報道については、朝夕刊のデイリーの供述報道はいったん保留にする。そして弁護士への取材も含め、多角的な記事をまとめて書く。またニュースソースをもう少し明示すべきだ。さらに「○○がわかった」報道でなく、「○○という情報があった」という書き方に変える。今日の話を聞いて、新聞社など組織のなかの記者は、埋もれた事実を見つけ出すことしか存在意義がないと、あらためて強く感じた。
青木●新聞記者個人をみると優秀な人が多くいる。また、検察の犯罪への報道に新聞協会賞を出すメンタリティも業界にはある。しかし総体としてみると検察べったりの報道が多い。みなさんにぜひお願いしたいのは、いい記事が出たときは誉めることだ。「このスクープはすばらしい」「これはいい記事だ」とメールやファックスを送り、声を伝える。これが結構効く。その前提として署名記事にすることがある。
杉山●以前は冤罪は裁判所がつくると思っていた。ウソの自白をしても裁判所はわかってくれると思っていたが甘かったからだ。一審判決が出たとき頭は真っ白になり、最高裁で負けたときには「おれの人生は31歳で終わった」と真っ暗になった。しかし再審が始まり証拠が開示されて、「検察が一番悪い、裁判所はだまされていた」ことがわかった。
そこで、再審で証拠開示を実行させることと、取調べの全面可視化が重要だと思う。一部可視化は「あやまっている」ところだけ映すこともできるので、かえって危険だ。
またいい裁判官に当たるのは宝くじのようなものだ。悪い裁判官に当たるとどんな証拠があっても屁理屈で有罪にしてくる。たとえば指紋がないのに、「指紋がないからといって犯人でないとはいえない」などという判決を出した。
中西●極論すると、検察は捜査はしなくてよいと思う。自分を捜査官でありたいと思っている検事は、公判のほうが好きな検事より多い。捜査官仲間の警察から上がってくるものに文句はつけたくないのが普通だ。検事は法律家に戻るのがあるべき姿だ。そこまでいけないなら、せめて取調べの可視化をしないといけない。検事は、客観的な証拠を集め分析するより、被疑者を取り調べ室に引っ張り「認めないと出られないよ。だからサインしろ」というほうが楽で、効率よくいい証拠が手に入ると考えているようだ。あの密室の取調べがある限り、客観的証拠を重視しようというモチベーションは働かない。
裁判所は、これだけ冤罪など間違いが多いのだから、裁判所の独立ということはあるにせよ、一度裁判所の判断をまな板に乗せたほうがよい。
メディアについては、弁護士としては正直なところ「そっとしておいて書かないでほしい」という気持ちがある。刑事弁護士の基本的な姿勢は「守り」で、ディフェンダーだ。相手のほうが圧倒的に人員・予算があり、へたなことを記者にしゃべり記事になると、どんな揚げ足を取られるかわからない。
板橋●特捜検事はたしかに捜査官に近い。そのうえ求刑の段階で量刑まで考え、その点で裁判官も兼ねている。そうしたプライドが結果的におごりになる。本当は公共のものである証拠を、自分たちが押収したのだから処理は自分たちの判断だという意識は変えないといけない。そういう点で、捜査検事と起訴検事の役割を分け、一度証拠物を違う人にチェックさせるのも一案だと思う。村木さんの冤罪はそれで防げたかもしれない。
青木●公訴権を独占する検察が捜査権と逮捕権をもつのは権限が大きすぎる。検察にも警察にも裏金疑惑があった。警察は逮捕まではしなかったのに、検察は三井環さんを逮捕した。わたしは特捜検察はなくすべきだと考える。もし政財界の不正のチェックが必要だというなら、せめて別組織の「不正調査庁」とでもいう組織で捜査し、検察は起訴権だけもつようにすべきだ。
浅野●司会として感想を述べる。司法全体の民主化が大事あり、まず長期勾留で自白を強要する代用監獄を廃止すべきだ。また検事を含む取材担当者との信頼関係を築くという話があったが、当局とジャーナリストはエニミーであるべきだ。仲よくなることで情報を得られるかもしれないが、代償として失うものはあまりにも大きい。
☆2004年3月都立板橋高校の卒業式で藤田勝久さんは保護者たちにビラをまき、刑事告発された。日の丸君が代裁判では異例の刑事裁判を闘っている。藤田さんの場合、逮捕され虚偽自白したわけではないが、この事件でも証拠の改竄が疑われている。都教委の指導主事が現場で録音したICレコーダーの記録が、捜査の過程で一部カットされたという問題である。この事件は、現在最高裁に上告中である。
☆人権と報道・連絡会は、「マスコミ報道による人権侵害を防止する」ことを目的に活動し続けた25年という長い歴史が評価され、今年の多田謡子反権力人権賞を受賞した。今年のパネリスト板橋洋佳さんも昨年の上杉隆さんも、学生時代にこの会に参加していたそうだ。優れたジャーナリストのインキュベーターともいえる会である。わたしはシンポジウムを聞きに行くだけだが、すでに10年近くなる。陰ながら、この会のますますの発展を祈りたい。
『多面体F』より(2010年12月26日 集会報告)
http://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/fa1d78d35f7159a072fe522df4ea8efd
≪パワー・トゥ・ザ・ピープル!!
今、教育が民主主義が危ない!!
東京都の「藤田先生を応援する会有志」による、民主主義を守るためのHP≫