俯瞰(ふかん):夜勤の科学研究と健康性、その対策の方向性 佐々木 司
2007年10月にThe International Agency for Research on Cancer(IARC)の10ヵ国24人の科学者からなるワーキンググループが「夜勤交代勤務は発がん性因子である」と認めた。それを受けて、デンマーク政府は元客室乗務員や看護師などの乳がん患者40名に対して、労災補償を決めた。
このメカニズムとしては、Light At Night(LAN)によって、夜間睡眠中に出現するメラトニンが抑制され、エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンが腫瘍を増大させるのだという。たしかにメラトニンは、概日リズムや睡眠の調整を担っているだけでなく、抗酸化作用や抗腫瘍作用のあることが報告されているから、その可能性は大きいものと思われる。
まだまだこの知見に対して、科学的には賛否両論があることは認めざるを得ないが、昨年8月に行われた第19回国際夜勤交代勤務と労働時間シンポジウム(ベネチア)でスウェーデンの Knutsson がこれを支持する報告をしていることや、ノルウェーの Pallesenらやドイツの Pesch らの研究などを踏まえると、研究者の間では肯定的な知見といえるだろう。
そもそも近年、夜勤交代勤務研究において疫学研究の成果が素晴らしいことは特筆される。その理由は、諸外国では、とりわけ夜勤交代勤務と健康被害の疫学研究において、研究の期日が満ちて、成果に実りが出たということがある。夜勤交代勤務と消化器系疾患、循環器疾患の関係がそうだ。またわが国では、労働安全衛生法によって夜勤交代勤務者には年2回の健康診断が義務づけられているという強みがある。たとえばこの強みによって Morikawaらの夜勤交代勤務と糖尿病、Kuboらの前立腺がん、そして Swazonoらの高血圧の知見が生まれたとみてよい。今後、夜勤交代勤務の健康被害に関する疫学研究は、より一層、研究方法のバイアスを除く形で精緻化されるだろう。
一方で、フィンランドの H..arm..a らによると、EU 諸国では、すでに9~17時の「まともな」時間に就労している労働者は、全労働人口15%にすぎないという。その傾向は、わが国でも同様である。なぜなら株のトレーダーやコールセンターのオペレーター、ATMの保守を行うシステムエンジニアなど、これまで夜勤交代勤務「制度」ではない形で夜間に働いている労働者が増えているからである。
そこで労働科学の研究者には、今後、上述した疫学的な知見とは別に、これらの新しい夜間労働者にどう具体的な対策を講じるかの研究が求められるに違いない。たとえば彼ら/彼女らのライフステージを考慮したState要因や、Trait 要因に即した対策、さらには健康生成論に立脚した対策が進められていくだろう。
(ささき・つかさ=労働科学研究所・慢性疲労研究センター長)
〈引用文献〉 1)Lancet Oncol. 2007;8(12):1065-6. 2)http:// news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/7945145.stm 3)Am J Epidemiol. 1987;125(4):556-61. 4)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):109-20. 5)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):134-41. 6)Scand J Work Environ Health. 2005;31(3):179-83. 7)Am J Epidemiol. 2006 15;164(6):549-55. 8)Hypertension. 2008;52(3):581-6. 9)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):81-4. 10)Sleep 2004 27;423-433. 11) Curr Biol. 2007 3;17(7):613-8. 12)アーロン・アントノフスキー. 有信堂. 2001.
労働の科学 特集:知っておくべき夜勤の健康影響 ~その最前線~
≪慢性疲労、ふらふら日記≫
http://blogs.yahoo.co.jp/masanori_0503/folder/786220.html
2007年10月にThe International Agency for Research on Cancer(IARC)の10ヵ国24人の科学者からなるワーキンググループが「夜勤交代勤務は発がん性因子である」と認めた。それを受けて、デンマーク政府は元客室乗務員や看護師などの乳がん患者40名に対して、労災補償を決めた。
このメカニズムとしては、Light At Night(LAN)によって、夜間睡眠中に出現するメラトニンが抑制され、エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンが腫瘍を増大させるのだという。たしかにメラトニンは、概日リズムや睡眠の調整を担っているだけでなく、抗酸化作用や抗腫瘍作用のあることが報告されているから、その可能性は大きいものと思われる。
まだまだこの知見に対して、科学的には賛否両論があることは認めざるを得ないが、昨年8月に行われた第19回国際夜勤交代勤務と労働時間シンポジウム(ベネチア)でスウェーデンの Knutsson がこれを支持する報告をしていることや、ノルウェーの Pallesenらやドイツの Pesch らの研究などを踏まえると、研究者の間では肯定的な知見といえるだろう。
そもそも近年、夜勤交代勤務研究において疫学研究の成果が素晴らしいことは特筆される。その理由は、諸外国では、とりわけ夜勤交代勤務と健康被害の疫学研究において、研究の期日が満ちて、成果に実りが出たということがある。夜勤交代勤務と消化器系疾患、循環器疾患の関係がそうだ。またわが国では、労働安全衛生法によって夜勤交代勤務者には年2回の健康診断が義務づけられているという強みがある。たとえばこの強みによって Morikawaらの夜勤交代勤務と糖尿病、Kuboらの前立腺がん、そして Swazonoらの高血圧の知見が生まれたとみてよい。今後、夜勤交代勤務の健康被害に関する疫学研究は、より一層、研究方法のバイアスを除く形で精緻化されるだろう。
一方で、フィンランドの H..arm..a らによると、EU 諸国では、すでに9~17時の「まともな」時間に就労している労働者は、全労働人口15%にすぎないという。その傾向は、わが国でも同様である。なぜなら株のトレーダーやコールセンターのオペレーター、ATMの保守を行うシステムエンジニアなど、これまで夜勤交代勤務「制度」ではない形で夜間に働いている労働者が増えているからである。
そこで労働科学の研究者には、今後、上述した疫学的な知見とは別に、これらの新しい夜間労働者にどう具体的な対策を講じるかの研究が求められるに違いない。たとえば彼ら/彼女らのライフステージを考慮したState要因や、Trait 要因に即した対策、さらには健康生成論に立脚した対策が進められていくだろう。
(ささき・つかさ=労働科学研究所・慢性疲労研究センター長)
〈引用文献〉 1)Lancet Oncol. 2007;8(12):1065-6. 2)http:// news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/7945145.stm 3)Am J Epidemiol. 1987;125(4):556-61. 4)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):109-20. 5)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):134-41. 6)Scand J Work Environ Health. 2005;31(3):179-83. 7)Am J Epidemiol. 2006 15;164(6):549-55. 8)Hypertension. 2008;52(3):581-6. 9)Scand J Work Environ Health. 2010;36(2):81-4. 10)Sleep 2004 27;423-433. 11) Curr Biol. 2007 3;17(7):613-8. 12)アーロン・アントノフスキー. 有信堂. 2001.
労働の科学 特集:知っておくべき夜勤の健康影響 ~その最前線~
≪慢性疲労、ふらふら日記≫
http://blogs.yahoo.co.jp/masanori_0503/folder/786220.html