「分かち合い」の経済学
神野直彦著
岩波新書
人間を幸福にする経済システムの提案
スウェーデン語に「オムソーリ」という言葉があり、もともと「悲しみの分かち合い」という意味だそうです。本書は、「オムソーリ」すなわち「分かち合い」をキーワードにして、経済危機をはじめ、日本がいま直面している危機をどう克服するか、そのヴィジョンを示すものです。
構造改革を推進させてきた日本では、社会保障も大幅に削られ、自己責任の名のもとに、格差や貧困が広がっています。しかも、競争による成長を目指して構造改革を進めてきたはずなのに、経済も大幅に低迷し、他国との競争力も著しく衰退させています。
そうした日本において、他者の「痛み」を社会で引き受け、また一人の「幸せ」を社会の「幸せ」として「分かち合う」、そうした発想がいま必要だと本書は主張します。スウェーデンにおける積極的労働市場政策など、他国の政策、データなどと比較しながら、日本の閉塞状況の要因を探り、「分かち合い」による新しい経済システムを具体的に提案します。
未来がより人間的なものになるために、いま何をすべきか。ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。
■著者紹介
神野直彦(じんの・なおひこ)1946年埼玉県生まれ。1981年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学教授、関西学院大学教授などを経て、現在、東京大学名誉教授、地方財政審議会会長。専攻は財政学。
著書―『人間回復の経済学』(岩波新書)、『財政のしくみがわかる本』(岩波ジュニア新書)、『教育再生の条件―経済学的考察』、『経済危機と学問の危機』(共著)、『脱「格差社会」への戦略』(編)、『希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン 』(編、以上、岩波書店)、『地方再生の経済学』(中公新書)、『財政学』(有斐閣)など。
■目次
はじめに
第1章 なぜ、いま「分かち合い」なのか
格差、貧困の広がる日本/意図された雇用破壊/破壊される人的環境/人間の絆としての「社会資本」/「オムソーリ」と「ラーゴム」/「「分かち合い」の経済」の二つの側面/「コモンズの悲劇」をどうみるか/財政民主主義の原則/市場経済の拡大と無償労働の減少/新自由主義が家族・コミュニティの復権を説く矛盾/
第2章 「危機の時代」が意味すること―歴史の教訓に学ぶ
「分かれ路」としての「危機」/恐慌が起きるメカニズム/産業構造の行き詰まりと大不況/「パクス・ブリタニカ」の終焉/「パクス・アメリカーナ」の形成と「ブレトンウッズ体制」/重化学工業を基盤として/所得税・法人税を基幹税として/再分配と経済成長の「幸福な結婚」/ケインズ的福祉国家へ/1973年の「9.11」/石油ショックの勃発/「パクス・アメリカーナ」の解体へ/新自由主義の拡大/福祉国家から「小さな政府」へ/「無慈悲な企業」の限界/必要なのは知識社会へ向けた技術革新/いま新しい産業構造を形成するとき
第3章 失われる人間らしい暮らし―格差・貧困に苦悩する日本
「小さな政府」でよいのか/「企業は大きく、労働者は小さく」の結末/日本は「大きな政府」だったのか/擬似共同体としての日本企業/家族・共同体が担っていた生活保障機能/「日本型福祉国家」の内実/日本は平等だったのか/現金給付型からサービス提供型の社会保障へ/日本の社会保障をどうみるか/二極化する労働市場―改善されない女性の労働・生活/貧困な教育サービス/格差・貧困を克服できない現状
第4章 「分かち合い」という発想―新しい社会をどう構想するか
新しい社会ヴィジョンを描くために/知識の「分かち合い」/生産と生活の分離/間違った大学改革のゆくえ/競争原理ではなく協力原理/家族内での「分かち合い」/コミュニティでの「分かち合い」/人間の再生産としての社会システム/「国民の家」としての国家/競争と「分かち合い」の適切なバランス/再分配のパラドックス/垂直的分配と水平的分配/いま、「分かち合い」を再編すべきとき
第5章 いま財政の使命を問う
財政の使命とは/創り出された財政収支の赤字/「均衡財政」「小さな政府」というドグマ/否定される二つのドグマ/「小さな政府」で経済成長が実現できるのか/「小さな政府」でも財政支出は抑制できない/「経済的中立性」のドグマ/増税への抵抗感の内実/日本の税制の矛盾
第6章 人間として、人間のために働くこと
労働規制をどうみるか/市場原理主義の神話/市場原理と民主主義の相違/自己の利益と他者の利益/分断される正規従業員と非正規従業員/労働市場の二極化を克服する三つの同権化/同一労働、同一賃金の確立/フレキシキュリティ戦略に学ぶ/スウェーデンにみる積極的労働市場政策/ワークフェア国家への転換/経済成長の進展と格差・貧困の抑制を両立
第7章 新しき「分かち合い」の時代へ―知識社会へ向けて
ポスト工業化への動き/知識社会への転換/大量生産・大量消費からの脱却/知識社会の産業構造/知識社会のエネルギー/人間的能力向上戦略/生命活動の保障戦略/社会資本培養戦略/ネットの張替え/予言の自己成就
あとがき
参考文献
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1004/sin_k525.html
神野直彦著
岩波新書
人間を幸福にする経済システムの提案
スウェーデン語に「オムソーリ」という言葉があり、もともと「悲しみの分かち合い」という意味だそうです。本書は、「オムソーリ」すなわち「分かち合い」をキーワードにして、経済危機をはじめ、日本がいま直面している危機をどう克服するか、そのヴィジョンを示すものです。
構造改革を推進させてきた日本では、社会保障も大幅に削られ、自己責任の名のもとに、格差や貧困が広がっています。しかも、競争による成長を目指して構造改革を進めてきたはずなのに、経済も大幅に低迷し、他国との競争力も著しく衰退させています。
そうした日本において、他者の「痛み」を社会で引き受け、また一人の「幸せ」を社会の「幸せ」として「分かち合う」、そうした発想がいま必要だと本書は主張します。スウェーデンにおける積極的労働市場政策など、他国の政策、データなどと比較しながら、日本の閉塞状況の要因を探り、「分かち合い」による新しい経済システムを具体的に提案します。
未来がより人間的なものになるために、いま何をすべきか。ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。
■著者紹介
神野直彦(じんの・なおひこ)1946年埼玉県生まれ。1981年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学教授、関西学院大学教授などを経て、現在、東京大学名誉教授、地方財政審議会会長。専攻は財政学。
著書―『人間回復の経済学』(岩波新書)、『財政のしくみがわかる本』(岩波ジュニア新書)、『教育再生の条件―経済学的考察』、『経済危機と学問の危機』(共著)、『脱「格差社会」への戦略』(編)、『希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン 』(編、以上、岩波書店)、『地方再生の経済学』(中公新書)、『財政学』(有斐閣)など。
■目次
はじめに
第1章 なぜ、いま「分かち合い」なのか
格差、貧困の広がる日本/意図された雇用破壊/破壊される人的環境/人間の絆としての「社会資本」/「オムソーリ」と「ラーゴム」/「「分かち合い」の経済」の二つの側面/「コモンズの悲劇」をどうみるか/財政民主主義の原則/市場経済の拡大と無償労働の減少/新自由主義が家族・コミュニティの復権を説く矛盾/
第2章 「危機の時代」が意味すること―歴史の教訓に学ぶ
「分かれ路」としての「危機」/恐慌が起きるメカニズム/産業構造の行き詰まりと大不況/「パクス・ブリタニカ」の終焉/「パクス・アメリカーナ」の形成と「ブレトンウッズ体制」/重化学工業を基盤として/所得税・法人税を基幹税として/再分配と経済成長の「幸福な結婚」/ケインズ的福祉国家へ/1973年の「9.11」/石油ショックの勃発/「パクス・アメリカーナ」の解体へ/新自由主義の拡大/福祉国家から「小さな政府」へ/「無慈悲な企業」の限界/必要なのは知識社会へ向けた技術革新/いま新しい産業構造を形成するとき
第3章 失われる人間らしい暮らし―格差・貧困に苦悩する日本
「小さな政府」でよいのか/「企業は大きく、労働者は小さく」の結末/日本は「大きな政府」だったのか/擬似共同体としての日本企業/家族・共同体が担っていた生活保障機能/「日本型福祉国家」の内実/日本は平等だったのか/現金給付型からサービス提供型の社会保障へ/日本の社会保障をどうみるか/二極化する労働市場―改善されない女性の労働・生活/貧困な教育サービス/格差・貧困を克服できない現状
第4章 「分かち合い」という発想―新しい社会をどう構想するか
新しい社会ヴィジョンを描くために/知識の「分かち合い」/生産と生活の分離/間違った大学改革のゆくえ/競争原理ではなく協力原理/家族内での「分かち合い」/コミュニティでの「分かち合い」/人間の再生産としての社会システム/「国民の家」としての国家/競争と「分かち合い」の適切なバランス/再分配のパラドックス/垂直的分配と水平的分配/いま、「分かち合い」を再編すべきとき
第5章 いま財政の使命を問う
財政の使命とは/創り出された財政収支の赤字/「均衡財政」「小さな政府」というドグマ/否定される二つのドグマ/「小さな政府」で経済成長が実現できるのか/「小さな政府」でも財政支出は抑制できない/「経済的中立性」のドグマ/増税への抵抗感の内実/日本の税制の矛盾
第6章 人間として、人間のために働くこと
労働規制をどうみるか/市場原理主義の神話/市場原理と民主主義の相違/自己の利益と他者の利益/分断される正規従業員と非正規従業員/労働市場の二極化を克服する三つの同権化/同一労働、同一賃金の確立/フレキシキュリティ戦略に学ぶ/スウェーデンにみる積極的労働市場政策/ワークフェア国家への転換/経済成長の進展と格差・貧困の抑制を両立
第7章 新しき「分かち合い」の時代へ―知識社会へ向けて
ポスト工業化への動き/知識社会への転換/大量生産・大量消費からの脱却/知識社会の産業構造/知識社会のエネルギー/人間的能力向上戦略/生命活動の保障戦略/社会資本培養戦略/ネットの張替え/予言の自己成就
あとがき
参考文献
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1004/sin_k525.html