高度な医療を行う施設として国が承認した全国83の「特定機能病院」のうち44病院は、院内感染対策の専任者が1人しかいないことが、毎日新聞の集計で分かった。厚生労働省の08年調査によると、全病院では約7割に専任者がいない。院内感染が問題となった帝京大病院(東京都板橋区)の専任者は2人で、都は専任者の少なさを指摘したが、全国の多くの病院で院内感染対策の体制が十分とは言い難い状況にあることが明らかになった。【福永方人、佐々木洋】

 特定機能病院が厚労省に提出した業務報告書(09年10月時点)を集計すると、専任者数は群馬大病院と順天堂大付属順天堂医院の6人が最多で▽5人=5病院▽4人=4病院▽3人=5病院▽2人=21病院▽1人=44病院▽不明=2病院。厚労省は特定機能病院の要件として院内感染対策の専任者を1人以上置くことを義務づけているが、複数の専門家は「そもそも1人では少なすぎる」と指摘する。しかも「専任者」なのに、他の業務もこなす医師らも少なくないという。

 また、厚労省の医療施設調査(08年)によると、全国8794病院のうち、院内感染対策の専任者がいるのは2787病院(31.7%)にとどまる。900床以上の大規模病院でも4割に満たない。

 院内感染対策スタッフの仕事は▽対策マニュアルなどの作成や実施状況の監査▽院内感染発生状況の監視▽抗菌薬の使用状況のチェック▽院内の講習会での指導▽感染疑い事例があった場合に感染経路の特定作業や感染拡大防止策を進める--など多岐にわたる。

 日本感染症学会理事の賀来満夫・東北大教授(感染制御学)は「人手不足の病院が多く、帝京大と同様の問題は他の病院でも起こりうる。人員不足の解消策をもっと議論し、院内感染対策の支援や人材育成を早急に進める必要がある」と指摘する。

 そもそも日本は感染症の専門医が少ない。同学会などによると国内の専門医は1019人で、欧米の6分の1~7分の1程度。同学会は適切な院内感染対策のためには専門医3000~4000人が必要と試算している。

 こうした状況について、順天堂大大学院の堀賢准教授(感染制御科学)は「現場で行う院内感染対策自体には診療報酬がつかず、投資をする余裕がない病院が多い。だが、院内感染を減らせば患者の早期退院や手術数増加につながる。結果的に病院の収益は向上すると発想を転換し、体制を強化すべきだ」と訴える。

[毎日新聞]
http://mainichi.jp/select/science/news/20100908k0000m040139000c.html