多剤耐性の細菌アシネトバクターによる院内感染が起きた帝京大医学部付属病院(東京都板橋区)で患者の死亡情報が院内に十分伝わっていなかったことが4日、内部文書や職員の話でわかった。職員向けの注意喚起文書で死亡者に触れておらず「報道で知り驚いた」という職員もいる。厚生労働省や都は「危険性を認識した時点で重大性を伝えるべきだった」と情報共有のまずさを問題視している。

 朝日新聞が入手した文書は「多剤耐性アシネトバクターに関する注意喚起」の題で感染制御部長から病院職員あてに今年5月13日と6月5日の2回、通知された。

 病院や都によると、耐性菌との因果関係が否定できない最初の死亡者が出たのは昨年10月。その後、今年2月までに3人の疑い患者が死亡していることが確認されていた。遅くとも同病院の感染制御部は5月の連休明けには、菌に関連した死亡者が出ていることを把握していた。

 5月の文書は「現在当院にも多剤耐性アシネトバクターを保有する患者が入院しています」と指摘。6月の文書は「いまだ多剤耐性アシネトバクターの検出が散見されます」としている。しかし、いずれも「患者死亡」については伝えていなかった。

 さらに、6月24日には全職員を対象にこの菌の対策を含む院内感染対策講習会を実施。参加者によると、院内感染について説明するだけで、深刻な事態が起きているとは伝えられなかった。講習会を欠席した職員へのビデオ講習も7月になってからだった。

 同病院のある職員は「菌の注意喚起や病棟閉鎖があり、院内感染が起きていることは知っていたが、死亡例は聞いていない。もっと早く病院全体で危機感を共有できたら対応も違ったはずだ」と語る。

 医療法の施行規則では、院内感染の委員会を設け、職種横断的に情報共有をすることを定めている。厚労省の担当者は「院内の医師や看護師らに重大性が伝わっていないのは伝え方に問題がある。情報共有が形だけになっていた可能性がある」と話している。


[朝日新聞]
http://www.asahi.com/health/news/TKY201009050001.html