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 原告ら代理人 弁護士 雪竹奈緒


「報告集会」 《撮影:平田 泉》

1 私からは,10・23通達とその後の都教委の指導の異常な実態について,陳述いたします。
 ここ数年で出された,10・23通達関連の多くの下級審判決において,通達は合理性がある,正当性がある,という判断が出ています。その判断の背後には,「国旗国歌の実施は一般的に全国で行われている」「起立斉唱するのは常識だ」という,裁判官諸氏の強固な認識があるように思われます。
 しかし,私達は,一般的に,卒業式等で国旗・国歌を実施するのが当然なのかどうか,一般的に,起立斉唱することが常識なのかどうか,ということを問うているわけではありません。
 私達は,今,この東京都の教育現場で起きている事態,10・23通達と職務命令により,全教職員に処分の脅しをもって個別に起立斉唱義務を課し,従わない者は処分する,生徒にまでも「内心の自由」の説明を許さず,起立斉唱を強制する,という事態について,判断を求めているのです。


 およそ全ての事件は「一般化」できないものであり,裁判官におかれても,日々の事件処理においては,まずその個々の事件の実態について,証拠に基づいて認定し,その事実を前提として判断を行われているはずです。
 本件においても,一般的にとか,常識的に,とかいう抽象論ではなく,まずは,今,東京都で起きている異常な実態に正面から目を向けた上で,そこから法的判断を出発していただきたいと願う次第です。

2 東京の異常な実態として何より特徴的なのは,全ての都立学校において,全ての校長が,全ての教職員に職務命令を出させられたということです。
 都教委は,実施率が100パーセントになった後も,様々な実施上の裸題があったと主張します。しかし,10・23通達と職務命令は,個別に,実施に課題のある学校,問題のある教職員に出されたのではありません。校長が,自分の学校の状況を見て課題があると個別に判断したわけでもありません。

 都教委はまず,通達発出直後の2003年11月に周年行事を実施する学校に大量の教育庁職員を派遣し,職務命令を発出させ,命令に従わなかった職員を処分しました。そしてそのやり方を「サンプル」として,卒業式の際には全都立学校に徹底させたのです。10月23日という通達発出の時期じたい,卒業式の一斉実施の前に,周年行事が集中する11月に「サンプル」を作り出すことを狙って出されたものだったと考えざるを得ません。
 10・23通達発出当日の説明会で,臼井人事部長は「教職員を職務命令に従わせることが大事である」と述べています。そして賀澤指導課長は,2004年1月の校長連絡会で,「職務命令書は,一人一人に手渡すこと。何日かかっても手渡すこと。例えば学校で受け取らなかった教員に,それでは家に行って手渡すと言ったら次の日の朝に学校で受け取ったという例もある。そのぐらいねばり強くやりなさい。」と述べています。
 卒業式に向けて校長が職務命令の文面から渡し方,渡す時期などについてまで詳細な「指導」を都教委から受けていたことは,複数の校長が法廷や人事委員会で証言しています。校長は,職務命令発出を含め,卒業式の実施要綱など,すべて都教委の指示を仰ぎ,指導に従わなければなりませんでした。それもそのはず,10・23通達は校長への職務命令であり,このとおりに実施できなければ,校長自身が服務上の責任を問われてしまうのです。
 とある校長は証言しています。「職務命令を出さないという裁量の余地が校長にあったのであれば,自分は職務命令を出さなかった」と。この校長は,教育現場に職務命令はなじまないと考え,職務命令は出さないという約束を教職員と交わしていました。しかも,命令がなくても教職員との信頼関係により,きちんと卒業式を実施できると考えていた校長でした。しかし,それでも都教委の強力な「指導」により,個別職務命令を出さざるを得なかったのです。
 2004年3月の卒業式に際して,文書による個別職務命令を出さなかった2校の学校では,不起立教員はおらず,10・23通達どおりに卒業式が実施されました。ところが,この2つの学校の校長には,個別職務命令を出さなかったということで強い圧力がかかりました。それ以降,すべての学校において,文書による個別職務命令が出されるようになっています。

3 このように,都教委は「職務命令」を,例外なく,文書で,すべての教職員に出すことに異常なまでにこだわりました。そしてそれは,現在でも徹底されています。起立斉唱,という点では本来関係ないはずの,式場に入らない教職員にまで,文書による職務命令が出され続けています。
 10・23通達は,校長に対する職務命令です。これは争いがありません。都教委の命令で校長を従わせ,校長の命令で教職員を従わせる。そして,教職員は生徒に「起立斉唱」を「指導」し,生徒を一人残らず立たせる。教育現場に「命令」を導入し,都教委の命令が隅々までわたるようにする,命令に従わない者は排除する。そのような体制を作り出すのが,この10・23通達なのです。

4 2003年11月11日の校長連絡会で,近藤指導部長はこのように発言しています。「卒業式や入学式について,まず,形から入り,形に心を入れればよい。形式的であっても,立てば一歩前進である」。
 ここでいう「形」とは『全員が国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること』であることは明らかです。それによって,やがて「心」を入れる,まず「形」を強制することによっていずれは心にまで入り込んでゆくことを,都教委自身が明らかにしているのです。
 校長から生徒に至るまで,都教委,行政権力の命令を徹底させること。それによって,教師や生徒の「心」を支配していくこと。それが都教委の真の目的です。
 今,東京の,日本の民主主義が危機にあります。自分の頭で考え,自分で自由に意見を表明できる場がなければ,民主主義は成り立ちません。司法の良識が,本件の実態を正しく捉え,判断していただけることを希望して私の陳述を終わります。
                            以上

≪パワー・トゥ・ザ・ピープル!!
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