▼ 都教育委員全員への請願コピー配布「全てか、選別か」、文教委答弁で齟齬(そご)

永野厚男・教育ライター

 東京都教育委員会宛請願の取り扱いを巡り、市民と都教委事務局の間で論争が起きている。

 旧都教育委員会請願処理規則のもとでは、都教委事務局が受理した請願の全てを「教育委員が審議する教育委員会定例会等(以下、会議)」に提出していた。

 しかし2001年夏の"つくる会"教科書採択前後、多くの批判的な請願や要請が出た(【注1】参照)のを忌み嫌う、都教委役人らの主導で、「会議の実質化・効率化」の名目のもと、請願を「会議に諮る重要事項」か、「都教委事務局主管課だけで処理してしまう」かに選別できるよう、02年6月27日の会議で規則"改正"を決定させ、翌7月には「都教育委員会請願取扱要綱」も定めてしまった。

 昨2009年都教委に出た請願20件中10件は、部課長級等で決裁され、会議に諮られず(報告すらなし)、請願者に「提出された請願はご意見として受けとめさせて頂きます」という無味乾燥な文書が郵送されてきただけ。


 このため3個人・9市民団体が都議会に「都教委請願制度改善の陳情」を提出。2010年9月16日の文教委員会で審議され、島田幸成議員(民主)の質問に、都教委の庄司貞夫総務部長は「今後は教育委員に請願書の写しを全て配布して参ります」「『全て配布』というお話の通り、教育委員に配布して参りたい」と答弁した。

 これを受け島田議員は「民主党は趣旨採択も検討したが、都教委に改善が認められるので今回に限り、この請願を不採択にする」と述べ、賛成は星ひろ子議員(生活者ネット)と畔上三和子議員(共産)の2人に留まり、不採択に。だが、30人超の傍聴者たちは、「一歩前進」と喜んでいた。

 ところが10月27日、"君が代"裁判を闘う元教職員や保護者・市民ら20人の請願行動時、都教委の伊藤彰彦・教育情報課長は、「庄司部長が島田先生に『全て』と答弁したのは『会議に上げる(報告する)請願は全て』という前段がある。言葉足らずだったが、島田先生も納得されている」と発言。元教職員らは「庄司部長答弁は『出た(受理した)請願全て』のはず」と強く抗議した。

 島田議員は10月29日、取材に「都教委事務局は『請願書の原本はこれまでも会議の席上に備え付け、教育委員6名に閲覧はできるようにしていた』と言うが、実際の6名への配布物は請願の"要旨"だけだった。事前の質問調整で、『請願者の肉声が伝わるよう原本のコピーを全て6名に配布せよ』と要求したが、都教委はそれすらも『今後、検討』と言ったので、『それではダメ』とはねつけた。だが、『出た(受理した)請願全ての6名への配布』までは、答弁を取れなかった」と語った。

 一方、畔上議員は「庄司部長の島田議員への答弁は(傍聴した請願者たちの受けとめと同じで)、『出た(受理した)請願全て』と聞き取れた」と述べており(【注2】参照)、11月8日時点で未定稿の段階にある文教委議事録の記述が、今後都教委に都合よく加筆・改竄されないか、監視する必要がある。


【注1】扶桑社教科書採択問題以外にも、都教委は1990年代後半以降、"君が代"強制(それが狙いの、職員会議を補助機関化する学校管理運営規則改悪も)や、人事考課、主幹・主任教諭制度導入等、思想性や政治色の濃い施策を強行。これに対し、現・元教職員や保護者・学生ら市民の要請・請願・抗議・情宣・傍聴等の行動も起こっている。
 ただ、市民が調査した以下のデータから、ここ3年の請願件数はさほど多くないのに、都教委事務局主管課が「要綱」や事案決定規程等の「重要事項(重要なもの)」でないと決め付け、会議に上げ(報告し)ていない数が多い(ここ2年は半数以上会議に報告せず、君が代関係はゼロ)ことが分かる。
        ↓
★2007年に都教委事務局が受理した請願は9件で、内訳は教科書8件、君が代処分1件。
  ▼うち会議に報告したのは6件で、内訳は教科書5件、君が代処分1件。

★2008年に都教委事務局が受理した請願は11件で、内訳は教科書6件、君が代処分2件、個別の人事案件(君が代以外)3件。
  ▼うち会議に報告したのは5件で、内訳はすべて教科書。

★2009年に都教委事務局が受理した請願は20件で、内訳は教科書15件、君が代処分3件、個別の人事案件(君が代以外)2件。
  ▼うち会議に報告したのは10件で、内訳はすべて教科書。

【注2】島田議員の後に質問した畔上議員に対し、庄司部長は「先ほど(島田議員に)は、『(都教委事務局主管課が)判断し(選別後)、教育委員会に報告する請願全てについて、その写しを配布する』とお答えしました」答弁を"修正"してしまった。

≪パワー・トゥ・ザ・ピープル!!
 今、教育が民主主義が危ない!!
 東京都の「藤田先生を応援する会有志」による、民主主義を守るためのHP≫