◆ 図書館に未来はあるか

   非正規化がもたらす2つの問題点

東京の図書館をもっとよくする会 小形 亮

 ◆ 非正規化が著しい都内の図書館

 東京23区の区立図書館は、全国でも著しく指定管理者や業務委託の民営化が進んでいる。当会の調査では昨年4月現在、指定管理者が71館、業務委託が96館、合わせて22区で167館で、全221館の75%に及んでいる。
 千代田区は全ての館が指定管理者になり、大田区、板橋区、港区では、中央館が業務委託、地区館は全て指定管理者で、杉並区、新宿区、文京区、足立区も同様の形態に向け進行中である。全く民営化されていないのは荒川区のみでしかない。
 一方、多摩地区では対照的に民営化が進んでおらず、府中市と稲城市のPFIのみであったが、2010年4月より立川市の分館2館が指定管理者となり、11年度に向け多摩市、昭島市でも業務委託の導入が計画されている。
 しかし、非正規職員化が進むのは民営化が全てではない。正規職員の削減の代わりに、非常勤、嘱託といった直接雇用の非正規職員を増加させていることも、もう一つの大きな要因となっている。


 かつて民営化が始まる直前の2000年頃には、23区中20区において図書館に非常勤制度が導入されていた。その後、委託民営化の進展により減ったものの、今でも13区ほどにおいて存続している。
 荒川区は民営化をしない代わりに、地区館が館長以外は全て非常勤職員で運営を行っているし、豊島区の地区館は正規職員がおらず、非常勤職員と委託によって運営されている。

 このように単にカウンターにおける貸出返却や図書を棚に並べる配架といった作業ばかりでなく、図書館運営の中心的な部分まで非常勤職員が担っていく状態が生まれつつある。
 そのため荒川区、豊島区、練馬区などでは、非常勤の中を階層化し、主任非常勤制度を設ける動きも出てきている。
 多摩地区では、民営化が進まない代わりに非常勤化が主流となっている。
 このようにして都内の図書館における非正規職員の比率は、23区で7割、多摩地区で5割を超えている(東京都公立図書館調査2010)。
 昨年度の自治労調査によると、公務労働に従事する職員の非正規率が約4割であるから、それをはるかに上回る率で、非正規化が進んでいることになる。
 都内の公共図書館で、カウンターで利用者を迎えているのは、ほとんど非正規職員であるといって間違いはない。

 ◆ スペシャリストだからできること

 公共図書館の仕事は、図書の貸出や配架ばかりではない。利用者向けのものだけでも、読書案内や調べ物に対するレファレンスサービス(相談業務)、貸出の4分の1を占めるほどに成長した予約サービス(特に未所蔵の資料は、他の自治体図書館からの相互貸借による)もある。
 図書を選定するためには自分の図書館の所蔵する何万冊もの図書を把握するばかりでなく、どのような図書が出版されているのか、そしてどのような図書が市民に求められているのかを常に敏感にキャッチしていなくてはならない。
 しかもベストセラーや文芸書ばかりでなく、政治、経済、教育、科学、技術など幅広い範囲にまたがる上に、図書ばかりでなく、CDや雑誌などにも及ぶのである。
 さらに児童に対する読み聞かせや行事、学校への団体貸出やブックトーク、視覚障害者に対する対面朗読や音訳テープの製作貸出、近年流行の課題解決型図書館としてのビジネスや地域情報の提供など、いずれも図書館全体ではなく、それぞれの分野のスペシャリストが必要なほど、多様なことが行われている。
 このような業務に従事する職員は一朝一夕に出来上がるものではなく、市民利用者と図書の間にもまれる*何年もの経験と、不断の学習が必要とされる。

 ◆ 低賃金職員へのしわ寄せ

 しかし、現状をみるとどうであろうか。委託、指定管理者など図書館の場合、時給850円~千円程度で雇われる多数の一般スタッフと、数名の月給18~22万円程度のチーフスタッフによって職員は構成される(指定管理者の場合、この上に数名の館長や副館長の責任者クラスが配置される)。いずれの場合も1年以内の契約である。
 この賃金では、一般スタッフは1人で自活することは無理、チーフスタッフでもぎりぎりというところであろう。しかも正規社員と違って定期的に昇給していく仕組みもない。従ってここに働くのは、家計を主として担わない主婦層と若い年齢の女性が多い。定着率は低く、1年で3分の1、3年でほとんど入れ替わるという例もある。近年は民営化の拡大で、受託する会社では人材の供給が追いつかず、育ったチーフクラスは次々に新しい委託館に回されることも、*人の移動の激しさの一因になっている。
 人の動きの激しさは、しばしばサービスの不安定さを生む。今まで奇麗にそろえられていた書架が急に乱雑になったり、昨日まで答えられていたレファレンスに、今日は答えられなくなったりすることもある。
 受託する企業としても、業務委託は1年契約、指定管理者でも3~5年の協定期間である以上、そこで働くスタッフを皆正規職員とするわけにはいかないし、入札はもちろん、プロポーザルの場合でも価格は選定の重要な決定要因であるから、賃金を上げるわけにはいかない。
 近年、企業は研修に力を入れているものの、低賃金で働く者に、より高度の業務を担わせる結果にしかならない。
 一方、直接雇用の非常勤職員の状況も似たようなものである。賃金は同じく月給18~22万円程度(ただし、非常勤であるから週30時間とか、月16日などでフルタイムではない)。やはり1年契約であるから昇給はない。一部を除いて多くの場合雇用止めがあるから、3~5年しか勤めることが出来ない。
 運よく雇用止めがない場合も、何年働いても賃金は上がらず、十数年同じ給料ということもある。経験と知識が増えていけば、当然賃金や雇用条件に反映すべきであろうに、そのような仕組みがないばかりか、近年の職務の基幹化は非常勤職員へのしわ寄せをますます大きくしている。

 この状態を反映して、図書館非常勤職員の労働組合の結成が荒川区、練馬区、町田市など多くの自治体で進み、様々な職種の非常勤職員の中でも突出した存在となっている。
 このような中で、図書館で働くことを希望し続ける者は、非常勤から委託スタッフへと、次々と図書館を渡り歩くことすら、余儀なくされているのである。
 公共図書館は、知識や情報を全ての人々に無償かつ平等に伝え、市民の学習権を保障する機関である。かつ青少年や社会人ばかりでなく、高齢者にも多く利用され、高齢化社会においても大きく必要とされている施設でもある。
 その図書館を無駄なく最大限のサービスを行えるよう運営していくためには、やはり経験と知識の蓄積がある職員の存在が必要である。しかし現実の図書館においては、生活することの出来ない賃金と細切れの不安定雇用の状態に大半の職員が置かれている。このままでは経験ある職員は育たず、図書館サービスの維持と発展も困難になっていくことが懸念されるのである。

(練馬区立大泉図書館勤務)

 『都政新報』(2011/1/28)

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