必ず発禁になるだらう。そのため我々は「少年戦旗」は一般大取次店による書店販売を廃し、直接配布網によつてのみ発売頒布する。前金を以て直接申込め!定価二二戔(送料共)半年一二〇戔・前記の差額を以て犠牲的事業である「少年戦旗」の発行に協力するため申込め!
★特に第二無産者新聞防衛基金に寄附せよ!
もちろん携帯電話の写メで盗撮してきたわけではない。ショーケースの上にへばりついて、手書きで写してきたものである。「初版蟹工船と同質のものは再び入手し難いものとなった。現下検閲制度沿下に於ては「我々の恨みに燃ゆる三月十五日」そのものが発売頒布を禁止されてゐるのである。後日諸君の前に我々は再び「一九二八・三・一五」を提供する機会を持つ事を附言する」と述べた記者の決意は現実のものとなったのだった。
「個人蔵」とあったが、どのような方が所有しておられるのだろうか。
Prof. Shima's Life and Opinion Shima教授の生活と意見。
http://blog.livedoor.jp/insectshima/