雇用環境の悪化を反映し、都労働委員会の調整や審査の取扱件数が増えている。2008年のリーマンショックを経て、09年の労働争議の調整と不当労働行為審査の件数は、パフル崩壊後の件数に匹敵。労使紛争の内容も、派遣の増加などといった就労形態の多様化や企業形態の複雑化に伴い変化してきた。そうした状況に対し、一層、専門的な対応が求められ、都労委事務局では、昨年度までは1人だった特定任期付職員の弁護士を2人に増強するなどして態勢を固めている。
■ バブル崩壊後に匹敵
都労委が09年に新規に扱った労働争議の調整事件は209件、不当労働行為審査事件は119件。
バブル崩壊後に記録した調整事件212件(99年)、審査事件124件(00年)、125件(02年)に匹敵する。調整事件は10年ぷりに200件を超えたことになる。背景にはリーマンショック後の景気の低迷がある。
景気が良けれはトラブルは表面化しにくいが、景気が悪くなると、給料の引き下げや解雇などといった雇用環境の悪化に伴うトラブルが、一定のタイムラグを置いて顕在化してくる。また、特に東京は大企業の本社や労働組合の本部が集中していることから、都労委の扱う件数は、全国の労働委員会の取扱件数の約3割を占めている。
調整事件で増加が目立つのは解雇。07年には12件だったものが、09年には26件と倍増している。
また、団交促進を求める事件数も増加。07年には130件だったものが、09年には258件に増え、ここでも解雇にまつわるものは40件から75件に増えている。
■ 労働者性が問題に
取り扱いの内容も変化してきた。派遣社員や契約社員、フリーターなどが徐々に増え、正規社員が減っているためだ。
総務省の労働力調査(09年)では、雇用労働者全体で5105万人のうち、非正規労働者が1685万人で、全体の33%を占めている。
派遣社員などの場合、企業別組合ではなく、企業を超えて同一職種や地域の労働者でつくる合同労組などに個人加盟するケースが多くみられるようになってきた。
そうした場合、合同労組が派遺社員などの派遣先に団交を求めても、会社側は「派遣会社と雇用契約を結んでいるもので、当社の労働者ではない」などとして、団体交渉に応じないため、調整や審査の対象となる場合がある。
また、例えばバイク便など企業では、配送者が自分の労働条件改善のため、会社側に交渉を持ちかけても、会社側は「雇用関係はなく、個人との請負である」と主張して折り合わないなど、「労働者性」が問題となるケースも増えている。
従来、日本では、企業別労組が主流で、都労委の取り扱う事件でも雇用関係が明確だった。しかし、最近では、こうした雇用・就労形態の多様化で、持ち込まれる事件の内容も複雑さを増している。
一方、企業の側でも、M&Aや持ち株会社化などで経営形態が複雑化。親会社の方針で子会社の従業員が解雇されるなどというように、親会社の「使用者性」が問題になる事案もある。
■ 多様化する業種
さらに、従来ならば、企業別組合などがない小規模な企業でも、企業の壁を超えた合同労組の活動が盛んになったことで、合同労組の方から調整や審査の申請、申し立てが行われるようになった。
IT関係のシステム開発業やキャバクラなどの接待飲食業もそうした業種のひとつだ。
このように、労使をめぐる環境が複雑、多様化するなかで、都労委を支える事務局には、専門家集団としての専門性の維持、向上が求められている。
対策として、昨年4月には全国の労働委員会で初めて特定任期付職員として弁護士1人を採用。今年度も7月にさらに1人を増強した。
そのほか、調整や審査の長期化を防ぐため、都労委は、*労働争議の調整は申請から90日以内、*不当労働行為の審査の期間は1年6ヶ月以内との目標を掲げている。
事件数の増加に伴い、業務量が増えるのは必至だが、処理の短縮に努めている。
『都政新報』(2010/9/3)
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