職場の闘いで改善を 子どもと教職員のために
学校教員 大田隆道
石原慎太郎都政下の東京の教育行政は窒息状態に陥っている。「日の丸・君が代」強制だけでなく、上意下達のシステムの中で学校現場で働く教職員は、忙しさとストレスで若年退職が増加している。そんな現場の実態を現職の教員に明らかにしてもらった。
◆ 免許更新制の波紋
教員免許更新制度が実施されて2年目となりました。昨年の政権交代で、制度廃止の方向が示され、中教審では,教員免許制度の抜本的見直しに向けた議論も開始されました。その頃は、職員室内に安堵の空気が流れました。
しかし、今年7月の参議院選挙の結果、廃止については微妙な情勢となってしまいました。そこで、夏休みに慌てて30時間の更新講習を3万円以上払って受講した教員が数多くいました。とくに、今年度末に35歳・45歳・55歳となる第一グループの更新対象者は、来年1月31日までに更新手続きを終えなければ、「失職」となってしまうのです。緊張と不安の空気が、職員室内を覆いました。
◆ 深刻な教師の健康破壊
そもそも、今の学校は協力・協働が薄れ、校長中心のピラミッド型となり、忙しさとストレスが教職員に重くのしかかっています。教育委員会→校長→教職員とトップダウンで教育改革が推し進められ、職員会議がない、みんなで話し合う場がないという学校も増えています。
教育改革に関する仕事は、そのほとんどが今までの経験を生かせないため、ベテランの教職員といえども多忙化・長時間労働となっています。とくに、パソコン等の情報機器を使った仕事が増え続け、大きなストレスを与えています。健康破壊は深刻で、各地で現職死亡、定年前・若年退職、病気休職者が増加しています。東京では、50代の女性教員の約7割が定年前に退職しています。
管理職によるパワハラも大きな問題となっています。人前で怒鴫ったり、「私の経営方針に賛同できない者は、異動してくれ!」と、職員会議などであけすけに言う校長が増えています。
その一方で、メンタルヘルスについての相談体制の充実など、労働安全衛生の取組みも少しずつ進んできましたが、まだまだ長時間過密労働の解消をはじめとする根本的な解決にはつながっていません。
◆ 忙しさとストレス
「PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の学力テスト結果による日本の順位低下は、ゆとり教育に原因がある。低下した学力を向上させるためには授業時間や教える内容を増やせばよい」という安易な考えのもと、小学校で来年度から使う教科書が大きく厚くなります。すでに学習の量はどんどん増え、子どもたちが学校にいる時間もどんどん長くなっています。
昔は午前8時30分頃から午後3時頃まで学校にいましたが、今は午前8時頃から午後4時頃まで学校にいます。
勉強の量や時間が増え、逆に休み時間は短くなり、子どもたちにもストレスがたまっています。また、勉強する時間が増えるということは教える時間も増えるわけで、それは教員の労働強化になっています。さらに、勤務時間内に会議をしたり、授業の準備をするのは、不可能に近いわけで、夜遅くまで仕事をしたり、休日出勤せざるを得ず、月曜日から疲れている実態があります。
◆ 査定昇給制で競争へ
このような窒息寸前の学校現場には、グチや不満が渦巻いています。しかし、それらを押さえつける役割を果たしているのが、業績評価制度です。
東京では全国に先がけて2000年度に業績評価制度が導入され、04年度からC評価以下を昇給延伸とする形で賃金反映が始まりました。
06年度から、号級表を4分割して業績評価に応じた査定昇給制度となり、主任教諭導入に伴い09年度から主任、主幹と昇格しなければ賃金が頭打ちとなる職階制賃金となっています。
業績評価は、生活の糧としての賃金に結びつくことで、「生活のためには」という形で労働者同士を競争させ、支配するものとなっています。
今年5月、都内の教員が業績評価でのC評価に納得できずに訴えていた裁判で、画期的な勝利判決を勝ちとりました。東京地裁判決は、業績評価制度自体が違法との主張は退けたものの、C評価を「事実に基づかない、または誤認した事実に甚つくもの」と断定し、「公正評価義務」違反の違法を認め、人事委員会の棄却判定も取り消す画期的な内容でした。
全国の教職員を励まし、勇気づけるものとなったこの勝利判決を武器にして、職場の闘いを推し進めたいものです。(おおた・たかみち)
『週刊新社会』(2010/11/23)
≪パワー・トゥ・ザ・ピープル!!
今、教育が民主主義が危ない!!
東京都の「藤田先生を応援する会有志」による、民主主義を守るためのHP≫
学校教員 大田隆道
石原慎太郎都政下の東京の教育行政は窒息状態に陥っている。「日の丸・君が代」強制だけでなく、上意下達のシステムの中で学校現場で働く教職員は、忙しさとストレスで若年退職が増加している。そんな現場の実態を現職の教員に明らかにしてもらった。
◆ 免許更新制の波紋
教員免許更新制度が実施されて2年目となりました。昨年の政権交代で、制度廃止の方向が示され、中教審では,教員免許制度の抜本的見直しに向けた議論も開始されました。その頃は、職員室内に安堵の空気が流れました。
しかし、今年7月の参議院選挙の結果、廃止については微妙な情勢となってしまいました。そこで、夏休みに慌てて30時間の更新講習を3万円以上払って受講した教員が数多くいました。とくに、今年度末に35歳・45歳・55歳となる第一グループの更新対象者は、来年1月31日までに更新手続きを終えなければ、「失職」となってしまうのです。緊張と不安の空気が、職員室内を覆いました。
◆ 深刻な教師の健康破壊
そもそも、今の学校は協力・協働が薄れ、校長中心のピラミッド型となり、忙しさとストレスが教職員に重くのしかかっています。教育委員会→校長→教職員とトップダウンで教育改革が推し進められ、職員会議がない、みんなで話し合う場がないという学校も増えています。
教育改革に関する仕事は、そのほとんどが今までの経験を生かせないため、ベテランの教職員といえども多忙化・長時間労働となっています。とくに、パソコン等の情報機器を使った仕事が増え続け、大きなストレスを与えています。健康破壊は深刻で、各地で現職死亡、定年前・若年退職、病気休職者が増加しています。東京では、50代の女性教員の約7割が定年前に退職しています。
管理職によるパワハラも大きな問題となっています。人前で怒鴫ったり、「私の経営方針に賛同できない者は、異動してくれ!」と、職員会議などであけすけに言う校長が増えています。
その一方で、メンタルヘルスについての相談体制の充実など、労働安全衛生の取組みも少しずつ進んできましたが、まだまだ長時間過密労働の解消をはじめとする根本的な解決にはつながっていません。
◆ 忙しさとストレス
「PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の学力テスト結果による日本の順位低下は、ゆとり教育に原因がある。低下した学力を向上させるためには授業時間や教える内容を増やせばよい」という安易な考えのもと、小学校で来年度から使う教科書が大きく厚くなります。すでに学習の量はどんどん増え、子どもたちが学校にいる時間もどんどん長くなっています。
昔は午前8時30分頃から午後3時頃まで学校にいましたが、今は午前8時頃から午後4時頃まで学校にいます。
勉強の量や時間が増え、逆に休み時間は短くなり、子どもたちにもストレスがたまっています。また、勉強する時間が増えるということは教える時間も増えるわけで、それは教員の労働強化になっています。さらに、勤務時間内に会議をしたり、授業の準備をするのは、不可能に近いわけで、夜遅くまで仕事をしたり、休日出勤せざるを得ず、月曜日から疲れている実態があります。
◆ 査定昇給制で競争へ
このような窒息寸前の学校現場には、グチや不満が渦巻いています。しかし、それらを押さえつける役割を果たしているのが、業績評価制度です。
東京では全国に先がけて2000年度に業績評価制度が導入され、04年度からC評価以下を昇給延伸とする形で賃金反映が始まりました。
06年度から、号級表を4分割して業績評価に応じた査定昇給制度となり、主任教諭導入に伴い09年度から主任、主幹と昇格しなければ賃金が頭打ちとなる職階制賃金となっています。
業績評価は、生活の糧としての賃金に結びつくことで、「生活のためには」という形で労働者同士を競争させ、支配するものとなっています。
今年5月、都内の教員が業績評価でのC評価に納得できずに訴えていた裁判で、画期的な勝利判決を勝ちとりました。東京地裁判決は、業績評価制度自体が違法との主張は退けたものの、C評価を「事実に基づかない、または誤認した事実に甚つくもの」と断定し、「公正評価義務」違反の違法を認め、人事委員会の棄却判定も取り消す画期的な内容でした。
全国の教職員を励まし、勇気づけるものとなったこの勝利判決を武器にして、職場の闘いを推し進めたいものです。(おおた・たかみち)
『週刊新社会』(2010/11/23)
≪パワー・トゥ・ザ・ピープル!!
今、教育が民主主義が危ない!!
東京都の「藤田先生を応援する会有志」による、民主主義を守るためのHP≫