今、わが国で急速に貧困が拡大し、子どもを取り巻く状況が危機に陥っている。保育料、給食費、高校授業料などの滞納、高校中退を余儀なくされたり大学進学をあきらめたりする子ども、医療を受けられずに心身の健康を悪化させる子ども、虐待や家庭の崩壊などで家族の中で育つ機会を奪われ貧困に直面させられている子どもが増えている。政府も2009年10月、ようやくわが国の17歳以下の子どものうち、7人に1人が貧困状態にあり、特にひとり親家庭の子どもに至っては半数以上が貧困状態にあることを明らかにした。

わが国では、税・社会保障による所得再分配前に比して所得再分配後の子どもの貧困率が上昇するという逆転現象が生じ、本来、貧困を緩和すべき政策が、子どもの貧困を悪化させている。労働分野では規制緩和を背景とした非正規雇用の拡大により不安定・低賃金労働が広がり、社会保障制度は構造改革路線により子どものいる家庭への給付削減・負担増加が進められていったことで、子どもを育むべき家庭が脆弱になっていった。教育分野では、公教育が縮小され教育の私費負担が拡大している。

すべての子どもに不利益が蓄積されないようにするために、貧困の予防、早期支援がなされるべきである。しかるに、本来保障されるべき教育・支援を奪われた子どもが成長後も貧困から脱出できず、親の貧困が子どもの貧困に繋がるという「貧困の連鎖」の構造がつくられている。

このような現状は、子どもの生きる権利、成長し発達する権利、教育を受ける権利、家庭的環境で養育される権利等、日本国憲法及び子どもの権利条約で保障された子どもの権利を侵害するものであって、もはや看過することはできない。

当連合会は、貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもが家庭環境に左右されずに安心して生活を営み成長し発達することができるよう、国及び地方自治体に対し、労働法制・社会保障の抜本的改善と教育を受ける権利の実質的保障を図ることを求め、特に以下の諸方策を実施することを強く求めるものである。

    記

  第1 直ちに実施すべき調査と総合施策の策定

1 子どもの貧困の実態調査を直ちに行い、その調査結果に基づいて、期限を定めた目標設定を行い、速やかに総合的かつ具体的な子どもの貧困対策を策定し実行すること。

2 すべての子どものために、成長段階に応じた早期支援が可能となるように、地域におけるワンストップの拠点支援や学校におけるスクールソーシャルワーカー等の導入など、専門性・実効性の確保された継続的・総合的な支援態勢を確立させること。


 第2 すべての子どもの貧困の予防と不利益の回避の実現

1 すべての子どもが良質な保育を受ける権利を保障し、これを享受できるよう、保育施設を量的に拡充し、かつ、質的に向上させること。

2 公立の義務教育課程及び高校の学費の完全無償化を実現させ、高等教育や私立高校についても経済的負担の軽減に向けた施策を充実させるとともに、すべての子どもがその資質や発達段階に応じた教育を受ける権利を実質的に保障されるよう、教育態勢を充実させること。

3 特に貧困率の高いひとり親家庭について、児童扶養手当の拡充とともに、生活支援及び就労支援・職業訓練、住宅支援などにわたる生活全般の支援を充実させること。

4 家庭で養育されることが困難となった子どもに対する社会的養護の制度の充実を図るとともに、継続的に一人ひとりの子どもが必要とする支援のコーディネーターを配置すること、国選代理人制度の導入や給付型の法律扶助制度の導入など、子どもが公費で弁護士の法的支援を受けられる制度を創設すること。

当連合会は、生活困窮者が急増している現状に対処すべく、これまでの取組みをさらに発展させ、すべての子どもが貧困から回復し、そして貧困に陥らないように、子どもの貧困に取り組む市民及び団体と協力しつつ、今後、研究・提言・相談支援活動を行うとともに、制度の改革を含めた実践をさらに推し進めていく決意である。

 以上のとおり決議する。


   2010年(平成22年)10月8日
         日本弁護士連合会


日弁連hp
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2010_1.html